第427話 ギルドカード
お金は受け取ってくれなかったけれど、それでも付いてきてくれるということで、僕はクリスティーナさんと一緒にギルドの受付へ向かった。
「いやー、楽しみですねぇ。なんだかんだ楽しみです」
「ん、そっか」
「カードを取得したら――それはつまり冒険者ってことですよね?」
「まぁ、そうかな?」
「ですよね、やっぱりそうですよね」
そうかそうか、ついに僕も冒険者か。
この世界に転生してから十八年。ついに僕も、冒険者としての第一歩を踏み出すわけだ。
思えばここまで、ずいぶんと時間が掛かってしまった気がする。
ギルドに来て、ガラの悪い冒険者に絡まれたりしながらも、ギルドカードを作り、冒険者になる――これらのイベントなんて、作品によっては第一話目から取り掛かるようなイベントだろう。
それが僕ときたら、ずいぶんと長い道のりを経て、ようやくのようやく……。
まぁ『転移』ではなく『転生』なので、時間が掛かるのも仕方ないことではあるのだが……それにしたって、もうちょっとサクサク進めることはできなかったものだろうか。
そんな反省――よくよく考えると、だいぶ謎な反省をしつつ、僕達はギルドの受付までやってきた。
受付にいるのは男性の受付員さん。美人受付嬢さんでないことに少しだけ思うところはあるけれど……とはいえ、この人に罪はない。負の感情はしまって、僕は明るく受付員さんに声を掛けた。
「こんにちはー」
「こん――」
「こん?」
こちらから『こんにちは』と挨拶をしたところ、受付員さんからは『こん』という挨拶が返ってきた。
なんだろう。フランクに『こん^^』と挨拶したのだろうか?
それなら僕もフランクに、『こんあれくー』とでも挨拶した方がよかったのか?
……でもたぶん違うかな。
見た感じ、この若い男性の受付員さんは髪型や服装もきちっとしていて、真面目そうな印象を受ける。省略した挨拶をフランクに使うような人には見えない。
であるならば、何故そんな挨拶になってしまったのか。
おそらくは――
「え、あの、その仮面は……?」
「ふむ……」
やはりそうだ。僕の仮面が気になって、挨拶が途中で途切れてしまったらしい。
なんだかなぁ……。なんか毎回こんなリアクションだ。
僕的には、仮面キャラってもっとミステリアスで格好いいイメージなのだけど――実際にはただの不審者扱いしかされていない。現実は厳しいなぁ……。
「気にすんな。いろいろ勘違いしてんだ」
「そうですか、なるほど……」
僕が物思いに
しかし『勘違い』とはどういう意味なのか。そして、それに納得してしまう受付員さんもまた、いったいどういうことなのか。
……まぁいいや。不問にしてくれるというのなら、僕としても不満はない。むしろ感謝しかない。
「えぇと、それで、ご用件はなんでしょう?」
「はい。ギルドカードが欲しいのですが」
「あぁはい。ギルドカードの作成ですね? 作成は初めてですか?」
「初めてです」
双方気を取り直して、カードの申請。
受付員さんの言葉を聞くかぎり、無くしちゃったりしても結構大丈夫な感じなのかな? わりと簡単に再発行できるものなのだろうか?
「では、新規作成ということで」
「お願いします。――あ、作るのに料金とかは?」
「いいえ、無料でお作りできます」
へぇ? そうなのか、無料なのか。
まぁ無料で悪いことはない。相手は男性の受付員さんだし、そもそもここで料金を支払ったとしても、受付員さんの収入になるわけでもないだろう。ならば無料で全然構わない。
「では、さっそくカードの発行――」
「――ハッ!」
「はい?」
……いかん、うっかりしていた。
僕としたことが――ギルドカードには顔写真が必要だということを、うっかり忘れてしまっていた!
