第110話 簪さんのとある日の平日③

「──以上で、明日の連絡は終わりだ。もう帰っていいぞー」


その先生の声で、さっきまでは静かだったクラスは一気に騒がしくなる。

友達同士でどこに行くか話ている人、一緒に帰らないかと誘う人、部活に向かう人。


私はそんな人達に目もくれず、1人教室をでて図書館に向かう。未瑠や彩はそれぞれ部活動に所属しているから放課後は基本私1人、でも家に帰ってもやることがないという今日のみたいな日はこうして図書館にやってきて暇を潰しているのだ。


ガラガラガラ……


扉は今にも壊れそうな状態で、図書館の中もほとんど人は立ち入らないためそこまで綺麗というわけではない。


私は適当に数冊本を選んで、1番隅の椅子に座って読書を開始した。




「………きて」


「……」


「……おきて」


「…んんっ……」


「起きろー!」


「ひゃっ!」


聞き覚えのある声が2つ。顔を上げると、ニコニコ顔の彩と笑いを堪えている未瑠がいた。


「おはよーひよりんっ」


「ひゃっ!って……ふふっ…可愛いかよ……」


「私いつの間に……

というか、2人はなんでここに?」


2人は運動部だし、放課後に校舎に入ることなんてほとんどないはずだ。


「いやさ?男子が、図書館に天使がいるとかわけ分かんないこといってたからもしかしたらひーちゃんかなって思って」


「天使は冗談でしょ……」


「いや?実際、すごい可愛い寝顔だったよ。ね、彩?」


「うん!」


「はぁ……。まぁそういうことでいいよ」


私はポケットのスマホを取り出して時間を確認すると、もう7時になっていた。


「よし!じゃあひよりんも起きたことだし、久しぶりにみんなで帰ろー!」


「ひーちゃーん。早く準備しないと置いてくぞー」


「ちょっ。まってよ」


「待ちませーん。おっさき〜」


未瑠は私の準備が終わったのを見て、図書館から先に飛び出して行った。


「あ、ちょっと!」


「なるほど、鬼ごっこってことだね!負けないよ〜!」


「彩までっ!まてぇ〜!」


そしてこの後、私たちは先生に「廊下を走るな!」と言われて捕まり、翌日の放課後に中庭の草抜きを命じられることになるのだった。

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