第19話

俺への迷惑行為に猪突猛進していたヤマザキという生徒の話を少しだけしよう。

どうやら奴は俺だけでなく、別の気に入らない生徒にまで嫌がらせを行なっていたらしい。

それがなんらかの形で露呈したのかどうかは不明だが、知らないうちに停学をくらっていた。

あいつが学校に登校していないのだから当然だが、イタズラの数々がピタッと止まり平穏な日常が戻ってきた。


「朝昇降口に来て普通にサンダルが履ける喜び。まさか、こんなあたりまえで普通なことが幸せに感じる日が来ようとは夢にも思わなかったな」


「ああ……たしかにそうだよね……朝からイタズラはやめてほしいよね。するならせめて、忙しくなくて余裕のある昼休みとかに———」


「俺は昼休みでもしてほしくないけどな」


昼休みは心と体を休められる貴重な時間だ。

昼飯を食える唯一の楽しみな時間と言ってもいい。

ただでさえ課題課題の地獄の毎日を味わってるんだ。

その上、誰かさんのイタズラまでプラスされたら体がもたない。


———さて、一時間目は国語か。


美術デザイン科に所属していながら、俺は美術やデザイン絡みの授業が苦手———いや、なんだ。

まだ国語や英語の授業の方がマシに思えるくらいにはな。

そもそも、絵だけひたすら描いてりゃそのうち卒業できるものと勘違いをしていたくらいだ。作り物や製図まで含まれるなんて聞いてない。入学前によく確認するべきだった。

こんなにもやることの多い面倒な科だってわかってたら入学しなかったかもしれない。

俺以外にもいるんじゃないか?

例えば、漫画やアニメが好きで絵の勉強がしたくて入りました。作り物の授業があるなんて聞いてませんってなぐあいな奴が。


「歩美、国語の教科書忘れたから見せてくれ」


「もちろんいいけど……博也っていつも置き勉してなかったっけ?」


「ヤマザキの件があったからな。用心のために最近は持ち帰ってたんだよ」


やっぱ置き勉が最強だよな。授業に必要な物を忘れることがない。

歩美が居ればどうせ見せてもらえるし、あまり気にすることでもないが。


——そういや、小学校では隣の席の相手と机と机をくっつけてたよな。


いつからだっけ。机同士をくっつけないようになったのは。


そんなどうでもいい些細なことを思考しながら、自分の机を歩美の机とぴたっとくっつける。

まあ、無理に離す必要はないんじゃないか。

女子と机をくっつけてると茶化されそうだが、ここに俺を茶化すような人物は存在しない。






































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