第114話 やるだけは

「──いきなり本題から言わせてもらうと、合唱コンクールの伴奏を心夏にやって欲しい」


静かな室内にロータスさんの声が響きます。


「無理ですよ……

私、ピアノなんて弾いたことありませんし……」


「分かってる。でも、私は心夏しかいないと思う」


「どうしてですか…?」


同じクラスの別の人だってスタートラインは私と同じはずです。


「心夏は器用だし、物覚えもいい。

それに、ちゃんと努力できる人だから」


「でも──」そんな言葉はロータスさんの真剣な眼差しで喉の奥に押し戻されます。


「私も心夏ちゃんがいいと思う。私も推すからにはちゃんと協力するよ?」


確か、葉柚さんは去年の合唱コンクールの伴奏者ですし、とてもピアノは上手だったと思います。


「心夏が嫌なら強制はできません。でも、私は心夏に弾いてほしいと思っています」


「やるだけは、やってみたいと思います」


「本当に!?」


「はい、本当です」


葉柚さんと、ロータスさんがここまで言ってくれているのです。やらない訳にはいきません。

それに、この2人も教えてくれると言ってくれているのですから、完璧とまでは言えなくても何とか形には出来ると思います。


「ありがと!心夏!」


ロータスさんは私にギュッと抱きついてきます。


──ちょ、ちょっと苦しいです……

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