第382話 パパ活


 二度のチートルーレットを終えてから、一週間ほど経過した。

 そしてこの一週間、僕はルーレットで当てた景品の検討やら検証やらに勤しんだ。


 努力の甲斐もあり、おおよその概要は理解できたと思う。

 ただ、その過程でレリーナちゃんから怪しまれ、いろいろと危険な状態に陥ったため、レリーナちゃんにはポケットティッシュの説明をすることとなった。


 なんと話すか迷ったものの、とりあえずは――


『ちょっとしたスキルを取得して、ポケットから薄い紙――ティッシュが出るようになったんだ』


 ――と、レリーナちゃんには説明した。

 ……どんなスキルだよって、我ながら思わなくもない。


 加えてレリーナちゃんには、僕が旅から戻るまで内緒にしてほしいとお願いした。レリーナちゃんは、『二人だけの秘密だね!』と、なんだか喜んでいた。

 実際にはナナさんやらユグドラシルさんやらミコトさんやら、他にも知っている人はそこそこいるのだけど……まぁレリーナちゃんも喜んでいるし、それは黙っておいた。


 そして、そんな景品検証と並行し――世界旅行の準備にも励んでいた。

 第五回世界旅行まで、あと一週間だ。こちらもこちらで、いろいろとやることがある。


 ――その一環として、今日僕はミコトさんと自室にて言葉を交わしていた。


「世界旅行中、ミコトさんはアレクハウスのアレクルームで生活するというお話でしたが――準備自体はもう整っています」


「うん。ありがとう」


「アレクルームの物は、全て自由に使ってもらって構いません」


「そうか、それは助かるな」


 元々僕が住めるように作った家だし、基本は部屋の備品をそのまま使ってもらう形になるので、準備自体はあっという間に終わった。


「とはいえ、さすがに着替えなんかは別に用意してもらわないといけないですし、他にもミコトさんが自分で用意したい物もありますよね? というわけで――こちらをどうぞ」


「うん?」


「準備資金です」


 僕は硬貨の入った袋を、ミコトさんへ向けてずいっと押し出した。

 このお金を使って、衣類やら生活用品やらを自分で用意してもらいたい。


「ずいぶんあるみたいだけど……?」


「当面の生活費でもあります」


「生活費?」


「足りなそうでしたら、また言ってください」


「いや、えっと……」


 もちろんこれとは別に、ミコトさんへは毎月お金の援助をするつもりだ。


 以前からミコトさんへは毎月お小遣いをあげていた僕だが、実際に生活するとなると、お小遣い程度では足りないだろう。ドーンと増額する予定だ。

 ミコトさんが何不自由なく生活できるよう、最大限の援助をする心積もりである。


 遠く離れた地で生活するミコトさんを気に掛け、毎月の仕送り。――どことなく、娘を心配する父にでもなった気分だ。

 ……なんとなく『パパ活』というワードも脳裏に浮かんだが、それはきっと違うはず。そういうんじゃないはず。たぶんもっと純粋なやつのはず。


「そこまでやってもらうと、さすがに申し訳ないな。元はといえば、私のわがままで残りたいというだけだし……」


「あ、いえいえ。これは自分のためでもあるので」


「うん? アレク君のため? ……アレク君は女性にお金を渡すことに喜びを覚えると聞いたけど、そういうことかな?」


「違いますよ……」


 誰が言っているんだそれは……。

 女性にお金を渡すことに喜びを覚えるとか、そんな……。


「ミコトさんがこの世界に滞在して、どんどん強くなってくれたら、回り回って僕の力にもなるじゃないですか」


「アレク君の? あぁ、『レンタルスキル』か」


「そうですそうです。そういうこともあるので、ミコトさんは気にせず受け取ってください」


「そうか……。うん、ありがとうアレク君。私も頑張るよ」


 そう言ってミコトさんは、大事そうにお金の入った袋を手に取った。

 それを見て、僕は喜びを覚える。


「とはいえ、無理はしないでくださいね? 気楽な感じで、この世界を楽しみつつ強くなっていってください」


「ああ、うん。大丈夫だ」


 まぁ実際のところ、『レンタルスキル』がどうこうってのは方便だ。

 ミコトさんがやる気を出していて、この世界で頑張りたいって気持ちを、僕なりにサポートしたいだけだ。

 そのための住居提供。そのための資金援助。そんな活動。そんなパパ活。


「あ、それとミコトさんにちょっと提案がありまして」


「うん?」


「少し考えたのですが――もう今のうちから、アレクハウスに泊まってみませんか?」


 一週間後に僕の世界旅行が始まり、それ以降ミコトさんはずっと召喚されっぱなしになる。

 そしてアレクハウスに住み続けることになるわけだが――


「もしかしたら何か不都合が出てくるかもしれませんし、ちょっと早めに住み始めるのはどうでしょう? 今なら僕もいますし、いろいろと対応できるかと思います」


「なるほど、それは確かに……」


 僕の出発前に、お試しで住んでもらったらどうかと考えたのだ。


 まぁアレクルームには一泊とはいえ僕も泊まったし、ゲストルームにはちょくちょく宿泊している人もいる。それに、なんと言ってもアレクハウスはフルールさんが建てたお家。

 だから問題ないとは思うのだけど……それでも長期滞在するからには、何かしら問題が出てくるかもしれない。

 そういったことを、今のうちに確認しておくのもいいんじゃないだろうか。


「じゃあそうだな、いくつか欲しい物もあるし、今日は買い物に出かけて……明日かな? 明日から泊まることにしよう」


「明日ですね? わかりました」


 明日か。じゃあ僕の方は、今日アレクルームに行ってこようか。受け渡し前、最後の掃除でもしてこよう。

 見られて困るような物もないけれど、忘れ物とかないか確認しておこうかね。


「あ、ではですね、ちょっと待っていてください。えーと――はい、こちらをどうぞ」


「うん? 鍵?」


 僕は自室のマジックバッグから鍵を取り出し、ミコトさんに手渡した。


「アレクルームのスペアキーです」


「スペアキー?」


「普段僕が使っている鍵のスペアです。本鍵の方は……今日中にナナさんへ渡しておきましょうか。もしもスペアキーをなくしたりしたら、ナナさんを訪ねてください」


 ミコトさんが部屋を使い始めるというのに、僕が別の鍵を持っているのもいかんだろう。こっちはナナさんに保管してもらおう。


「ふむ。こっちの鍵は量産していないのかな?」


「え? あ、はい、そうですね。アレクハウスの鍵とは違って、アレクルームの鍵はたくさん作る必要もないですから」


 アレクルーム――自室の鍵を量産して配るとか、さすがにそれはおかしいでしょう?

 ……まぁよくよく考えると、アレクハウス――自宅の鍵を量産して配ることだって、相当おかしな行為だとは思うけどさ。


「とにかくそんなわけで、アレクルームの鍵はこの二本だけです」


「そうか、二本だけか」


「二本だけです。誰かが勝手に複製でもしていない限り」


 なんて冗談を軽く言ってみたものの――

 まるっきり冗談とも言い切れないのが、ちょっと困りものだよね。





 next chapter:とても感動的な再会

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る