第235話 『光るパワーアタック』


「ちーす」


「あぁディアナちゃん、ちーす」


 ディアナちゃんだ。

 ディアナちゃんが、何やらフランクな挨拶をしながら僕の部屋へやってきたので、とりあえず僕もフランクに返してみた。


「外出禁止が終わったらしいねー。おめでとう?」


「うん。ありがとう」


 なんで疑問形なのかはわからないけれど、ありがとう。


「実はさー、さっきレリーナと会ってきたんだ」


「あ、そうなんだ」


「レリーナに、『アタシはこれからアレクと会ってくるから』って言おうと思ったんだけどさー」


「…………」


 何故ディアナちゃんは、そこまでレリーナちゃんをあおりたがるのか……。

 あれかな? むしろ仲がいいからかな? 二人でじゃれているだけなのかな? そうだといいな。そう思いたいな。


「そしたらさ、もう外出禁止終わってたらしいじゃん?」


「あーうん。ちょっと前に外出禁止が解けて、僕も久々にレリーナちゃんと会ったよ」


「らしいね。けどさー、それにしてはレリーナの様子がおかしくて……まぁレリーナはいつもおかしいんだけど」


 何気にひどいなディアナちゃん……。


「えっと、いつものレリーナちゃんとは、どこか違ったのかな?」


「うん。なんだか妙に考え込んでて……」


「考え込んでた?」


 それはもしかして……僕の世界旅行についてか?

 あるいはひょっとすると、すでにレリーナちゃんは真相にたどり着いて――


「なんか水着のワイルドボアがどうのこうのって言ってた」


「…………」


 ……とりあえず、ダミーのキーワードがうまく作用しているようだ。

 それにしたって、もう少しキーワードをうまく組み合わせられなかったものかレリーナちゃん……。


「まぁそれはいいとして、何? どっか行くの?」


「あ、うん。ちょうど出かけるところだったんだ」


「どこ行くの?」


「んー。まぁどこでもいいんだけど、ここはやっぱり――大ネズミかな」



 ◇



 というわけでディアナちゃんと一緒に、『世界樹様の迷宮』までやってきた。


 ここへ来たのもかなり久々だ。瘴魔しょうまときや外出禁止のせいで、しばらく来ることができなかったから、なんだかんだで一ヶ月半ぶりくらいだろうか。


 そんな久々のダンジョンをさくさくと進み、僕達は4-2へ到着した。

 今回僕の目的は4-2エリア。4-2エリアの――『ワイルド大ネズミ』である。


「お、いたいた」


 4-2へ到着してすぐに、ワイルド大ネズミを発見した。


「アレクはネズミ好きだよねー」


「そういうわけでもないんだけど……」


 別に好きなわけではないのだけど……試し斬りや試し打ち、その他いろいろな実験等では、やっぱり大ネズミに協力してもらいたい気持ちがあったりする。


 とはいえ、さすがにもう大ネズミでは弱すぎて、あんまり試し打ちには向かない。

 そんな事情もあって、僕は新エリアに新しい大ネズミを配置した。それが、4-2エリアのワイルド大ネズミだ。


 ワイルド大ネズミは、大ネズミが進化することで誕生するモンスターである。

 といっても、あくまで進化先のひとつであり、全ての大ネズミがワイルド大ネズミに進化するわけでもないらしい。


 どうも大ネズミには進化先が複数あるらしく、ワイルド大ネズミの他にも、大ネズミリーダー、ファイア大ネズミ、アイス大ネズミ、巨大ネズミ、超ネズミ――等々の種類があるそうだ。


