第182話 総集編4
「はい、アレクちゃん」
「ありがとうございます」
ディースさんが紅茶とクッキーを用意して、僕の前に置いてくれた。
それからディースさんは、椅子に座っていた僕を一度どかし、自らがその椅子に座った後、膝の上に僕を乗せた。
僕は未だに膝の上に座らされるのか……。もう十四歳だというのに……。
おそらく次回のチートルーレットで、僕は十六歳。さすがに次回は断ろう……。
「前回のルーレットはね……」
「はい?」
「実はちょっと心配だったの」
「はぁ」
ディースさんが、真後ろから僕に声を掛けてきた。
……どうでもいいんだけど、ディースさんは前が見えているのだろうか?
僕もだいぶ成長したわけで、ディースさんの視界には僕の後頭部しか映っていない気がするのだけど……。
そして前に座っているミコトさんから、ディースさんは見えているのだろうか? もしかして二人羽織している二人みたいに見えてない?
「やっぱりダンジョンは、かなりのチートアイテムだもの。心配していたの」
「あぁ、そうですね、そうだと思います」
不殺タイプとかいうおかしなモンスターを採用しているせいで、僕らのダンジョン運営はとてものんびりだ。
コストの問題があり、弱いモンスターしか採用できない。そのため、ダンジョンの拡張はとてものんびり。レリーナちゃんに嫌味を言われるくらいのんびりだ。
この不殺縛りを取っ払ったら、ダンジョン拡張のスピードも上がり、ダンジョンポイント稼ぎも
そして大量のダンジョンポイントを取得できれば、もっといろいろできる。もっといろいろ捗るはずだ。
ダンジョン拡張だけではなく、高価で珍しい素材やアイテム、武器や魔道具も買える。美味しい食材なんかも買える。
……だがしかし、今はカツカツだ。自転車操業状態だ。
この状況でダンジョンポイントを私的に流用したら、ナナさんになんて言われるか……。
「ダンジョンによって、アレクちゃんの生活が一変しちゃうんじゃないかと、私は心配していたの」
「なるほど……」
そういえば前回ルーレットでダンジョンコアが当たった瞬間、ディースさんは微妙な顔をしていた気がする。そんなことを心配していたのか……。
「それに、ナナちゃんね」
「ナナさんですか?」
「私も、ナナちゃんが生まれたことは予想外だったの」
そうなの? ……あ、そういえばナナさんもそんなことを言っていたな。
ダンジョンコアがダンジョンマスターを生もうとしたら、何故かすでに僕というダンジョンマスターがいたので、コアは困惑しながらも、とりあえず一応ナナさん生んだ――とかなんとか。
だとすると、ナナさんが生まれない可能性も大いにあったわけだ。
「ダンジョンに、娘に……。アレクちゃんの生活がどうなるのか、私は心配で心配で……」
「そうだったんですか……」
「それでも私にできることは、アレクちゃんを見守ることだけ。一時も目を離さず見守っていたわ」
「……ご心配ありがとうございます」
別に離してもいいけどね……。一時と言わず、しばらく目を離してもいいけどね……。
「その辺りは私も心配していたのだけど、結果的にはすべて丸く収まった感じがするな」
「そうですねぇ」
ミコトさんの言う通り、結果的には丸く収まった。
村の近くにダンジョンができたり、そのダンジョンマスターが僕だったり、娘だと名乗る人物が突然現れたりしたけれど……結果的には大きな問題もなく、僕も僕の周りも平穏だ。
……まぁ、ユグドラシルさんには結構な迷惑をかけてしまったけれど。
「むしろ、私達的には大満足だ。ダンジョンをアレク君に当ててもらったことは、この上ない幸運だったよ」
「そうなんですか?」
「うん。あれだよ――お遊戯会だよ」
「あぁ……」
そうか、お遊戯会か……。二人とも大満足しているのか……。
「もうアレク君のおままごとは見れないかと、少し残念に思っていたんだけどね。まさかこんな形で復活するとは」
「そうですね……まさかまたやることになるとは、僕も思っていませんでした」
「アクションもあるし、私としては大満足だ」
「そうですか……」
いや、いいけどね。今ではもう結構な人数に見られているわけだし、今更二人が僕のお遊戯会を楽しんでいたとしても、別にもういいけどね……。
「最近は、お遊戯会にもいろんなバリエーションがあって楽しいね。シンプルな
「……楽しんでもらえて、何よりです」
最近はただ大ネズミを倒すだけではなく、いろんなパターンを
大ネズミ君にも、いろんな役を割り振ったりしている。――といっても、大ネズミ君は難しい演技ができない。というか演技なんてものができない。僕を倒そうと襲いかかることしかできない。
なので、なんとか僕が説明台詞を挟んだりしてストーリーを展開している。