どうしたものか、これはまずいぞ……。
まず一番の問題としては――この仮面のこと。
現在着用中の仮面は、どうしたらいいんだろう。
やっぱり外さなきゃだよね? でも、いいのだろうか。こんなところでおもむろに外しちゃったりして……。
あとはまぁ、まだ朝も早い時間なので、顔とかむくんでないかなって、そんなことも気になっちゃうのだけど……。
あ、それから髪もちゃんとセットしたい気持ちが……。
「なんだおい、何を焦ってんだ?」
「それが……ギルドカードって、写真付いているじゃないですか」
「写真ってなんだ?」
「おや?」
クリスティーナさんが不思議そうに聞き返してきた。どうやら写真という単語が通じないらしい。名称が違うのだろうか?
「えっと……フォト?」
「何言ってんだ?」
「むぅ……」
なんとなく英語で言ってみたのだけれど、やっぱりダメだった。
「なんて言うんですかね、顔の画? 自分の顔の画が、ギルドカードには付いているじゃないですか」
「あぁ、写し画か」
ほう? そんな名称なのか。
「見ての通り、僕は仮面を付けているのですが、その写し画ってやつはどうしたものかと」
「あー、そうだなぁ、確かに」
あと、むくみと髪をどうしたものかと……。
「どうなんだ? 仮面は取ったほうがいいのか?」
「そのままで構いませんよ?」
「そっか。そのままでいいらしいぞアレク」
「えぇ……?」
受付員さん曰く、そのままでいいらしい。……そんなことってあるの?
少なくとも前世であった免許証やパスポートの写真は、帽子やサングラスの着用なんて認められなかった。スカーフやマフラーですらダメだったのだ。
それに対し、この世界では仮面の着用が認められるという……。いいのかそれで……。
「……まぁ大丈夫なら、カード作成を進めていただけますか?」
「かしこまりました」
まぁいいや。いいならいいさ。付けたままでいいと言うのなら、そのまま始めよう。
僕は
「では、これからギルドカードを発行します。こちらの魔道具に手を置いて、魔力を流してください」
「魔道具?」
魔道具……。受付員さんの前、カウンターに置かれた黒い箱。これは魔道具らしい。
確かに気になってはいた。縦三十センチ、横二十センチほどの、大きな四角い箱だ。結構な存在感を醸し出していて、これはなんなんだろうと、ずっと気になっていた。
特に装飾も施されておらず、見ようによっては結構不気味な箱なのだけど……。
――ん? よく見ると、箱の中央辺り、何やら隙間がある。
長さが五センチ、幅は数ミリ程度のスリットだ。もしかしてこれは……。
「もしかして、この隙間からカードが出るんですかね?」
「左様でございます」
「はえー」
この魔道具に手を置いて魔力を流すと、スリットから僕のギルドカードが出てくるらしい。
すごい魔道具だ。ギルドカードを出す魔道具とは……。カードをダス魔道具……。
「では、さっそく――というか、どこに手を置けばいいんですか?」
「あぁ、カードが排出される隙間は塞がないようにお願いします。それ以外でしたら、どの部分でも構いません」
「はえー」
魔道具って、大抵は取り付けられた魔石に手を置いて魔力を流すものなのだけど、カードをダス魔道具には魔石も見当たらなかった。それで困っていたところ、触れるのはどこでもいいという。
なんだかその辺りも普通の魔道具とはちょっと違うな。さすがはカードをダス魔道具。
「それじゃあここら辺で……。では、始めますね?」
「はい、どうぞ」
適当に箱の上面辺りに手を置き、受付員さんに確認を取ってから、魔力を流すと――
「おぉ、出てきた」
「お手に取って、ご確認ください」
箱のスリットから、ギルドカードと思わしき物がにゅっと出てきた。
取っていいらしいので、スリットからカードを引き抜く。
「ふむ……」
そうして手に入れた、僕のギルドカード。
冒険者ランク:Fランク パーティ:――
名前:アレクシス
種族:エルフ 年齢:18 性別:男
職業:木工師
累計ギルドポイント:0
ギルドポイント:0
更新日:0日前
……ふむ。なるほど。
next chapter:Fラン冒険者
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