第314話 『パリイ』VSボア
結局、世界樹の枝を貰ってしまった。
まだ前回貰った世界樹の枝も使い切っていないというのに、また新しい枝を……。
とりあえず次回の第三回世界旅行では、しっかり二年間旅をしてこよう。それから帰ってきて、今度こそ胸を張って世界樹の枝を貰おう……。
そんなことをこっそり心に誓ってから、今回の旅について、雑談を交えながらユグドラシルさんに報告していた。
「ふーむ。どうやら、ずいぶんと平和な旅だったようじゃな」
「そうですねぇ。特に危険なこともなかったですし……というか、何もない旅でしたね……」
移動して、ご飯を食べて、寝て、また移動して――そんな感じの一ヶ月だった。
手強そうなモンスターが現れても、ジスレアさんが『あれはまだアレクには早い』とかなんとか言って、矢投げでサクサクと片付けてくれたしな……。
まぁ一ヶ月間ジスレアさんと一緒の生活だったわけで、僕としてはそれだけで楽しかったし、それなりにドキドキソワソワした日々ではあったけれど……。
「さて、そろそろ行くとするか」
「そうしましょうか。では、ひとまずナナさんの部屋へ」
「うむ」
旅の話がひと段落したところで、出かける準備を始めた。
僕達はこれから、ダンジョンへ向かう予定である。
今日は元々その予定で、ナナさんと一緒にダンジョンへ行くつもりだったのだが、ユグドラシルさんも付いてきてくれるというので、みんなでパーティを組んで突撃することに決めたのだ。
というわけで僕とユグドラシルさんは部屋を出て、ひとまずナナさんの部屋へ突撃。
「ナナさーん」
「ナナー」
「はーい、どうぞー」
「お邪魔しまーす」
「邪魔するぞー」
ノックをして声を掛けると、入室を促す返事が返ってきたので、僕とユグドラシルさんは室内に足を踏み入れた。
するとそこには――――部屋の中央で仰向けになって寝ているナナさんが。
「いや、どうしたの……? 体調でも悪いの……?」
「いいえ、調子が悪いわけでもありませんし、眠いわけでもありません」
「じゃあ、どうしたの?」
「これは――ヨガです」
「ヨガ……?」
またヨガか……。
確かによく見ると、ナナさんは体の下に大ネズミの皮を敷いていた。ヨガマットのつもりなのだろう。
「いや、でもナナさん寝ているだけじゃない? それでヨガなの?」
「屍のポーズです」
「屍のポーズ……?」
そういうのもあるのか……。
やっぱり僕には寝ているだけにしか見えないけど、そういうポーズなのか……。まぁ屍のポーズと言う名前なら、確かにわからんでも……というか、すごい名前だな。
「いつぞやの話では、回復魔法があるこの世界では、ヨガに意味はないという結論にもなりましたが、健康だけではなく美容にもいいらしいですからね。とりあえず美容のために」
「そうなんだ……」
美容ねぇ……。本当に効果あるのかな?
まぁ自分の部屋で何をしていても、そりゃあ全然構わないけれども……。
「いつからやっているの?」
「今日からです」
「…………」
もうあれじゃない? 僕達が来るのを見越して、ちょっとネタを仕込んでいただけじゃない?
「それで、そろそろ出発ですか?」
「うむ、そろそろ行くとしよう」
「そうですか、では私も準備しますか」
「ヨガが終わるまで待ってもよいが?」
「ありがとうございますユグドラシル様。ですがもう十分です。もう十分、美ボディになれた気がします」
そう言って立ち上がり、ヨガマットをクルクル丸めていくナナさん。
「ときにマスター」
「うん?」
「今回大ネズミの――モモちゃんはどうするのですか?」
「ん? んー、まぁ連れて行こうか。せっかくだし」
どうせならナナさんに乗ってもらおうかな。久しぶりに騎手が乗り替わることで、モモちゃんも何か気付くことがあるかもしれない。
……あ、でも普通に『やっぱり騎乗スキル持ちのナナさんの方が上手いなー』とか思うだけかな?