ちなみに最近ではもっぱら、1-1エリアに到着し、ギャラリーが集まった瞬間からお遊戯会を始めている。
そして大ネズミ君がポップしたら、適当にストーリーをつなげて大ネズミ君を討伐している。
僕はどのくらいで大ネズミ君がポップするかわからないので、なかなかスリリングな演技を強いられている。
「あとはあれね、髪の毛ね」
「あぁ、あったなぁ髪の毛回収。あれも大変そうだった」
「アレクちゃんは、女の子の髪を一生懸命集めていたわね」
「女の子ばっかりだったな」
なんだかしみじみと僕の過去を振り返るディースさんとミコトさん。
別に僕は、女の子限定で髪の毛を集めていたわけではないんだけどな……。
父の髪も集めたし。父とか……まぁ父とか。いや、確かに男性は父だけだったけど……。
「回収方法のバリエーションが、妙に豊かだったわね」
「確かにな。もしかしたら私たちを飽きさせないために、苦労しているのかと思ったくらいだ」
さすがに見ている二人のことなんて、考慮してはいないが……。
「セルジャン君は、床屋さんごっこだったかしら」
「あれは見ていて楽しかったな。個人的にはもうちょっと長くやってほしかった。シャンプーまでやってほしかった」
そこまで本格的に床屋さんごっこがしたかったわけではないので……。
「ナナちゃんは、直接お願いしていたわね」
「なんといっても、ナナさんはアレク君の事情をすべて知っているからな。……そのせいだろうか? 普段からアレク君とナナさんは、気心知れた雰囲気がある」
まぁ前世トークとかもできるから、そういった部分はあるかもしれない。
というか、目の前で僕の分析とかあんまりしないでほしいんだけど?
「ミリアムちゃんは、
「あっという間にペースを握られていたな。アレク君のお母さんは、相変わらず底知れない感じがする」
それは僕も思う。我が母ながら、未だに底知れない。なんだかすごいし、なんだかわけがわからない部分がある。
「ローデットちゃんは、寝込みを襲っていたわね」
「そういうのはよくないぞアレク君」
寝込みを襲ったのは僕じゃない。
「ジスレアちゃんも、櫛で髪をとかしていたわね。アレクちゃんはだいぶ興奮していたみたいで……」
「そういうのも、どうかと思うぞアレク君」
興奮はしていない。
「ディアナちゃんは、マクラに落ちた髪の毛を漁っていたわね」
「これはだめだと思うぞアレク君……」
僕もそう思う。
しかし改めて聞くと、だいぶ変態的な行動をしているな僕は……。
「レリーナちゃんは、お守り作りね」
「その言葉だけで、あっさり片付けていいんだろうか……」
ミコトさんの言う通り、レリーナちゃんはいろいろあったからなぁ……。
髪の毛集めとは直接関係ない部分だけど、確かにいろいろあった……。
「最後にユグドラシルちゃんね。まぁユグドラシルちゃんは髪ではなくて枝だったけど」
「枝を貰って、無事に全員回収完了だな。――お疲れ様でしたー」
「お疲れ様でしたー」
何やら身を乗り出して、『いえーい』といった感じでハイタッチをかわす女神ズ。
その際ディースさんが前のめりになったので、ディースさん膝に乗っている僕は押しつぶされる恰好になった。
いきなり後ろから両手が伸びてきて何かと思ったら、ハイタッチか……。というか、その挨拶は?
「あの、それは?」
「あぁ、うん。アレク君とユグドラシルさんが『お疲れ様でしたー』と挨拶をしているときに、私たちも同じように挨拶していたんだ」
「……そうなんですか」
相変わらず、二人は僕の視聴を楽しんでいるなぁ……。
「とまぁ、お疲れ様はいいんだけど……」
「どうかしましたか?」
「本当によかったのかな? もうちょっと集めてもよかったんじゃないかな?」
「あぁ……。ですが、最初に決めたルールだったので……」
ナナさんが適当に決めたルールではあるけれど、そうでもしないと際限がなくなりそうだったので。
「けど、ほら、幼馴染の分くらいは、回収しておいてもよかったと思うんだけど」
「幼馴染……?」
「ジェレッド君の髪を」
「あ、ジェレッド君」
そうか、ジェレッド君か。あぁうん。ジェレッド君。幼馴染。
「いえ、もちろん僕としてはジェレッド君の髪を集めたい気持ちはありました。大事な幼馴染なので」
「そうだろう?」
「とはいえ、ルールですので……」
「ルールか……」
ナナさんが適当に決めたものだとはいえ、ルールはルール。
いくら大事な幼馴染のジェレッド君のためだとしても、最初に決めたルールを簡単に
そういうわけで――やっぱりジェレッド君は犠牲になったのだ。
next chapter:チートルーレット Lv20
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