第470話 最終クエスト
というわけで、我らがアルティメット・ヘズラトボンバーズの面々は、無事にテンペストボアを討伐してから帰還した。
なんでも戦闘中スカーレットさんは、思うがままにテンペストボアをばっこんばっこん殴ってきたらしい。
そしてジスレアさんは、そんなスカーレットさんを回復しつつ、弓や魔法で砲撃していたらしい。
最後にクリスティーナさんは、そんなジスレアさんを守りつつ、隙を見付けては剣でザクザク斬撃を加えていたらしい。
なるほどなぁ。なんだか良いバランスに思える。良いパーティな気がする。
いやはや、憧れてしまうね。いつか僕もみんなと肩を並べて戦いたい。みんなと
そんな感じでテンペストボア戦の話を楽しく聞かせてもらい、僕が珍しく真っ当な向上心を抱いていたところ――おもむろにジスレアさんが別の話題を振ってきた。
「それで、アレクに少し話したいことがある」
「はて、なんでしょう?」
「宿に戻る前、ギルドで聞いた話。なんでも王都の近くで――テンペストボアと似たようなことが起きているらしい」
「似たようなことですか?」
「今回のテンペストボアと似たようなこと」
「えっと、それはつまり……なんか強いモンスターが現れたと?」
「そうらしい」
むう……。何やら立て続けに緊急クエストだな。
しかし王都か。王都となると、結構な
「ギルドの受付でテンペストボアの討伐を報告したとき、『王都の方も、なんとかなりませんかねぇ……』みたいなことを言われていた」
「そうでしたか、そんなことが……ん? 言われていた? ジスレアさんが言われたわけじゃないんですか?」
「スカーレットが言われていた。スカーレットに
「ほう、救援要請ですか」
そう聞いて、スカーレットさんに視線を移すと――
「むーん……」
ちょっと気まずげなスカーレットさん。
はて、これはいったいどういう状況なのか。
「その救援要請というのは、私のパーティからなんだ」
「というと、人界の勇者パーティですか?」
「うん。人界の勇者パーティ――『紅きスカーレット』」
「はい?」
「紅きスカーレット」
「……パーティ名ですか?」
「そう」
なんてスカーレットさんの自己主張が激しいパーティ名なのだろうか……。
というか、『頭痛が痛い』みたいな文章になっていない?
「だから依頼とは少し違くて、『ちょっと手伝ってほしい』ってことを私に伝えてきた感じかな」
「はー。ギルドの連絡網を使って伝えてきたわけですね? しかし、どうやら以前から伝えられていた話のようですが?」
「うん。そこそこ前から……大体一ヶ月くらい前からかな?」
「一ヶ月前ですか……?」
ずいぶんと長い間放置していたんだな……。
緊急クエストを一ヶ月放置か……。
「だんだんと文面が変化していったかな。最初は『できたら一度戻ってきてほしい』くらいだったのだけど、『早く戻ってこい』とか、『お前ふざけんなよ?』みたいな感じに変わっていった」
紅きスカーレットのメンバーには、だいぶ口が悪い人がいるようで……。
でもまぁ、一ヶ月も放置されたらそうなるか……。
「それで、その要請とはどんな内容なのでしょう? どうやら王都の近くにモンスターが出たとのことですが」
「王都の近くの山に、竜が出たらしい」
「竜ですか」
「邪悪な竜が」
「…………」
何そのラスボスみたいの……。
え、大丈夫なの? 王都の近くなんでしょ? 王都の近くに邪悪な竜が出ちゃったの?
……やべぇな。今回のテンペストボアよりもだいぶ
「その邪悪な竜とは――」
「そんな邪悪な竜が、いっぱい集まっているらしい」
「…………」
邪悪な竜が、いっぱい……。
やべぇ……。もはやラスボスやら最終クエストどころの騒ぎではないかもしれん。
エンディング後の裏ボス。あるいは高難度
「とりあえず、スカーレットは王都に行った方がいい」
「む、そうは言うがジスレア……」
「赤いなんとかのメンバーは私も知っているし、全員が優秀な冒険者であることも知っている。おそらくスカーレット抜きでも余裕だとは思うけど――」
「それはそれで、少し複雑」
「それでも戦力的に、スカーレットもいた方がいいに決まっている。行った方がいい」
「むーん」
まぁそうだよね。なにせスカーレットさんは人界の勇者様。人界の最高戦力だ。今こそその力を発揮するときだろう。
というか、むしろもうちょっと早く発揮した方がよかった気もする。一ヶ月も放置せんで、もうちょっと早く。
「そういうことでしたら、スカーレットさんは離脱していただいて――」
「だがアレク君、私が王都へ向かったら――このパーティはどうなる?」
「はい?」
「アルティメット・ヘズラトボンバーズは、どうなる?」
「どうなる……?」
どうなるかって聞かれても…………たぶんどうもならん。
ここ一ヶ月ほど、大した活動はしていないし……。今回のテンペストボアを除けば、三日に一度薬草を引き抜いてくるくらいで、他には何も……。
そもそも人界の勇者様を、こんなにも無駄に拘束していたことが間違いだったのかもしれん。今更ながら、なんかちょっと反省してしまう。
「えぇと、とりあえずこっちは大丈夫だと思うのですが……」
「しかしなアレク君、私も私で、このパーティでやりたいことがまだまだたくさんあるんだ。まだ町のダンジョンにも行っていないし、薬草の見分け方もマスターできていない。もっといろんな依頼をみんなで達成したいし、せっかくならアレク君がEランクに到達する瞬間を見届けてあげたい」
「それは……」
「――私だって、アルティメット・ヘズラトボンバーズの一員なんだ」
おぉ……。なんだか妙にこのパーティに愛着を持っておられる……。
うん。ありがたいことではある。その気持ちはとても嬉しい。
「それに、アレク君はギルドポイントを獲得するため、変わった作戦をいろいろと考えているようじゃないか」
「あー、そうですかね。まぁいろいろと……」
「それも是非見届けたい。きっと、だいぶ面白いことをたくさんするに違いない」
その期待のされ方はどうなの? どういう意味で言っているの? それは喜んでいいことなの?
「私が王都に向かったら、その間にアレク君達は私抜きで面白いことをいろいろとこなしてしまうのだろう?」
「面白いことってのは、どういう……」
「それはズルい」
ズルいって言われてもな……。
「しかしスカーレットさん、どうやら王都の方も大変な状況らしいですが……。なにせ邪悪な竜がいっぱいなのですよ? それをこれ以上放置するのは……」
「むむむ…………あ、そうだ。アレク君達も付いてくるのはどうだろう?」
「……はい?」
「うん。それがいいんじゃないかな? アレク君も王都に来たらいい。みんなで一緒に行こう。そして、みんなで一緒に――邪竜の群れを倒そう」
「えぇ……?」
僕も王都に行って、邪竜の群れを……?
町の近くのテンペストボアですら戦力外だったのに、遠く離れた王都まで邪竜の群れを倒しに行くの……?
えっと、どうなんだろう……。
それはどうなのか。これからいったいどうなるのか……。結局今回も普通に戦力外の流れな気もするけど、果たしていったい……。
next chapter:VS邪竜の群れ
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