第258話 『天界なうルーレットわず今から帰ります20時19分メッセージかくにんよかったダンジョン』


「ん、んー……。暑い……?」


 なんか暑い? なん……んん?


「あぁ、そりゃあ暑いわ……」


 僕が寝ているベッドの両サイドで――ユグドラシルさんとナナさんが寝ていた。

 ひとつのベッドで三人も寝ていたら、それは暑いわな。


「というか、この人達は何を――あ」


 そうか、昨日はチートルーレットがあったんだ。

 転送シーンの確認やら『ダンジョンのメニュー式メッセージ通信』やらで、いろいろあったんだ。


 それで二人とも、夜遅くまでここで確認作業をしていたのだろう。その結果、二人とも僕のベッドで寝ることに――

 ……いや、別に全員同じベッドで寝ることもないだろうに。


「というか、ダンジョン名はどうなったんだ? ――『ダンジョンメニュー』」


 天界にいるとき、何度かダンジョン名を変更してみたのだけど、結局ナナさんからの返信はなかった。それは何故なのか、果たして今はどうなっているのか。

 そう思って、僕がダンジョンメニューを開いてみると――


『天界なうルーレットわず今から帰ります20時19分メッセージかくにんよかったダンジョン』


 ……ふむ。なかなかにバグったダンジョン名だ。なんともカオス。


 とりあえず『天界なうルーレットわず今から帰ります』の部分は、僕が天界で入力した文章だ。

 天界に着いてすぐに『天界なう』、ルーレットが終わった後で『ルーレットわず』、そして帰宅する前に『今から帰ります』と入力した。


 本当は『帰宅うぃる』と入力しようと思ったのだけど、ディースさんから『なう』も『わず』も『うぃる』も死語だと指摘されてしまったため、もう普通に『今から帰ります』と打ち込んだ。

 そんなわけで、僕が天界から下界に戻る際には『天界なうルーレットわず今から帰りますダンジョン』となっていた。


 そして今確認したところ、新たに『20時19分メッセージかくにんよかった』の文章が付け足されていた。

 これは僕の文章じゃない。つまりは――ナナさんの文章だ。


 おそらく僕の文章を見た後でナナさんは、『20時19分、メッセージかくにん! よかった』と打ち込みたかったのだろう。なんとなく、昔見たことがあるような言い回しの文面だ。


 それにしても、20時19分に確認したの? たぶんその時間って、僕が寝てすぐだと思うんだけど……。


「んー……ん? んむ。起きたかアレク」


「あ、すみません。起こしてしまいましたか?」


「いや、構わん。おはよう」


「おはようございます」


 僕の左側にいたユグドラシルさんが目を覚ましたので、挨拶を交わした。


「――ハッ! アレク! アレクよ!」


「え? は、はい、なんですか?」


「実はじゃな――ん? うむ、とりあえずナナも起こすか」


 そう言ってユグドラシルさんが手を伸ばし、寝ているナナさんを揺する。


「ナナ、ナナよ。起きよ」


「んー……もう食べられません……」


「えぇ……」


 マジかナナさん……。今どきそんな寝言を言う人が本当にいるのか……。


「ナナー」


「うぅ……。はい……」


 ユグドラシルさんにゆっさゆっさ揺さぶられ続け、ようやくナナさんが目を覚ました。


「おはよーございます……」


「うむ。おはよう」


「おはようナナさん」


 三人で挨拶を交わすが、ナナさんは微妙にだるそうだ。


「もしかして、昨日は遅くまで諸々の確認していたのかな?」


「えー? いえ、マスターにメッセージを送ってから、すぐに寝ました」


「あれ? そうなんだ」


 ナナさんがメッセージを打ったのが、20時19分なのだろう。そして、現在時刻は――6時20分。

 ……結構ガッツリ寝ているじゃないか。


「でじゃ、順を追って話そう。わしとナナは、布団に入ったお主が眠るのを待っていたわけじゃが……案外すぐじゃったな」


「そうですね、五分もなかったと思います」


「ということらしい」


 まぁそうだろう。なにせ僕は相当疲れていたから、きっとすぐ眠りに落ちたはずだ。


「そのときじゃ、お主の体が――消えたのじゃ」


「へぇ、体が?」


 体が消えたのか。もしかしたら体は残したまま、魂だけ転送ってこともあるかと考えていたのだけれど、体ごとなのか。


「じゃが、一瞬じゃったな。ほんの一瞬、まばたきする間もないほどじゃった」


「そうなんですか、そんな一瞬だけ……」


 ふーむ。その一瞬で、僕は天界へ行ったり来たりしていたってこと?