うわ、それはなんか微妙……。
「モモちゃんは同行ですか。ミコト様はどうしますか?」
「そうだね、ミコトさんも呼ぼうか。もう一ヶ月召喚していないし、待ちくたびれているかもしれない」
「村に戻ってきてからも、召喚していないのですか?」
「うん、まぁ」
特にこれといって用事もなかったし……。
やっぱり用事がないと、少し呼びづらいよね。
さすがに『暇だから』とか『話し相手が欲しかった』って理由で召喚するのも、なんかちょっとねぇ……。
「ミコト様は召喚されるのを喜んでいる様子でしたし、もっと気軽に呼んでもいいのでは?」
「んー、まぁそうかもしれないけど……」
「もっとばんばんデリバリーを頼めばいいじゃないですか」
「デリバリーって言い方はやめよう」
それはやめよう。いや、なんとなく。
◇
というわけで、ダンジョンにやってきた。
僕、ユグドラシルさん、ナナさん、モモちゃん、ミコトさんという、なかなかに個性豊かなパーティでダンジョンに突入した。
ダンジョン進軍中、しばらくはミコトさんとモモちゃんにモンスターの討伐を任せ、僕達は高みの見物を決め込んでいたのだが――2-3エリアでは僕も剣を取った。
このエリアに出現するボアに対し、少し試してみたいことがあったのだ。
「それでは、あの一体は僕に任せてください。あのボアに――『パリイ』を仕掛けたいと思います」
目的は、ボアへの『パリイ』だ。
ここで僕は、『パリイ』の実戦投入を試みようと思う。
たぶんちょうどいいくらいの難易度だろう。過不足のない相手だ。これ以下ではさすがに張り合いがないし、これ以上だとちょっと怖い。
そんなわけで相手はボア。僕の得物は魔剣バルムンク。
ここはあえて世界樹の剣ではなく、ただの木剣を使うことで、純粋な『パリイ』の性能を推し量ろうという狙いだ。
「では、いってきます」
「うむ。まぁ問題はないじゃろう」
「頑張れアレク君」
「キー」
「頑張ってください。骨は拾います」
みんなの応援を背に受けて――まぁ応援の中に、若干おかしなものがあったような気もするが、とりあえず気にしないことにして、僕はボアと対峙した。
「さて……」
「ぶもー」
剣を手にして近付くと、ボアは唸り声を上げながら、こちらを
「さぁ来い」
「ぶもー」
僕が威嚇を無視してさらに近付くと、ボアの方もさらに大きな声を張り上げ、こちらへ向かって突進してきた。
「よし、タイミングを見計らって……」
「ぶもー」
「『パリイ』」
「ぶも!」
突進してきたボアが頭突きをかまそうとした瞬間に、僕は『パリイ』を発動。
『パリイ』の効果によって――ボアは打ち上がった。
「おぉ……ちょっと浮いた……」
「ぶも! ぶも!」
さすがにユグドラシルさんのように十メートル以上打ち上がることはなかったが、一メートルほどボアを空中へ浮かせることができた。
空中で驚いたように足をバタつかせている姿が、少し面白い。
今朝の訓練で、多少は『パリイ』のコツを掴めたのだろうか。
別に、力を込めて下から払い上げたってわけでもないのに、剣を当てる角度やアーツ発動のタイミングによって、ボアの打ち上げに成功した。
うん。これはいい。いつかこのアーツで、父を打ち上げてみたい。すってんころりんもいいが、打ち上げもしてみたい。
『パリイ』は攻撃アーツではないので気軽に使える。明日の早朝訓練から、積極的に狙っていこう。
◇
打ち上げられたボアをぼんやり眺めていたら――その後普通に着地され、突進されてしまった。
まぁ攻撃アーツではなくダメージもないのだから、そりゃあそうなるわな……。
一瞬慌てたものの、さすがにもうボアなんて僕の敵ではない。バルムンクでバシバシと叩いて、討伐を完了した。
「さて、それじゃあ僕達は先に進みますが――」
「うむ。ミコトのことは、わしに任せておけ」
ボアのいる2-3エリアを抜け、ワープ装置のある2-4エリアに到着したわけだが――ここからは別行動だ。
僕とナナさんとモモちゃんは先のエリアへ進み、ユグドラシルさんとミコトさんは、この辺りの階層を回るらしい。
「すまないなユグドラシルさん。私のわがままに付き合ってもらって」
「いや、構わん」
「ありがとう。神同士、仲良くいこう」
「うむ」
ミコトさんはレベリングをしたいとのことで、それにユグドラシルさんが付き合うことになったのだ。
そういうわけで、神タッグ結成である。
「まぁレベルのことを言うのなら、モモも上げておいた方がいいと思うのじゃが……」
「いや、待ってくれユグドラシルさん。ここは二人でいこう。モモちゃんは……モモちゃんはあれだ、一ヶ月間厳しい旅をしてきたのだから、今日はゆっくりしていてほしい」
「ふーむ……」
微妙にモモちゃんをライバル視しているミコトさんは、この一ヶ月でモモちゃんに差をつけられたと感じているのか、追い付こうと必死である。なりふり構わず必死に追い付こうとしている。
そんな様子を察しているであろうモモちゃんは、あえて黙し、何も語らない。
「では私達は、ひとまず1-4へワープしようと思う」
「はい、頑張ってくださいミコトさん」
「それじゃあアレク君、あとモモちゃんも――くれぐれもゆっくり休んでくれ」
「…………」
ミコトさん……。
なんだか久々に会ったら、駄女神っぷりが加速しているような気がするのだけど……。
さておき、そんなミコトさんとユグドラシルさんがワープするのを見届けてから、僕達も移動を始める。
「僕達も行こうか」
「そうですね。……まぁ、あそこまで言われてしまいましたから、ゆっくりのんびり遊んできましょうか」
「そうしよう」
それじゃあ出発だ。目的地は6-1エリア――雪エリアだ。
next chapter:いざ、かまくら
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