第38話 消失のち焦燥

 学校まで日記を持ってくる、私がバカだったのだ。




 放課後、心当たりのある場所を必死に探し回りながら、そんな言葉と後悔が何度も頭の中を巡った。


 普段から持ち歩いていれば直接メモできるし、なによりも天邪鬼な自分が素直になるための御守おまもりになるのではないかと考えていた。その結果がこれだ日記をなくした。最近、悠と距離を詰められてるから、ちょっと浮き足立っていたのかもしれない。自業自得である。


 だが、何故なくなってしまったのか。どこかに落とした? でも、鞄に入れているものが簡単に落ちるだろうか。


 ひととおり校舎内を探し回ったあと、登下校の道を隈無く探して、自宅まで確認してきた。でも、結局見つからなかったので、また学校に戻ってきた。そして今は、校舎内を必死に探し回っている。


 やはり、落としたわけではない? たとえば、誰かが私の鞄から盗んだとか。だがなんのために? 可能性としてあるのは――たとえば、私を嫌っている人間の嫌がらせ、とか。


 最近、同じクラスの女子たちが嫌がらせをしてくるのにも気付いていた。きっと、早乙女くんを振ってしまったことが切っ掛けだろう。


 だが、それを疑うのは、まず他の可能性を完璧に潰してからでないとダメだ。誰かを疑うのは大変失礼な行為だし、もし違っていたら迷惑にもなるし、少しだけ自分の心配もすれば、嫌がらせが激しくなる可能性だってある。


 疑わしい相手はいるけど、慎重にならなければならない。


 なにより、誰かに日記について尋ねて、その内容を聞かれた時にどう答えるつもりだ。私の代わりに他の人が拾って、確認するために中を読んだら? いやだ、死にたくなってしまう。耐えられない。


 というか、もし誰かが嫌がらせで盗んでいたとしたら、あの中身を読んでいるのでは? それがクラスに知れ渡ったらどうする? クラスメイトたちはまだいい。なにより知られたくないのは――悠。


 やっぱり、どうして私は日記をわざわざ持ち歩いてしまったのだろう。


 そんなことを考えながら歩いていた時。


「ちょっと話を聞かせてくれないか?」


 聞き逃すわけがない声。近くから悠の声が聞こえた。


 そちらを見ると、何故かそこには、私を嫌っているであろうクラスメイトの二人が一緒にいて――。


 その時、クラスメイトのうち片方が私の存在に気付いた。刹那、こちらを見て、にたあっと笑みを浮かべる。


 その瞬間。悠がなにをしていて、彼女たちとなにを喋っていたのか理解した。


 悠の表情は怖い。滅多にみせない、静かに怒った顔だ。知ってる。昔、私が苛められた時も、こういう顔をしていたから。


「白雪、ちょうどいいところにいるじゃん。勇気が出せないんだろ? だったら、私たちが代わりに伝えてやるよ。お前の想い人にさ・・・・・・・・。悠くん、白雪はお前のことが――」


「っ――や、やめっ――」


「好きなんだって」




 日記の内容が。私が漏らさないようにしていた気持ちが。


 一番聞かれたくない相手に、伝わってしまった。

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