第241話 二代目等身大ユグドラシル神像


「では再開するか。次はもう少し数を増やすとするかのう」


「今いくつですか?」


「今は八つじゃ。そうじゃな……いっきに十までいってしまうか」


 ユグドラシルさんの小さな手が、お手玉をわさりと掴んで準備に入った。

 お手玉十個か。もう僕には想像のできない世界だな……。とりあえずたくさん準備しておいてよかった。


 ちなみにこのお手玉は、母に作ってもらった物だ。

 小豆あずきではなく、小さな木の実を布の袋に詰めて縫ったお手玉である。


 最初は自分で作ろうと思ったのだけど、残念ながら僕は『裁縫さいほう』スキルを持っていない。

 同じく『裁縫』スキルを持っていないナナさんが、何故だか少し悔しそうに『木の実といえば私なのに……』などとよくわからないことをつぶやいていたが、とりあえず放置して母にお願いした。


 どうやらお手玉自体はこの世界にもあった物らしく、母がちゃちゃっと作ってくれた。

 たぶんユグドラシルさんはたくさん使うだろうと思って多めに作ってもらったのだけど、予想が的中したな。


「お主も作業を続けてよいぞ?」


「そうですか? もうちょっとユグドラシルさんのお手玉を見ていたい気もしますが……こっちを先に完成させてしまいますか」


 十個のお手玉が同時に空を飛ぶ様子は、時間を忘れて見ていられる。

 とはいえ、こっちの作業も大詰めだ。ひとまずこっちを完成させよう。


 僕が今やっている作業。それは――二代目等身大ユグドラシル神像の制作だ。


「なんだかんだで完成まで、ずいぶん時間がかかってしまいました」


「ふむ」


瘴魔しょうまときに三週間の外出禁止をくらって、その期間中に完成させられるかと思ったのですが……」


「瘴魔の刻? あれは……確か四ヶ月ほど前か?」


「はい。あれからもう四ヶ月も経ってしまいました。全然でしたね。全然終わらなかったです」


 見通しがちょっと甘すぎたな。

 結局謹慎きんしん中に完成させることができなかったので、それ以降はじっくり丁寧に作る方向に切り替えた。別に焦って完成させる必要もないしね。


 そんなこんなで、あれからさらに四ヶ月。ようやく完成のときがやってきた。


「あとはもう最後のチェックをするだけなので、すぐ完成します」


「前回来たときも、そんなことを言っとらんかったか?」


「…………」


 そういやここ二週間くらい、ずっと最終チェックをしていたような気もする……。


 ……いや、今度こそ本当に最終チェックだ。本当の本当に最終チェックなんだ。いや本当に。



 ◇



 じっくり人形を眺めては、気になったところにヤスリをかける。また眺めてはヤスリをかける――そんな最終チェック作業を始めて、かれこれ一時間ほど。


 僕は地味な作業を続けながら、お手玉をするユグドラシルさんとお喋りを交わしていた。


「――そうなんですよ。それで、ちょっと前にレリーナちゃんが十五歳になりまして」


「そうか、隠し通せたか」


「はい。ワイルドボアと世界旅行の件は、なんとか隠し通せました」


「……まぁ旅行ではないのじゃが」


 『十五歳未満でワイルドボアを倒したエルフは、世界を旅しなければいけない』――このおきてしたがって僕は旅に出るわけだが、レリーナちゃんはこの条件を達成することなく、十五歳の誕生日を迎えた。


 僕としては、これで一安心だ。

 もちろんレリーナちゃんに付いてきてほしくないとか、そういうわけではないのだが――


 いやまぁ、僕とジスレアさんとレリーナちゃんの三人旅とか、かなり遠慮したい旅路なのは間違いないけど……。

 さておき、とりあえずレリーナちゃんがワイルドボアと戦わずに済んで安心した。やっぱりワイルドボアは強敵だからね。レリーナちゃんにそんな危険なことをさせずに済んでよかった。


「で、旅のことはレリーナに伝えたのか?」


「あー……それはまだです」


「……早めに伝えた方がよいと思うが?」


「そうは言いますけどね……」


 『ジスレアさんと二人で旅行してくるね』――これをレリーナちゃんに伝えることが、どれほど危険な行為か……。


「それにディアナちゃんがまだ十四歳なので」


「ああ、あやつはお主らの一個下じゃったか」


「そうなんですよ。なのでディアナちゃんが十五歳になるまでは、レリーナちゃんにも隠しておいた方がいいかなって、そんな感じで……」


「ふーむ……」


 まぁディアナちゃんはわりと冷静な性格なので、『アタシも付いてく!』などと、ワイルドボア討伐を計画したりはしないと思うけどね……。


 だけどあれだな。最近の傾向として、レリーナちゃんをあおるためにワイルドボア討伐を目論もくろみそうな雰囲気もあったりして……。

 まぁいいや。とりあえずディアナちゃんの誕生日までは、いろいろ保留だ。


「さてと、こんなもんかな」


「む? 完成したか?」


「ええなんとか――って、すごいですねユグドラシルさん」


 ようやく最終チェックが終わり、二代目等身大ユグドラシル神像がほぼ完成した。

 ユグドラシル神像が完成して、ふと顔を上げたところで本物のユグドラシルさんが目に入ったのだけど……お手玉がすごい。


 えぇ? 何個投げてるんだこれ……。


「すごいですね……。今いくつですか?」


「うん? 十六じゃな」


「十六……」


 小一時間で、お手玉の数が倍に増えている……。


 またしてもユグドラシルさんが未知の領域に突入している……。ユグドラシルさんは新しい玩具をプレゼントすると、すぐ未知の領域へ突入してしまう……。


「ふむ。一旦やめるか」


「おぉ……」


 上にお手玉を投げるのを止めたため、ユグドラシルさんの手にお手玉が集まっていく。

 ユグドラシルさんの両手にこんもりと溜まったお手玉群。この量を制御していたのか……。


「それで、ようやく完成したのじゃな」


「あ、はい。あとはニスを塗って完成です」


「ふーむ。さっきと変わったようには見えんが……」


「かなり細かい修正でしたからね」


 ほとんど確認作業だったし、ヤスリをかけるにしても、ほんのちょっとだったから。


「では、ニスを塗ったらユグドラシルさんにプレゼントしますね?」


「あっ……。いや、その……」


「はい?」


「もういらんのじゃが……」


「え……」


 え、あれ? いらない……?


 そんな、何故……? 初代等身大ユグドラシル神像をプレゼントしたときは、困惑しながらも喜んでくれていたのに、二代目は何故……。


 ――まぁ改めて考えると、自分の等身大人形を二体も貰って嬉しいかといえば、そうでもないかなって、今さらながらちょっと思った。


「もうわしの部屋に一体おるしのう……」


「あー、やっぱりそうですよね」


 そう考えるとやっぱりいらんか。邪魔だしな……。


 いやでも、それじゃあ二代目等身大ユグドラシル神像はどうしたものか……。やっぱりちょっと邪魔なんだけど……。





 next chapter:スーパー二代目等身大ユグドラシル神像

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