 そんな、まばたきする間もないほどの一瞬で――


「おそろしく速い移動じゃった。わしでなければ見逃していたじゃろう」


「…………」


「…………」


「な、なんじゃ?」


 僕とナナさんは、思わずまじまじとユグドラシルさんを見つめてしまった。

 なんか似たような名台詞を聞いたことがあったもので……。たぶんナナさんも、同じことを思ったんだろうな……。


「えぇと、ちなみにナナさんは? 見られた?」


「いえ、わかりませんでした。私もずっと見ていたはずなのですが、とんと気が付けませんで」


「はー、そうなんだ」


「ユグドラシル様は、『あ! 今! 今、ナナ! ナナ!』などと大はしゃぎでしたが、私には全く」


 そうか、そんなやり取りが……。

 とりあえず僕の転送シーンをしっかり確認できたユグドラシルさんは、大層お喜びになられたようで、それは何よりである。


「そして、そのときにはすでにダンジョン名が変わっていました。」


「ああ、やっぱりそうなんだ」


「なので、その時点の時刻を書いて、メッセージを入力した後――寝ました」


「……うん」


 その後すぐ寝るってのも、実験としてはどうかと思うんだけどね。その後何か起こるかもわからないわけで……。

 あぁ、むしろ僕を起こしてもらえばよかったかな? そうしたら本当に一瞬でチートルーレットが終わったのかどうか、確認できただろう。


 ……まぁそれをされると、僕は眠った瞬間に起こされるわけで、微妙につらい体験を強いられることになるけれども。


「なるほどねぇ。つまりまとめると――僕は眠った瞬間に体ごと天界へ転送され、圧縮した時間の中でチートルーレットを行い、終了後にすぐさま下界へ戻されたわけだ」


「そのようですね」


 ふんふん。そんな感じだったのか。

 微妙に気になっていたような、あるいはどうでもいいような疑問が、ついに解決されたな。


「とりあえずあれだね、実験だか検証だかは、無事に成功した感じかな」


「そうですね、成功といっていいでしょう」


「うむ。わしもアレクが転送されるところを無事に見られたしのう」


「ですね。ではでは――お疲れ様でしたー」


「「お疲れでしたー」」


 わーいと、三人でハイタッチを交わす。

 うん。いつものこのやり取りをこなすと、なんとなく達成感やら、やりきった感を覚える。


「あ、それでマスターはどうだったのですか? チートルーレットを終えてきたのですよね?」


「あぁ、そっちもちゃんと終わったよ」


「何を貰ってきたのですか? メッセージには書いていませんでしたが?」


「うん。実際に帰ってきてから説明しようと思ってさ。正直ね、かなりの――チートだと思う」


 チートだね。間違いなくチート。チートルーレットの景品はチートでないことも多いけど、今回ばかりは本当にチート。


「ほほう? それはあれですか? まさか、我が母ダンジョンコアよりもチートだと?」


「ナナさんを前にして言うのも、ちょっと気が引けるけど……普通にダンジョンコアを超えていると思う」


「なんと……。いえ、ダンジョンコアはかなりのチートですよ? マスターの使い方がアレなだけで、本当は凄いんですよ?」


 なんか軽くディスられた気がする……。

 いや、最近は結構上手に使ってない? いろいろ楽しいフィールドの量産もできているし、みんな喜んでくれていると思うんだけどな……。


 ……まぁいいや。それじゃあこれからナナさんとユグドラシルさんにも、僕が授かったチートを見てもらおう。

 ――そして、度肝を抜いてやる。



 では始めよう――神降ろしだ。





 next chapter:うわ、めがみよわい

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