第232話 メイド服

文化祭で出店が決まった我らが2年C組の実行委員である小堂衣菜おとういなと僕の2人は安易に『メイド喫茶』に決定させたことを後悔していた。


後悔と言っても、別にメイド喫茶をやる事自体には後悔はあまりない。

メイド服を着る事に関してはあまり気が進まないが、それを差し引いても『みんなで文化祭に出店する』というのが自分の中でかなり楽しみになっているのがその理由だ。


では僕達が一体、何に後悔していたかと言うと……


「「………」」


「お客様、何かお困りですか?」


「い、いえ!?何も!?」


「そ、そうですか…?

ではごゆっくり〜」


声をかけられ露骨に動揺する僕達に、店員さんは苦笑いを浮かべながら店内の巡回に戻って言った。


──そして、そんな小堂さんの手には1着だけメイド服の入ったカゴが持たれていた。


はっきり言うと……そう。

僕達は今、メイド服を買うのを躊躇っていたのだ!


「や、やっぱり帰ろうよ!

さすがに1着だけ買うのって怪しくない!?

絶対変な風に見られるよ!」


「でも、ここで買えなかったらもうネットショッピングくらいでしか……」


ネットショッピングでメイド服を買おうものならそれはもうものすごい値段になる。

それに比べ、このお店のメイド服はというと、非常に安いのだ。


元々は男女それぞれで5着ずつを買う予定だったのだが、意外にも在庫が少なく残り1つ。


残りはネットでショッピングすることは確実となったのだが、せめてこの1つだけでも買っていこうとなったところで僕達は気づいてしまったのだ……


『メイド服を2人で買いに来た男女って、傍から見ればヤバいのでは?』


確かに数着まとめて買っていったのなら、学校の制服を着たままで来た僕達に対しては「何か学校のイベントとかに使うのだろう」くらいのイメージしかないだろう。


しかし、1着ともなれば別だ。

完全に、2に見られてしまうのだ。


僕達は心の中で、

「なんでメイド喫茶なんだよぉ!!!

普通に喫茶で言いじゃん!?

普通のウェイトレスの格好でいいじゃん!!!!」

と叫んでいた。


そして……


「ま、また明日来てみようよ?

もしかしたら入荷されるかもしれないし……」


「そ、そうだね!

うん!そうだよね!帰ろう!」


こうして、僕達は唯一付近でメイド服が売られていたお店から脱出することになった。



後に、10着全てがネットショッピングにより購入されるというのは、また別の話だ……

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