第238話 VS大ネズミ8
蘇生薬の実験をするために村を出た僕とナナさんは、付近の森にて大ネズミを探していた。
「いないねぇ」
「……別に大ネズミでなくともよいのでは?」
「だけど、そこはお約束だし……」
確かにナナさんの言う通り、大ネズミで実験しなければいけないわけでもない。
とはいえ、今までずっと大ネズミで実験をしてきたんだ。やはり今回も大ネズミで実験したい。
……少なくともツノウサギで実験する気にはならない。さすがにツノウサギでの実験は心が痛む。大ネズミなら、あんまり心が痛まない。
「もう探し始めて一時間くらい経ちますよ?」
「うーん。もしかしたら、これからしばらく大ネズミを探す日々が続くかもしれない」
「えぇ……」
やっぱり野生の大ネズミを探すのは大変だ。
ダンジョンに行けばいくらでもいるんだけど、あそこのモンスターは倒すとすぐダンジョンに吸収されちゃうからねぇ。
「なんだか懐かしいな。以前も薬の実験をしようとして、何日も大ネズミを探し回ったっけ」
「あぁ、やっていましたねぇそんなこと……」
「あのときもずいぶん時間がかかった気がする。どのくらいだったかな」
「――三週間ですね」
「……え?」
「確かマスターは、大ネズミで回復薬の実験をしようとして、森を三週間さまよい続けていました」
「そんなにやってたんだっけ……?」
三週間も……?
頭おかしいな僕……。どんだけ根気強くネズミを探していたんだ……。
「といっても、ただがむしゃらに大ネズミだけを探し続けたわけではなく、他のモンスターを討伐したら帰宅したりしていましたが」
「あ、そうなんだ」
「あとは、ディアナ様と
「逢びきて……」
……ああそうか、思い出した。
大ネズミが見つからないままルクミーヌ村に到着しちゃって、とりあえずディアナちゃんと会ってから帰る――そんな日々が三週間ほど続いていたんだ。
「懐かしいな。……それでレリーナちゃんがキレたんだっけか」
「……私は大ネズミを三週間探すのもイヤですし、レリーナ様にキレられるのは本気でイヤですよ?」
そんなの僕だってイヤだよ……。
「いやけどナナさん、そうはいっても大ネズミが――」
「あ」
「ん? どうしたの? もしかして見つけた?」
「いえ、大ネズミを見つけたわけではありません。ですが、ふと気付いたのです。――蘇生薬ですよ。蘇生薬を使えばいいのですよ」
「んん? 何が?」
「マスターは、大ネズミの皮をコレクションする趣味があるじゃないですか。その大ネズミの皮に蘇生薬をかけて、大ネズミを復活させたらいいのですよ」
「大ネズミの皮に……?」
あ、そうか!
わざわざ生きている大ネズミを探さずとも、皮に蘇生薬をかけたらいいのか!
なるほどなるほど。あの皮だって、言い換えれば大ネズミの死体なわけだから、あれに蘇生薬をかければ…………うん?
