第132話 ラブコメ回2
「ダンジョンー。ダンジョン行きたいー」
「そうだねぇ」
ベッドでゴロンゴロン転がりながら、ディアナちゃんが
「宝箱開けたいー。ヒカリゴケむしりたいー」
「むしりたいんだ……」
「変なスライム見たいー。世界樹様見たいー」
「たぶんダンジョンに行ったところで、そうそう世界樹様を見られるわけでもないと思うけど……」
というか、世界樹様と変なスライムを同列に語るのはやめるんだディアナちゃん。
「……あ、そうだ」
「うん?」
何かを思い付いた様子のディアナちゃんが、ムクリと起き上がり、こちらに向き直る。
「アレクは世界樹様とよく会うし、仲いいんだよね?」
「うん」
「んー」
「いたい」
り、理不尽……。
ディアナちゃんから軽めの肩パンをもらってしまった。自分から聞いてきたのに、答えが気に入らなかったらしい。
「まぁいいや。じゃあさ、アレクから世界樹様に頼めないの?」
「ん? 何をかな?」
「アタシらも入っていいように」
「え? あぁ」
なるほど。ユグドラシルさんとのコネを使えと、ディアナちゃんは言っているのか……。
「大人達は、ダンジョンが安全かどうかを確認してるわけでしょ? けどさ、あのダンジョンは世界樹様が作ったんだから、それは世界樹様に聞けばよくない?」
「……まぁ、そうだね」
「それでさ、できたら世界樹様から『子供も入っていいよー』って言ってもらおうよ」
「うーん……」
実は、前回ユグドラシルさんがここへ来たとき、ユグドラシルさんからもそう提案してもらった。
『ダンジョンは安全じゃと、わしから言ってもよいぞ?』――そんなことをユグドラシルさんは言ってくれたのだ。
「けど、それはできないよ」
「えー、なんでよ?」
さすがにこれ以上ユグドラシルさんに頼ることはできない、今回はちょっと頼りすぎた。
なのでユグドラシルさんが年齢制限の解除を申し出てくれたときも、僕は断った。
「世界樹様は僕たちの神様なんだ。ちょっと困ったから、すぐ神様を頼ろうだなんて、それはよくないよ」
どの口が言うんだ――そんなことを思ったりもしたけど、僕はディアナちゃんにエルフとしての心構えを説いた。
「世界樹様は優しいから、お願いしたら聞いてくれるかもしれない。だけど、だからこそ、そう簡単に頼らないよう気を付けるべきだ。じゃないと、なんでもかんでも世界樹様に頼りっきりになっちゃうから」
どの口が言うんだ――再びそんなことを思ったりもした。……まぁこれからはね、これからはそういう心構えでユグドラシルさんと接しようっていう、僕の意気込み。
「そうなんだ、アレクはそんなことを考えてたんだ……」
「う、うん……」
考えてはいる。実践できているかどうかが定かではないだけだ。
「とにかくさ、村人総出でダンジョンをチェックしているわけだから、すぐ僕らも入れるようになるんじゃないかな?」
「チェックっていうか、遊んでるだけだと思うけど」
「まぁねぇ……」
とりあえず危険もないだろうし、そのうち年齢制限も解除されるんじゃないかと思っている。
もし、いつまで経っても解除されなかったら……やっぱりユグドラシルさんにお願いしようかな……。
「とにかくさ、もうちょっと待ってみようよ。それで入っていいって許可が出たら……そうだね、一緒に行ってみようか」
「うん。……あ」
「ん?」
「二人で?」
「あーうん、まぁ。二人で」
「そうなんだ。アレクはアタシと二人っきりでお出かけしたいんだ?」
ディアナちゃんが、ニマニマしながら僕をからかう。
「アタシとデートしたいって、告白してるんだ?」
「そうだね」
「お、おう……」
相変わらず自分で振っといて照れるディアナちゃん。
だから言っているだろうディアナちゃん。さすがに十一歳の少女相手ではドギマギしないのだよ。あと数年してから出直してきたまえ。
いや、数年後だとまだちょっと早いかな……? さすがに十代前半とかのディアナちゃんにドギマギさせられるのは、なんだかまずいような……。
「じ、じゃあそのときまでダンジョンは我慢するね?」
「うん、そうしよう」
というわけで、ひとまずディアナちゃんは納得してくれたようだ。
「……ところでさ」
「ん?」
「あれ何?」
部屋に置いてあった木材を指差して、ディアナちゃんがそんなことを尋ねてきた。
「木だね」
「いや、それはわかるし」
「ちょっと良い木なんだ」
「それはわかんなかったけど……そもそも良い木とか悪い木とかわかんないし……。じゃなくて、なんなの?」
「人形を作ろうかと思って」
