第13話 妹と結ばれる同盟成立!
「お姉ぇが『塩足りん、塩足りん』てドタバタしとるの気いとられて煮過ぎてしもうたんや」
「あはは、それあたしもあるよぅ。オーダー作り間違えて慌てるお姉ちゃん見て、わたしも盆からお冷落としたりして」
「ぴゃはは、お互いぞろいな姉を持つと苦労するのう」
うう~、ふたりとも自分のお姉ちゃんをやり玉に挙げて盛り上がってる! 何か悲しいよー、って、いぶきさんがこっちこっちと手招いてる。
招かれるままカウンター奥の扉に入った。
そこは倉庫のようで、ビニール袋に密閉された節の塊、干し物、煮干しが棚に置かれていた。
「あのー……」
声を掛けたら扉を閉めるよう手でジェスチャーしてきた。
こ、これ閉めたら密室になるんですけど。
いい人っぽいけど実際は会って一時間も経ってないし、何する気だろ?
も、もしかしていり子ちゃんという妹だけじゃ満足できないから、わたしに手を出す気ー?! やばいんですけどー! いぶきさんのムッキンな筋肉じゃわたし、口塞がれて押し倒されたら成す術なしですけどー!
初めての百合プレイを想像、足をガクガクさせてたら、いぶきさんがこう尋ねてきた。
「この島に来たってことは、あの可愛いちいゆちゃんと百合カップルなんやろ?」
え? そ、そうだけど……じゃなくて、まだその……。
「ふふ、まだ結ばれてはいない。それどころか百合でもないちいゆちゃんにこの島の秘密も教えんで連れてきた、ってとこなん?」
ひぃっ! 何この人エスパー?
思いつつ、こくりと頷いた。
「不思議そうにしとるけど、あんたの顔見ればわかるけん。ここは私が協力してあげるけんよ」
真っ白い歯をみせてニッと笑みを浮かべた。
「え? いいんですか?」
「ええも何も、お店で迷惑かけたけん。こん位手伝わせとってや」
さっきまでこちらを押し倒す百合マッチョに見えたいぶきさんが、頼りになる百合マッチョに見えた。
「どう進めていけばよろしいか、なにとぞご教授をー!」
「でへへ、照れるけんよ。そやなー、ここは私がいり子と結ばれたやり方を教えるけん。まずは」
「はいはい!」
「事あるごときにスキンシップや、これで触られることに抵抗がなくなるけん」
「そ、それは実践済みです」
「なんやそうなんか、なら次は一緒にお風呂へ入るのを習慣にすることやな。背中を流しっこまで行ったら上出来やね」
「あのー、昔から一緒に入って背中の洗いっこもしてます……」
「結構やっとるやないか。なら次はハードル高いで。同じ布団で毎日寝ることや。これが上手くいったらもう百合関係成立したようなもんや」
「あ、あのー、島に来てから毎日一緒に寝てますけど……」
秘境のアマゾネスみたいに腕を組んでいたいぶきさんが両腕を広げ、目を見開いた。
「何でや!? 何でそこまでいっとるのに百合関係ならんけん?」
「し、知りませんよー」
「なら、ほっぺにチューや! これを毎日出来れば百合関係成立や」
え? 何その成立条件。
「いぶきさん」
「なんな?」
「いり子ちゃんと結ばれてるんですよね?」
「でへへ、そ、そうやの」
「ということはその、キスしたり……その、毎晩裸で抱き合って寝たり」
背中に水鉄砲をくらったように、いぶきさんが飛び上がった。
「そ、そそ、そんなこつ! いり子はまだ十六やで!? そういうのはハタチんなってからや!」
わたしも奥手だけど、いぶきさんはその上を行ってるー!
「いぶきさん、もしかしていり子ちゃんと結ばれたっていう話、ほっぺにチューしたから結ばれた……とかじゃないですよね?」
「ハタチ前はそれで結ばれたいうんや」
目の前の助っ人百合マッチョが途端に頼りない百合マッチョに見えてきた。
「いぶきさん、いり子ちゃんがハタチになるまでの四年間、ずーっとほっぺにチューだけしてるつもりなんですかー?」
「当たり前や、いり子も毎晩それで満足しとるで」
「今はそうかもしれませんけど、いり子ちゃんだって成長するんですよー。どんどん物足りなくなっていくと思うんですけど……」
「なに言ってるんな。そんなこつ……」
いぶきさんがびっくりするような素早い動きでこちらに来ると、泣きそうな顔をグイと近づけてきた。
「こ、ここ最近、ほっぺにチューした後に溜め息吐くんや! それってまさか」
「も……物足りなくなって来てるんです……ね」
かなりビビって逃げ腰になってしまったけど、そう答えた。
「ど、どうすればええんな?」
こちらの手を握って来た。
その手は見た目に反してすべすべ柔らかかった。
「え、えーっとその……」
何この展開ー! 協力してあげるけんよ、とか言ってたのいぶきさんでしょー!
「とりあえず、策を出し合いませんか?」
「策?」
「お互い妹と結ばれる策を出しあうんです」
「そ、それはええ考えや!」
いたたたっ! そんなに握られたら痛いんですけどー!
「どうです、今夜いっしょにお店に行って、ご飯食べながら策を練るっていうのは?」
「そりゃあ、ええね」
こうしてわたしといぶきさんは、自分の妹と結ばれる為の同盟を結んだのだった。
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