第18話

四日連続の遅刻の件は、歩美が教師に事情を話したら取り消してもらえたらしい。

歩美がそう言うんだから間違いない。信じてもらえたようで良かった。


「博也がいじめられてるんじゃないかって、先生が心配してたけど……」


「ほう、それで、なんて答えたんだ?」


歩美の返答次第では面倒なことになるな。

教師が俺を職員室に呼び出して、色々と事情を聞いてくるのは勘弁してもらいたい。


「本人にいじめられている認識は微塵も無いみたいなので大丈夫ですって」


「さすがは歩美だ。俺のこと本当によく理解してくれてる。そういうとこめちゃくちゃ好き」


「私も博也のこと好きだよ。小学校の頃からこういう嫌がらせ日常茶飯時だったけど、全然挫けなかったよね。いつもけろっとしててかっこよかった。相手にやり返そうともしないし」


張り合いないと判断されたのか、相手側がそのうちなんもしてこなくなるんだよな。

今回もそうなるといいんだが。


「やり返しても無駄だからな。そもそもが、やり返すのがめんどい」


現在俺と歩美は移動教室のため、デザイン棟に向かって廊下を歩いてる。

また一つ問題が発生した。今度は授業で使う絵の具ボックスが消失して跡形も無くなっていたのだ。

絵の具や筆は歩美に借りればなんとかなるが、迷惑なことに変わりはない。


「今回も何もしないで静観するつもり? ひたすら堪えるだけ?」


「今のところはそうだな。特に行動に移すつもりはない」


歩美や降旗と一緒にいると、他のやつらから妬まれるのはいつものことだ。

いちいち向かってくるやつ全員相手にしててもキリがない。

物を隠す程度の嫌がらせなら、俺にとっちゃ屁でもないんだよな。

悪質なやつはとことん悪質だし。それに比べたら可愛いもんだ。


「それに、いい加減あいつもわかってきたんじゃないか? 俺に対して悪さをするのがどれほど無意味かってのが」


バレバレなんだよ。

ヤマザキの野郎、空いた時間にこっそり様子見に来てやがる。

俺達がデザイン棟二階で油絵やってる時間、一組は製図の授業でデザイン棟三階にいる。

休み時間に階段を降りて、二組の様子を見るのは簡単だからな。

大して困っていない俺の姿を見りゃ、これまでやってきた自分の行いが骨折り損だったと気付くだろう。

俺に何かあれば歩美は全力で俺の味方になってくれる。

おまえは教室の窓から俯瞰してたよな。歩美が俺のために脚立を借りてきたところを。

おまえは物陰に隠れてこっそり覗いてたよな。歩美がゴミ箱に捨てられていた俺のスリッパを綺麗に洗っているところを。


そろそろ気付け。

おまえは俺に迷惑をかけてるんじゃない。

おまえが振り向いて欲しいと思ってる迷惑をかけてるんだ。










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