「でもナナさん、僕がもっている大ネズミの皮は、えぇと……これなんだけど」
僕は実際にマジックバッグから大ネズミの皮を取り出して、ナナさんに見せた。
「これってダンジョンでドロップした物だよ? ってことは、これは大ネズミの皮じゃなくて、不殺大ネズミの皮ってことになるんじゃないかな?」
「ああ、そういえば……。とはいえ、大ネズミに変わりないのでは?」
「そうなのかな……。自然に生まれた大ネズミじゃなくて、ダンジョンが作った大ネズミで、ダンジョンが作った大ネズミの皮でしょ? なんかちょっと違うんじゃない……?」
「そういわれると、確かに……」
「もしかすると、この皮に蘇生薬をかけたら、何かおかしなものが復活するかもしれない……」
そもそもダンジョンで生まれたモンスターを、蘇生とかそういうことができるのか謎だ。
なんだかその実験は、今回のとは別の実験になってしまう気がする。
「変な要素が混ざっちゃうから、今回はやっぱり野生の大ネズミを探そう」
「はぁ。仕方ないですね……」
ナナさんも渋々ながら納得してくれたようなので、僕達は再び大ネズミを求めて歩きだす。
「あ、それからナナさん。別に僕は大ネズミの皮をコレクションしているわけじゃ――」
「あ」
「ん? もしかして見つけた?」
「歩きキノコですね」
「やー」
ナナさんが指差した先には、大ネズミではなく歩きキノコが歩いていた。とりあえず射った。
「うん。倒したかな」
「瞬殺でしたね」
「まぁ歩きキノコだしね……。とりあえず回収しようか」
倒れた歩きキノコまで近付き、ナイフでさくさくと裂いてからマジックバッグに押し込む。
「帰るとき、レリーナパパに押し付けてから帰ろう」
「私はキノコ好きですし、そのまま持って帰ってもよいのですが……」
「それじゃあナナさんの分だけは確保しておこうかな。あとはレリーナパパに」
ナナさんは好きだというが、子供舌の僕に歩きキノコは合わない。もう十五歳になった僕だけど、まだ合わない。
たぶんそのうち合うようになると思うので、それまではレリーナパパに押し付けていこう。
「さぁ進もうナナさん。大ネズミを探そう。歩きキノコはもういらないよ?」
「そうはいっても勝手に歩いてくるものですから――あ」
「ん? もしかして見つけた?」
「大ネズミ――ではありませんが、大ネズミの骨っぽい物を発見しました」
「骨かぁ……」
近寄ってみると、確かに大ネズミの骨っぽい。大ネズミの頭蓋骨っぽい。
「どうします? これで実験してみますか?」
「うーん……。これって本当に大ネズミの骨なのかな?」
「たぶん」
「たぶんかー」
以前ユグドラシルさんと一緒に実験したときは、大ネズミの
だけどあのときは、ユグドラシルさんがしっかり見極めてくれた。それで地面に落ちていた骨で実験できたのだ。
今回のは『たぶん』だ。『たぶん大ネズミの骨』である。そんな骨を、復活させてよいものだろうか……。
「大ネズミって進化先もいっぱいあるしなぁ……。どうするのよ、大ネズミじゃなくて超ネズミの骨だったら」
「超ネズミですか、それは危険ですね。……危険なのですか?」
「いや、僕も知らないけど……。『超』っていってるくらいだから、危険なんじゃないかな……?」
なにせ超ネズミだ。きっと危険だ。
それに超ネズミならまだしも、超ネズミ2や超ネズミ3、超ネズミゴッドなんて可能性もある。危険だ。
「ではまぁ、やめておきましょうか」
「それがいい。地道に探そう」
大ネズミかもしれないし、超ネズミゴッド超ネズミだったかもしれない骨から離れ、再び歩きだす僕とナナさん。
それからしばらくして――
「あ」
「ん? もしかして見つけた?」
「はい。あれを」
「お、やったねナナさん」
大ネズミだ。ついに僕らは大ネズミを発見した。
あと数回は違うものを発見するパターンが続くかと思ったが、無事に大ネズミを発見できた。
発見まで一時間強。なかなかに運が良い。
「まずは普通に討伐するのですよね?」
「そうだね」
「私が殺っても?」
「ん? うん、いいよ」
「では失礼して――『丸のこ』」
ある程度近付いてから、ナナさんは大ネズミ目掛けて『丸のこ』を放った――
「うわぁ……」
とてもとても嫌な音を立てながら、ナナさんの『丸のこ』が大ネズミを倒した。
なんだかトラウマになりそうな音声と映像だった……。
モンスターに血は流れていないので、そこまではスプラッタな映像にはなっていないが、それだけがせめてもの救いか……。
「少し可哀想な気もしますが、これも医学の発展のためです」
……別にこの実験で医学は発展しないと思う。
next chapter:VS大ネズミ9
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