第22話
「自習の時間にね、杏子ちゃんが転校してきたときの話を博也としてたんだ」
「それはまた、ずいぶんと懐かしい話を……」
「それってあれだよね、降旗さんが博也君の頭を出会ってすぐに撫でまわしたって話でしょ」
——時は昼休み。
降旗が美術科の教室にまたまたやってきて、一緒に昼食タイム。
調理実習で作ったというホットビスケットを俺達に差し入れてくれた。
「撫でまわしたっていうか、フツーに撫でただけ。博也、一人だけ茶髪で目立ってたから目に入ったの。なんかうちのダックスに雰囲気似てるなって思って」
たしか杉並は自習の時間、机に顔を伏せて死体のように眠っていた筈なんだが……途中で起きてたのか?
「杉並、俺と歩美の話聞いてたんだな」
「うん、隣の席だし近いから、聞くつもり無くても自然にね」
「悪いな。おまえの睡眠を邪魔しちまって」
「いやいや、二人って言うよりは教室全体が騒がしかっただけだから。博也君が謝る必要は全然ないよ。そもそも、授業中に寝てる僕がいけないんだし」
——にしても、教室内に男子は少ないとはいえ、美少女三人と食事を共にしている俺を彼彼女等はどう思っているのだろう。
いつもの二人に加えて、美術デザイン科では可愛い部類に入る杉並まで一緒だからな……。
またヤマザキみたいに、俺に嫌がらせを行う男子が出てこないとは限らない。
こんなことで戦々恐々としていては、とても友達付きあいなどやっていけそうにないが。
「杏子ちゃんの作ったビスケットおいしいね。外はサクサク中はふわふわ」
「降旗さんも坂本さんと同じで料理上手なんだね!」
「まあ、なんてったって調理科だからな。上手くてとうぜ——」
「そこは、二人に続いて素直に褒めるところでしょ」
言葉を途中で遮られ、手に持ったハリセンで頭をペシッとやられた。
そんなもんどっから取り出した?
「……いてぇな、褒めてるだろ。上手くて当然だって言おうとしたんだぞ」
「それで褒めてるつもりなの? 博也のくせに生意気な物言い。調理科の生徒が誰しも料理が得意なら、美術科の博也君が絵が上手じゃないのはどうしてなのかなー?」
「わ、悪かったよ。そうだよな、俺みたいにまったくの初心者で入学したやつもいるかもしんないもんな。——それはそれとして……」
「それはそれとして?」
「そのハリセンどうしたんだ? まさか、降旗の自作?」
地味に痛かったな。なんか頑丈な紙っぽい。普通のプリントとかじゃないのは確かだな。
「何故か近くにあったから叩いてみた」
「それ僕が作ったんだー。製図の時間に時間が余って暇だったからね、ケント紙使って作ってたの」
「バレたら教師に怒られるぞ。よくあの時間帯にそんなもんが作れたな」
「えへへ。もしかして僕褒められてる? すごいでしょ」
製図の教師は前にも言ったが、とにかく厳しくうるさい。
しかも無駄に二人もいるからな、片方が教室内を闊歩し始めたらサボる暇など一ミリもない筈なのに。
「すごいっちゃすごいが、別に褒めてはいない」
……なんか、そこはかとなく嫌な予感がするな。
降旗が杉並作のハリセンを気に入ったのか、物欲しそうに見つめている。
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