「人形……?」
高さは百五十センチ、直径一メートルほどの木材。この大きさからわかるように、今回作るのは――等身大の人形だ。
「部屋に散らばってた人形も整理されたし、いろいろ大きい賢者さんの人形も移動して、やっと部屋が広くなったと思ったのに……」
「まぁ完成するまでは、ちょっとスペースを取りそうだね」
ディアナちゃんの言う通り、僕の部屋に安置されていた新型等身大母人形は移動した。
フラフープをするユグドラシルさんのためにも部屋を広くしたいと考えていた僕は、父の反対を押し切り、玄関に人形を移動したのだ。
毎回玄関で新型等身大母人形と対面するのはイヤだと語る父を、『ユグドラシルさんのためだから』で黙らせ、以前企んでいた『新型等身大母人形
……よく考えると、『ユグドラシルさんのためだから』と言いつつ、『自分の部屋から新型等身大母人形を撤去したい』という欲望を叶えただけじゃないかって気も、ちょっとだけする。
「この木でいっぱい人形を作るの?」
「ん? あぁ違うよ、大きい人形を一体だけ」
「大きい人形?」
「あ、大きいっていうか、同じ大きさかな? 同じサイズの人形を一体作る予定」
「え、けど賢者さんはもっと背高くない?」
ディアナちゃんは木材の隣に立ち、自分と高さを比べながらそうつぶやいた。
どうやらディアナちゃんは、僕がまた新型等身大母人形を作るのだと勘違いしたらしい。
ディアナちゃんよりは高さのある木材だけど、母よりは低い。確かにこれでは新型等身大母人形を作ることはできないだろう。
「いや、今度作るのは僕の母じゃないんだ」
「あ、そうなんだ? んん? このサイズで作れるんだから、大人じゃないよね?」
「そうだね」
「つまり――アタシだ」
「…………」
え、どうしよう、違うんだけど……。
困ったな……。『いやー、つれーわー。モテる女はつれーわー』みたいな顔をしているディアナちゃんに、なんて言おう……。
「えっと、ユグドラシルさん――世界樹様なんだけど……」
「んー!」
「いった!」
かなり本気の肩パンをもらってしまった……。
えぇ……? これ僕が悪いの……?
けどまぁ、かなり恥ずかしい勘違いをしたのに気が付いたのか、顔を赤くして照れているディアナちゃんを見ていると、僕が悪いことをしたような気もしてきた。最初からユグドラシル神像を作ると伝えたらよかったな。
「えぇと、ごめんねディアナちゃん」
「……別にいいんだけどさ。で、何? 世界樹様を木で作んの?」
「うん」
まぁ世界樹様は元から木なわけで、『世界樹様を木で作る』ってフレーズには、ちょっと違和感を覚えるけど。
「世界樹様には日頃からお世話になっているからさ、そのお礼に世界樹様と同じサイズの人形を作ろうと思ったんだ」
「ふーん」
言わずもがな、今回のダンジョン関連で迷惑をかけたお詫びである。
僕はナナさんと一緒に『ユグドラシルさんごめんなさいリスト』を作ったが、改めて作成したリストの内容と項目の数を見て――『これは怒られる』そう感じた。
なのでその時点から、ユグドラシルさんの機嫌を取るために等身大ユグドラシル神像の制作に着手していたのだ。
とりあえず
まぁ完成まで数ヶ月かかるだろうし、ユグドラシルさん来訪までに間に合わないことはわかっていが、制作途中の神像を見せて『僕は反省しています』アピールすることすら叶わないとは……。
「お世話になってるから、そのお礼?」
「うん」
「お礼になんの?」
「うん?」
「世界樹様と同じサイズの人形を作ることが、お礼になんの?」
「え、いや……え? ならないのかな?」
「普通は引くと思う」
「…………」
引かれるのか。
……いや、そうか、そうだよな。普通は相手を
なんだかんだみんな喜んでくれるから、うっかりしていた……。
『男性は肉じゃがを与えておけば喜ぶ』なんて思い込まれていたように、『相手を模した人形を作ってプレゼントすれば女性は喜ぶ』なんてことを、いつの間にか僕は思い込んでいた。どんな思い込みだ……。
「ユグドラシルさんも引くかな……?」
「いや、わかんないけど」
「やっぱり作るのやめようかな……」
「んー。じゃあ代わりにさ、この木でアタシを作ればよくない?」
ディアナちゃんが木材をペシペシ叩きながら、そんなことを言う……。
引くのか引かないのか、どっちなんだディアナちゃん……。
next chapter:村長さん
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