第33話 敏腕キャバ嬢ローデットさん
なんだか
僕は癒しを与えてくれたローデットさんに報いるため、高価なお酒を注文しようとした。しかし当然ながら、ここではそんなサービスを提供していない。何故ならここは、神聖な教会だから……。
神聖な教会をキャバクラ扱いとか、思えばとんでもなく罰当たりな気がする……。
あ、そうだ教会だ。教会にちょっとお願いがあったんだ――
「ところで、僕は『木工』スキルの練習で人形を彫っているのですが……」
「人形、ですか?」
「ええ、母の人形を」
「ミリアムさんを?」
「大量に」
「…………」
やべぇ、さすがのローデットさんもちょっと引いている。
いや、別に僕だって『最近は、木で母親の人形を彫るのが趣味でねー』みたいな世間話をしたかったわけじゃないんだ。お願いがあっただけなんだ。
「その、練習です。スキルの練習で、一体作っただけなんですよ。ですが思いのほか母が喜びまして、いつの間にか大量に作る羽目に……」
「はぁ、そうなんですかー……」
今現在、僕の部屋には母の人形が六体いる。これ以上増えるのはまずい。
彫っているときは楽しいし、並べて比べてみると自分の技術が向上しているのがわかるのも楽しい。
問題は、そのうち並べられないほど数が増えてしまいそうなことだ。
「それで、ローデットさんに……というか教会に相談があるのですが」
「はぁ、なんでしょう?」
「母の人形を引き取ってもらえませんか?」
「は? 教会でですか?」
「ええ。それで……焼いてもらえませんか?」
「はぁ!? なんでですか!」
ずいぶん驚いたようで、思わず腰を浮かすローデットさん。
あれ? この世界ではそういうサービスはやっていないのかな? 前世ではあったような気がするんだけど。
「もしかして、そういうのはやっていないんですか?」
「やってないですよー。なんでミリアムさんを焼くんですか……」
母じゃなくて、母の人形ね。
「そうですか。結構溜まってきちゃったんで、教会で
「ごめんなさい、私ではお役に立てそうにないですー」
そうか、本当にどうしよう……。もうリバーシと抱き合わせで売ってしまおうかな……。
「けど、自分の人形ですかー。いいですねー」
「はい?」
「私も自分の人形とか作ってもらえたらうれしいなーって」
「はぁ……そうですか。まぁ、機会があったら……」
僕はなんとなく玉虫色の返答をした。
なんだろうね? またおねだりされたっぽいけど、どうなんだろう? 欲しいの? うーん……。
いや、これはきっと敏腕キャバ嬢ローデットさんの社交辞令だろう。たぶんそうだ。本気にして恥をかくところだった。
『人形作りが趣味だ』と言った客に、キャバ嬢が『えー、私も作ってほしいなー?』と返したにすぎない。
それでキャバ嬢をモデルにした木彫りの人形を、実際に作って持っていってみろ、ドン引きされるわ。
「あー、すみません。ずいぶん話し込んでしまいましたね」
「いいえー、私も暇ですしねー」
「それじゃあ、そろそろ鑑定しますね?」
「はい、どうぞー」
本当にずいぶんと無駄話をしてしまったけど、そもそもの目的はステータスのチェックだ。忘れないうちにやっておこう。下手したらこのまま帰りかねない。
すでにお金は渡しているんだ。これで帰ったら……本当にお金を払ってお話してもらうだけのキャバクラになってしまう。
というわけで僕は鑑定のため、水晶に手を置き、魔力を流す――
名前:アレクシス
種族:エルフ 年齢:7(↑1) 性別:男
職業:木工師見習い(New)
レベル:5
筋力値 2
魔力値 3
生命力 3
器用さ 8
素早さ 2
スキル
弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv1
称号
剣聖と賢者の息子
「…………」
「変わってないですねー。私、この数字覚えちゃいましたよー」
ローデットさんの言う通りだ。初めてステータスを確認して以降、僕は何度も鑑定しているけど、変化したのは職業欄だけだ。
『魔法使い見習い』から『木工師見習い』になった。後は何も変わらない。……あぁ、年齢が一つ上がったか、まぁ変化はその二箇所だけだ。
こんなに木工を頑張っているのだから、『器用さ』のステータスアップか、木工スキルのレベルアップくらいはしてほしいところなんだけどなぁ……。
「ふぅ……。まぁしょうがないですね、それじゃあまた来ます」
「はーい。お疲れ様でしたー」
僕は応接室から礼拝堂に戻り、出口へ向かって歩く。チラリと後ろを見たけど、さすがにお見送りまではしないらしい。
まぁいいや、なんとなく元気を貰った気がするし、帰ったらまた頑張ろう……相変わらずのリバーシ作りだけど。
そしてリバーシでお金を稼いだら、また貢ぎに来るわけだ……。本当にキャバクラとその客みたいだな……。
next chapter:リバーシ全国展開
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