第331話 検問とギルドカード


「さて、これから検問に向かうわけですが――」


「うん」


「どうやって突破しましょう?」


 とりあえずジスレアさんの指示を仰ぐ。

 果たしてジスレアさんは、どんな作戦を立てているのか。


「今回は、正直に説明した方がいいかもしれない」


「と言いますと?」


「今までアレクの覆面のことは、『アレクがシャイだから』と説明していた。今回は、『アレクの顔が良いから』と正直に言うべきかもしれない」


「なるほど……」


 正直に『僕がイケメンすぎるから』と説明するわけか。

 ……もしもそれですんなり通れたとしたら、僕はこの町の検問システムに疑問を抱かずにはいられない。


「そうしたら、あとは普通に鑑定してから通過しよう」


「鑑定?」


「検問で、鑑定をすることになる」


「んん? 鑑定したら町の中に入れるんですか?」


「何かしらの重い罪を犯した人は、『職業』にそのことが書かれる。それを門番がチェックする」


「へぇ? そんなことになるんですか」


 それは知らなかった。職業ってそんな変化もあるのか。


 とりあえず僕の職業は、そんな変化を起こしたことはなかった。

 魔法使い見習い、木工師見習い、木工師だけだ。とてもクリーンな変化しかなかった。なんとなくホッとする。


「例えば強盗なんかした人は、職業が『強盗犯』になる」


「職業が強盗犯……」


 それを職業と呼んではいけないような気もするが……。

 さておき、確かにそれを見たら町に入れていい人かダメな人か一発でわかるね。


「……あれ? ですが、他の人に鑑定結果を見せることを嫌がる人もいるんじゃないですか?」


 この世界では、『他人のステータスを知りたがるのはスケベ』という価値観がある。そういうのはマナー違反で、知りたがってはいけないし、逆にみんなも教えたがらない。それはエルフ族だけではなく、人族も同じだ。

 だとすると、町に入るためとはいえ、鑑定を嫌がる人もいるのではないだろうか?


「そこは配慮されている。検問での鑑定は、レベルやスキルといった項目は表示されない」


「あ、そうなんですか。どの辺りまで表示されるのでしょう?」


「確か、名前と職業と……あとは年齢、性別、種族辺りだと思う」


「ふむふむ」


 鑑定で最初の方に表示される部分だけか。

 スキルや称号が映らないのは、僕的にも助かるな。


「しかし町に入る全員を鑑定となると、ちょっと大変そうですね」


「あぁ、全員ではない。アレクはカードを持っていないから鑑定だけど、基本はカードを見せるだけで通れる」


「カード?」


「冒険者ギルドのカード」


「ギルド……? あ、もしかしてギルドカードってやつですか?」


「そう」


 ほうほうほう。なるほど、ギルドカードか。

 まぁ定番ではある。どうやらこの世界のギルドにも、そんな物があるらしい。


「少し気になります。どんな感じなんですかね? ジスレアさんは持っていますか?」


「うん。このくらいのカードで、いろいろ載っている」


 そう言ってジスレアさんは、両手で四角を作った。

 大きさ的には免許証くらいか。


「顔とかも載っている」


 本当に免許証みたいだ。


「なんだかちょっと変な顔をしているように思えて、あんまり人に見せたくはない」


 免許証だわ。


 ……いやしかし、顔写真まで載っているのは予想外だ。

 どうやって作っているんだろう。この世界にも写真機とかあるのかな。


「冒険者ギルドで作ってもらえるんですか?」


「うん。一瞬で作れる」


「ほほう。試験とか講習もないんですかね?」


「ん? うん。特にそういうのはないかな」


 なるほど。それは楽でいい。


 何を隠そう――僕は免許の本試験で一回落ちた経験があるのだ。

 あれはダルかった。非常にダルかった。落ちる可能性がないというのは、楽でいい。


「……とかなんとか言っている間に、着いてしまいましたね」


「うん」


 僕達のすぐ目の前には、ラフトの町の南口。

 そこで検問をしている門番さんや、門を通過している人達を確認できる。


「結構人がいますね」


「この町は、人界の中でも大きい方だから」


「ほー」


 並ぶってほどでもないけど、そこそこ人がいる。僕が見ている間だけでも、何人もの人達が町へ入っていった。

 どうやらみんな、ギルドカード提示で入っているらしい。門番さんもカードをチラッと見て、すぐに通している。

 ……やだなぁ。あそこで詰まったら、後ろから舌打ちされるやつだ。


 だけど、絶対僕で詰まるよね……。

 間違いなく僕で詰まる。僕がカードを持っていなくて鑑定することになるからってのもそうなんだけど、もちろんそれだけじゃなくて――


「すっごい警戒されている……」


「うん……」


 門番さんも覆面姿の僕に気が付いたようで、すっごい僕を見てくる……。


 南口に隣接した小さい建物――おそらく門番さんの詰所的な建物だろう。

 門番さんはそこへも声を掛けて、新たに応援を呼んでいる。ちょっとした厳戒態勢じゃないか……。


「……とりあえず行こう」


「そうですね、ここで止まっていても仕方ないですものね……」


 というわけで、二人で南口に向かって歩き始めた。


 門番さんは、こちらを警戒しながらも検問を続け、僕達より前にいた人は全員町へ入っていった。

 そうして――いよいよ僕とジスレアさんの番だ。


「こんにちはー。すみません、カードを持っていなくて、鑑定をお願いしたいんですが」


 ひとまず普通に話しかけてみた。

 これ以上門番さんに警戒されないよう、つとめて普通に振る舞ってみた。


「……じゃあ、これを」


「はい、失礼します」


 意外や意外。なんか普通に鑑定を指示された。普通にしてたのが正解だったか。

 僕は指示に従い、台座に置かれていた水晶に手を置き、魔力を流す――



 名前:アレクシス

 種族:エルフ 年齢:16 性別:男

 職業:木工師



 ふむ。ジスレアさんに聞いた通り、ずいぶんと表示項目の少ない鑑定結果だ。


 そして当然のことながら、僕の職業欄には犯罪者っぽい職業も表示されていない。普通に木工師だ。

 見た目的にはまるっきり強盗犯だが、木工師なのである。


「それじゃあ、通過しても――」


「とりあえずこっちへ」


「あっはい」


 ……やっぱりダメらしい。

 案外このまま普通に通り抜けられるかと期待したが、やっぱりダメだった。

 詰所行きらしい。署で事情を聞くらしい。


 まぁいきなり引っ捕らえられて縛り上げられたりしなかっただけ、マシなのかね……。





 next chapter:エルフの至宝

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