第330話 いざ、ラフトの町


 カーク村を出発した僕達は、ラフトの町を目指し、歩みを続けた。


 なんとなく流れ的に、もしかしたら二日くらいでカーク村に戻ることになるんじゃなかろうかと心配していた僕だが、幸いそんな事態も起こらず、旅は順調である。


 とはいえ、問題もあった。

 カーク村を出てからは、ヨーム村、ローナ村、スリポファルア村などを経由してきたのだが、どうにも僕の覆面姿が目立ってしまうのだ。


「やっぱり覆面姿で村を訪れると、最初は警戒されてしまいますね」


「覆面姿を警戒しない方がおかしい」


「そうですねぇ……」


 それはその通りだと思うけれど、覆面をかぶせた張本人であるジスレアさんがそう言ってしまうのはどうなのか。


「というか、ジスレアさんにも申し訳ないですね。いろいろ苦労をかけました」


「ん、大丈夫」


 村を歩いているだけでも警戒されてしまうし、村のお店に入ろうものなら、どうやっても強盗にしか見えない。なのでその都度ジスレアさんが、僕のことをフォローし続けてくれたのだ。


 だがしかし、そもそもそのジスレアさん自身が、この辺りでは珍しいエルフ族だったりするから……。

 おまけにジスレアさんは、ちょっと目つきが悪い人だから……。美人さんではあるが、ちょっと目つきの悪い美人さんだったりするから……。


 そんなわけで毎回僕のフォローをしてくれるジスレアさんも、いろいろと苦労していたのだ。


「今更ながら、カークおじさんのありがたみを感じます」


「そう思う。毎回あんな人がいてくれたらいいのに」


「そうですねぇ。そうしたら、もっとスムーズに村を回れましたね」


 もしもヨームおじさんや、ローナおじさんがいてくれたら――

 ……まぁ僕的には、ヨームお姉さんやローナお姉さんの方が嬉しいのだけれど。


「それでも一応は、無事に村を回れた」


「はい。ありがとうございましたジスレアさん」


「アレクも無事に――ペナントを作れたようで何より」


「はい。何よりです」


 カーク村で『カーク村ペナント』を作ったように、それぞれの村でもペナントを作ってみた。

 各村の布屋さんを探し、『ヨーム村ペナント』『ローナ村ペナント』『スリポファルア村ペナント』を作ってもらったのだ。


 ヨーム村ペナントは、カーク村同様に青色のペナント。ローナ村ペナントは、水色のペナント。スリポファルア村ペナントは、黄色のペナントである。

 メイユ村に戻るまでに、あと何枚のペナントを集めることができるのか、今から少し楽しみだ。


「さて、そろそろ出発しよう」


「そうですね。そうしましょうか」


 朝食を終え、しばしのんびりとした時間が流れていたが、そろそろ出発だ。

 二人でテントを片付け、出発の準備を整える。


「アレク、これ」


「あぁ、もう乾きましたかね」


「大丈夫そう。はい」


「ありがとうございます」


 ジスレアさんにお礼を言ってから、僕は覆面を受け取った。


 実は昨日、寝る前に洗って干しておいたのだ。

 外だと凍ってしまうので、テント内に干していたのだけど、無事に乾いたようだ。


 冬のこの時期、やっぱり洗濯は大変だ。

 乾かすのもそうだし、洗うときも大変だ。温度調整してもらったジスレア水――ジスレア湯がなければ、手がかじかんでしまったことだろう。


 ちなみに、あまり熱すぎるお湯だと麻素材の覆面は傷んでしまうので、ぬるま湯である。

 ぬるま湯のジスレア湯――ぬるまジスレア湯を用意してもらって、それで洗った。


 ……たぶん大ネズミのヘズラト君に洗ってもらったら、もっと楽なんだけどねぇ。

 ヘズラト君が着ている服は、再召喚すると綺麗になる。このことを利用した『ヘズラト君式洗濯術』を使ってもらえば、僕の覆面も一瞬で綺麗にしてくれることだろう。


 とはいえ、未洗濯の覆面をかぶせるのは、さすがにねぇ……。

 それでもヘズラト君なら嫌な顔ひとつぜずやってくれそうではあるけど、やっぱりねぇ……。



 ◇



 なんやかんやで旅は進み、カーク村を出発してから二週間、僕達はラフトの町までやってきた。


 正確には、二週間と三日で到着だ。

 各村でのペナント作りがなければ、ちょうど二週間で着けたのかなって思わなくもない。


「あれがラフトの町ですか」


「そう。囲いで見えないけど、ラフトの町」


 前方に見えるラフトの町は、カーク村と同様に、木の柵で囲われていた。


 ……いや、同様でもないか。

 カーク村では三十センチほどの木の柵だったが、ラフトの町の木柵はもっと高い。二メートル近くあるだろう。もはや木柵ではないな。木塀か木壁だ。


 ……そもそも、カーク村の木柵はなんだったんだろうね。

 三十センチって、明らかに低すぎるよね。普通の野生動物だって飛び越えられるだろう。なんのための柵だったんだあれは……。


「それで、どこから入ったらいいんでしょう? あの高さだと、カーク村のときみたいに乗り越えるってわけにもいかないですよね?」


「南側に入口がある。そこで検問」


「ほうほう、南口で検問。……検問?」


 え、検問あるの?


「えっと、あの、検問やっているんですか?」


「常に門番がいて、そこで怪しい人をチェックしている」


「怪しい人を……」


 ……じゃあ僕もチェックされちゃうじゃない。


 ラフトの町に近付いたため、現在僕は覆面状態だ。覆面姿でヘズラト君に乗っている状態だ。

 大ネズミに騎乗した覆面男なんて、どうやったってチェックされる。――むしろ、この僕をチェックしない門番がいるとしたら、その人は圧倒的に門番に向いていない。


「あの、いったいどうしたら……」


「キー」


「え? あ、そう?」


 ヘズラト君が、『とりあえず私は送還してもらった方が』と提案してきた。


 確かにそうだな。とりあえずヘズラト君を送還したら、現状の『怪しい覆面大ネズミライダー』から、『怪しい覆面男』にランクダウンする。

 ……まぁ、十分怪しいことには変わりない。


「だけど、毎回こうやって目的地に到着する寸前でヘズラト君を送還するのは、やっぱり申し訳ないね……」


「キー」


「いっそのこと、このまま行ってみようか? あんまりにも怪しすぎて、逆にスルーされたりしないかな?」


「キー」


「そっか……」


 わりとガチ目のトーンで、『やめた方がいいです』と提言されてしまった。


「それじゃあやっぱり送還するね」


「キー」


 僕はヘズラト君から下乗して、とりあえずいつものように抱擁した。


「今日もありがとうヘズラト君。町を出るときには召喚するから、そのときにまたよろしくね」


「キー」


「じゃあ――『送還:大ネズミ』」


「キー……」


 こうして僕はヘズラト君を送還した。

 ……ヘズラト君にはそう言ったものの、そもそも町に入れるのかすら疑問ではある。


 でもまぁ、このままここでまごまごしていても仕方がない。とりあえずは行ってみよう。

 ――さぁ行くぞ。いざ、ラフトの町。





 next chapter:検問とギルドカード

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