第181話 アレク君十四歳。二年ぶり五回目
「ああぁぁぁぁ…………」
やってしまった……。やらかしてしまった……。
気が付くと、僕はいつもの会議室にいた。
そして、ひどく困惑しているミコトさんとディースさんの姿を確認した。
その瞬間に、僕は理解した。自分がいかに愚かな行為に
「あぁもう、あぁもう……」
いったい何をやっているんだ僕は……。
やっぱり疲れていたのかな……。そうだと思いたいな……。
あとあれだ。『徹夜』とか『
とにかく夜中にうっかり眠ってしまわないことに、気を取られすぎた。
とはいえだ……。だからといって、昼寝はないだろう昼寝は……。
「アレク君。その……大丈夫か?」
「大丈夫です……」
思わず床に膝をついて頭を抱えてしまった僕を、ミコトさんが心配してくれた。
とりあえず大丈夫だと返したけれど、あんまり大丈夫じゃない。
さすがに落ち込む。自分の間抜けっぷりに落ち込んでしまう。
『今日は全体的に間が悪い』なんてことを考えていたけど、今回ばかりは間が悪いどころじゃないな。完全に間が抜けていた。
「えぇと、ちょっと聞いていいかな……?」
「……なんでしょう?」
「寝ないでユグドラシルさんを待つつもりだと思っていたんだけど……アレク君は、いったい何を?」
「…………」
むしろ僕が聞きたい。というか実際に、『僕はいったい何をやっているんだ』って、自問自答したばかりだ。
いったいなんて答えたものか……。僕の奇行を、女神ズにはどう説明したらいいんだろう……。
……それにしても、そういえばミコトさんもユグドラシルさんのことを『ユグドラシルさん』って呼ぶんだっけか。
たぶん普段僕が呼んでいる呼び方に引っ張られたんだろうけど、なんかちょっと面白い。
「えぇと、そうですね……。うっかり寝落ちしちゃいましたね。疲れていたんですかね」
「寝落ち……?」
正直に説明するにはあまりにも恥ずかしい失敗なので、軽くごまかしてみた。
「寝落ちって感じでもなかったと思うけど……」
「…………」
「『そうだ、昼寝しよう』なんて言っていたし……」
「…………」
ごまかせなかった。さすがミコトさん。さすがは女神様。
「――ここに来てからの、アレクちゃんのリアクションでわかったわ」
「ディース?」
「たぶん自分で言った『徹夜』って言葉に引きずられたのね。『夜に寝ないで起きている』――そのことに集中しすぎたのよ」
「なるほど?」
「それで、『夜に寝ないため、昼にちょっと寝ておこう』そんなことをアレクちゃんは考えたのね。母である私にはわかるわ」
僕の奇行を、ミコトさんに解説するディースさん。
さすがディースさんだ。さすがは母を自称するだけある。だいたい合ってる。というか完全にその通りだ。
「ディースはこう言っているが?」
「えぇと……ええまぁ、そうなん――」
「まぁ、さすがにそれはないだろう。アレク君はそこまで間抜けじゃない」
「…………」
さっきからミコトさんが、僕の傷口を広げたり、傷口に塩を塗り込もうとしてくる。
◇
「ま、まぁそういうこともあるさ。そんなうっかり、誰にでもある」
「そうですね……」
これ以上ミコトさんに傷付けられるのがイヤだったので、正直に『僕は間抜けです』と二人に告白した。
「ごめんね、アレクちゃん」
「はい?」
「私も状況は
「あぁ……」
まぁそれはそうだ。呼んでほしくなかった。だからこそ、頑張って徹夜しようと意気込んでいたんだ。
「だけど、『チートルーレットは、規定のレベルに到達以降、眠りについた瞬間に転送』って決めていたから」
「そうですか……」
「いくら息子のためだとはいえ、簡単に神がルールを
「それじゃあ、仕方ないですね……」
神のルールならば仕方ない。別に息子ではないが。
「それに、アレクちゃんには何か考えがあるのかもしれないと思ったから」
「と言いますと?」
「あまりにも自然に唐突に平然とベッドに入っていったから……」
「…………」
……きっとディースさんもミコトさんも、驚いただろうな。
あんなふうに『ユグドラシルさんが来るまで寝ない覚悟!』『徹夜だ!』『完徹だ!』なんて騒いでいた僕が、即座にベッドに入り込み昼寝を始めたのだから……。
「ユグドラシルちゃんには悪いことをしちゃったわね……」
「はい……。とりあえず帰ったら謝っておきます」
なんだかずいぶん楽しみにしていたからな。きっとがっかりさせてしまうだろう……。
今回なんて、わざわざ呼び出したというのに、この有様だ。
おそらく今世紀最大の『ユグドラシルさんごめんなさいリスト』案件だろう。これはもう、ウッドクローは必至かもしれない。……さすがにスーパーマンパンチはないと願いたいが。
「まぁユグドラシルさんは優しいから、きっと許してくれるさ」
「そうですね……」
ユグドラシルさんは優しい。というか、なかなかに甘い。かなり甘やかしてくれる。だからまぁ、たぶん大丈夫だとは思うんだけど……。
「たぶん、次のルーレット――レベル25のルーレットを目指せって、応援してくれるんじゃないかな?」
「実際それしかないですよね……。そうですね、僕も頑張ってレベル25を目指します」
「うん、それがいい。あぁそうだ、その前にアレク君――レベル20到達おめでとう」
「あぁ……。ありがとうございますミコトさん」
そういえばそうだ。何故かレベル20に到達して早々に落ち込むことになってしまったけど、本来ここに来られたのはおめでたいことなんだ。喜ばしいことなんだ。
「アレク君がここへ転送されたのも、もう五回目か」
「そうなりますね」
「二年ぶりに、五回目のチートルーレット。アレク君ももう十四歳だ」
確か前回――四回目のチートルーレットも二年かかったんだっけかな?
そして今回も二年で到達。今のところ、レベルアップまでに必要な経験値はそこまでインフレしていないっぽい。
できたら次回以降もこれくらいのペースで――二年に一度くらいのペースでルーレットを回していきたいね。
「この二年も、いろいろあったわねー」
「そうですねぇ。前回のルーレットを回してから二年――つまり、ダンジョンを手に入れてから二年ですからね」
「そうねぇ。ダンジョンは…………とりあえず楽しみながら作っているみたいね」
「はぁ」
……なんだか微妙に言葉を濁しているっぽい印象を受けた。
やっぱりディースさんから見ても、僕達のダンジョンはちょっとおかしいようだ。
「何より――ナナちゃんね。ナナちゃんよね」
「ナナちゃん……」
「私も驚いたわ。まさかこんなに早くアレクちゃんに娘ができるなんて」
「娘……」
まだ僕は娘とは認めてないんだけど……。
そりゃまぁ確かに最近は、少し気を抜くと認知しかけている自分がいたりもするけれど……。
そういえば、ダンジョンができて二年なのだから、ナナさんとの付き合いも二年なわけか。
まだたった二年なんだね。それにしては、ずいぶん馴染んでいる気がする。家族や村の人たちとも、仲良くやっているし。
「まさか、こんなに早く私に孫ができるなんてね」
「孫……」
孫なんだ……。まぁ僕が息子だとすると、ナナさんは孫か……。
どうなんだろうなそれ、ナナさん的にはどうなんだろう。ナナさんはディースさんのことを、お祖母様と認めるのだろうか……?
ナナさんとか前にディースさんのことを、奇乳呼ばわりしていたけど……。
next chapter:総集編4
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