劉義真2 長安父老らの嘆願

劉裕りゅうゆうが帰還しようかという時、

長安ちょうあん周辺で指導者的立場にある者たちは

劉裕の滞在する屋敷の門にまで出向き、

劉裕に対して涙しながら、言う。


「長安に残された民が

 帝の威光に浴せぬまま、

 百年が経ちました。


 そこに劉裕様が現れ、

 我らを解放してくださいました。

 皇帝陛下のご威光に浴する光栄も、

 やがて得られるのだろう。

 そう考えておったのです。


 かん皇室の御末裔である劉裕様にとり、

 長安にある十の陵はご先祖様の墓、

 咸陽かんようにある広大な宮殿は

 あなた様のお屋敷とも

 呼べるではありませんか。


 これらを討ち捨て、

 どこに行かれようというのですか?」


彼らの様子を劉裕はあわれみ、

慰めるように、言う。


「朝廷よりのご命令なのだ。

 それを無視し、留まることは出来ん。


 あなたがたが陛下のご威光のもとに

 収まりたい、という思いは

 よくわかった。


 いま、この地には

 私の次男を残しておこう。

 次男には文武賢才と協力し、

 この地を堅守させることを約束する」


帰還にあたり、

劉裕は劉義真りゅうぎしんの手を取り、

王脩おうしゅうに引き渡す。

一方、王脩には

息子の王公孫おうこうそんの手を取らせ、

劉裕に引き渡させる。


劉義真にはさらに

加節も載せられる。官位は

督并東秦二州、

司州之東安定新平二郡諸軍事、

領東秦州刺史。

まぁ要するに、この官位は

実質王脩の職務領分である。


関中や隴上にいる

流遇の人たちの願いと言えば、

劉裕と言う英雄の手によって、

故郷に戻りたい、と言うもの。


だがここにきて

劉裕が東秦州ひがししんしゅうを設置。


関中の指導者衆は気付く。

あっこれ劉裕、これ以上

西に攻める気もなければ、

関中どうこうする気ねえ。


彼らはみな、ため息を

禁じ得ないのだった。




高祖將還,三秦父老詣門流涕訴曰:「殘民不沾王化,於今百年矣。始覩衣冠,方仰聖澤。長安十陵,是公家墳墓,咸陽宮殿數千間,是公家屋宅,捨此欲何之?」高祖為之愍然,慰譬曰:「受命朝廷,不得擅留。感諸君戀本之意,今留第二兒,令文武賢才共鎮此境。」臨還,自執義真手以授王脩,令脩執其子孝孫手以授高祖。義真尋除正,加節,又進督并東秦二州、司州之東安定新平二郡諸軍事,領東秦州刺史。時隴上流人,多在關中,望因大威,復得歸本。及置東秦州,父老知無復經略隴右、固關中之意,咸共歎息。


高祖の將に還ぜんとせるに、三秦の父老は門に詣で流涕し訴えて曰く:「殘民の王化に沾ぜざること今に於て百年たらん。始め衣冠を覩、方に聖澤を仰がんとす。長安の十陵、是れ公が家の墳墓にして、咸陽の宮殿數千間は、是れ公が家の屋宅なれば、此を捨て之に何ぞを欲せんか?」と。高祖は之が為に愍然とし、慰め譬いて曰く:「朝廷より命を受かば、擅留したるを得ず。諸君の戀本の意を感じたれば、今、第二兒を留め、文武賢才に令し共に此の境を鎮ぜしめん」と。還ぜるに臨み、自ら義真が手を執りて以て王脩に授け、脩に令し其の子の孝孫が手を執らしめ以て高祖に授く。義真は尋いで正、加節を除せられ、又た督并東秦二州、司州之東安定新平二郡諸軍事,領東秦州刺史に進む。時に隴上の流人は多く關中に在らば、大威に因り、復た本に歸したるを得んと望む。東秦州を置きたるに及び、父老は復た隴右を經略し、關中を固むるの意無かりたるを知り、咸な共に歎息す。


(宋書61-2_政事)




長安の父老たち? あの、そばに司馬徳文しばとくぶんさんもいらっしゃるんですから、もう少しものの言い方には晋を立てる方向でですね? 一応そんな感じでで訳しましたけど、まぁどストレートに「劉裕様が皇帝として長安を守ってくれると思ったのに何だよちくしょう!」ですね……


王脩とのやり取りには人質交換っぽさも臭わせていますね。思ったよりも対等に近かったのかも。けど南朝至上意識はあるだろうから、今さら長安の大物に権威なんか感じない劉義真の取り巻きらは、平然と殺してしまった。蛮族ってやーね……まぁけど蛮族を殺しにかかるのはより強い蛮族と言う事で話がスッキリしますね! 世界は今日も平和だ! そうでもないな!

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