第21話
「降旗を名前で呼ばない理由?」
「うん。博也も杏子ちゃんって呼べばいいのに。杏子ちゃんは博也のこと博也って呼んでるよね」
「百歩譲って名前で呼ぶにしてもちゃん付けはないわ」
それを言い出したら、杉並だって名前で呼んでくれてるんだが。
下の名前で呼んで来るやつ全員下の名前で呼ばなきゃならないのか?
たしかに、同じ時間を過ごした期間は歩美の次に長くはあるけども。
「あいつが転校して来た日のこと、覚えてるか?」
「うん。女の子だったから男の子達のテンション高かったよね。しかも、期待通りのすっごい美少女」
ああ。まだ小五ながら完璧な美しさを完備してたよな。
転校生として美少女がやってくるとか、アニメや漫画の世界にしか無いと思ってたわ。
その頃の俺って、ちょうどある人物にいたずらで髪染められてて、髪色がめっちゃ明るかったんだよな……。
降旗いわく、薄茶色の髪が飼ってたミニチュアダックスフンドにそっくりだったらしい。
軽い自己紹介を終えた降旗が向かったのは、指定された席ではなく俺の座ってる席の真ん前。
いきなり頭を撫でられた時は、いったい何が起こったのか理解出来なかった。
呆気にとられて上を見上げれば、そこには当然美少女の顔がある。
近くで見ると、より一層可愛さが増して見えたっけ。
それから降旗はしょっちゅう俺の頭を撫でにくるようになったんだけど、別の男子達の嫉妬がヤバかった。
染められた髪が元の色に戻ったときは、残念そうな顔されたなー。
しょんぼりしてる降旗を見兼ねて、一度だけ自分で髪を染めたことがある。
そしたら案の定、打って変わって元気を取り戻した。
「俺があいつを杏子と、下の名前で呼ばない理由のひとつに、名字がやたらかっこいいという理由があってだな」
「うんうん。そうだね。初めて聞いたとき、降旗って名字は私もかっこいいと思ったよ」
「だろ。俺みたいな超が付くほどありきたりな名字のやつからしたらさ、降旗みたいな珍しい名字は憧れの的なんだよ。最初見たとき、名字から名前までしゃれてやがると驚いた覚えがある」
「なるほど。博也は杏子ちゃんの名字と名前が羨望しちゃうくらい好きなんだ。たしかに、博也の名字は決して珍しいとは言えないもんね」
「とまあそういうわけでな、俺は降旗を降旗って呼ぶのが好きなんだよ——それに、今更杏子って呼ぶのも変な感じしね?」
「そうかなぁ……杏子ちゃん、喜ぶと思うけど」
「そうかぁ? 俺には『急にどうしたの? 気持ち悪いんだけど』と冷たい眼差しを向けられる未来しか想像ができないんだが」
せっかくの自習の時間に俺達二人はなんて話をしてるんだ。
教師不在をいいことに周りのやつらがくっちゃべっていて、休み時間みたいな状態になってるから誰にも聞かれてはいないと思うけど。
降旗、教室に入って来て自己紹介するとき、すげぇ暗い表情してたんだ。
落ち込んでるような凹んでるような……今にも泣いちまいそうな。
——だから俺と目が合って、断然表情が明るくなったときは、ちょっと安心したな。
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