 僕的にネズミならどれでもよかったので、今回は無難そうなワイルド大ネズミを選んでみた。

 超ネズミとかも少し気になったけれど……本当に超強かったら困るので止めておいた。


「さてディアナちゃん。出発前に伝えた通り、僕はこれから『パワーアタック』の試し打ちをしようと思う」


 今回ここまで来た理由が、『パワーアタック』の試し打ちである。

 先日取得した『槌』のスキルアーツである『パワーアタック』。この技の性能を、ワイルド大ネズミで確かめようという狙いだ。


「アタシはどうしようか? 援護えんごする?」


「ん? んー、まぁ大丈夫。とりあえず一人で戦ってみるよ」


「そっか。じゃあ応援だけしてるね?」


「ありがとうディアナちゃん」


「頑張れー」


「う、うん。ありがとう」


 ディアナちゃんの雑な応援を背に受けつつ、僕はワイルド大ネズミに向かって歩き出した。

 すでにアレクシスハンマー1号は装備している。準備は万端だ。いつでも来い、ワイルド大ネズミよ。


「……しかし、毛以外は違いがわかんないよね」


 進化前の姿である大ネズミとワイルド大ネズミは、体毛に変化が見られる。

 大ネズミが灰色をしているのに対し、ワイルド大ネズミは茶色をしている。それに加え、若干体毛が毛羽立っている……ような気もするが、よくわからない。


 見た目の差異はそれくらいだ。大きさとかは特に変わらない。

 能力値なんかは結構な差があるらしく、ワイルド大ネズミは僕の矢を受けても、一撃程度なら耐える。……二撃目をくらうと死ぬ。


 というわけで、進化したにも関わらず、結構弱いワイルド大ネズミだ。

 おそらく『パワーアタック』の一撃で粉砕できるのではないかと踏んでいるのだが、果たして。


「キー!」


「鳴き声も同じだもんな……。やっぱり超ネズミにした方が面白かったかなぁ……」


「キー! キー!」


 僕の接近に気付いたワイルド大ネズミが、こちらに向かって突進してきた。


「さてさて、それじゃあ格好良くカウンターを決めようか」


 ワイルドボア戦では肩が外れる羽目になった僕だけど、ワイルド大ネズミならば問題はないだろう。


 僕はアレクシスハンマー1号を構え、後ろに引き、タイミングを計り――


「キー!」


「いざ――――って、えぇ!? うぉあ――ひ、『光るパワーアタック』!」


 『パワーアタック』を放とうとしていたところ――なんやかんやあって『光るパワーアタック』が発動した。


 『光るパワーアタック』が直撃したワイルド大ネズミは、数メートルほどゴロゴロと転がって……そのまま動かなくなった。倒したらしい。


「あっ……」


 ぶっ叩いたワイルド大ネズミの脇腹あたりに、光る苔がもさっと生えた。


「あっ……。あぁ、残るのか……」


 倒したワイルド大ネズミが、溶けるようにダンジョンに吸収された。しかし、ヒカリゴケだけは吸収されずに地面に残った。

 ヒカリゴケは消えなかった。――ヒカリゴケは消えない!


「……なんだったの?」


「え? あ、うん……」


 駆け寄ってきたディアナちゃんが、不思議そうに尋ねてきた。

 そりゃまぁ不思議だろう。僕の言動も、相当挙動不審だった自覚がある……。


「なんかね、なんか――ひらめいた」


「閃いた?」


「閃いた」


 閃いたんだ。イメージとしては、頭の上で電球が『ピコーン』と光ったかのような、そんなイメージ。


「『パワーアタック』を放とうとした瞬間、『光るパワーアタック』を習得したらしくて……。それで、ちょっとパニックになっちゃった」


 今まさに『パワーアタック』を発動させようかって瞬間に、突然『光るパワーアタック』のワードやらイメージやらが脳裏に浮かんできて、かなり慌ててしまった。

 とりあえずイメージに従って、そのまま『光るパワーアタック』を発動させたのだけど……。


「『光るパワーアタック』って何?」


 ……それは僕が聞きたい。なんなんだ『光るパワーアタック』って。


「えぇと、たぶん『ヒカリゴケ』と『パワーアタック』の複合スキルアーツだと思うんだけど……」


「あー、そうなんだ。どんな効果?」


「叩いた場所に、ヒカリゴケが生えるんだ」


「……なんの意味があるの?」


 僕が聞きたい。


「けどほら……光ってて綺麗じゃない? 綺麗だよね?」


「え? えっと、まぁ……綺麗だね」


「……うん。ありがとうディアナちゃん」


「え? うん……」





 next chapter:『コキュートス』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る