第36話 異変のち胸騒ぎ
数日後。
「ねえねえ、ここっち。その卵焼き美味しそうじゃん。もらっていい? いいよね? うーん、ここっちマジ天使! 最高! 神! いっただきまーす!」
平常運転のハイテンションでまくし立てるように言った春日井が、心愛の弁当箱に箸を伸ばす。卵焼きを自分の口へと放り込むと、幸せそうに目を瞑った。
「うーん、美味しい。ここっちの卵焼きは優しいママの味がするね。ねえねえ、お母さんって呼んでいい? いいよね? ……ここっち?」
「え? あ、ああ、構いませんよ。べつにママって呼ばれるくらい……って、ダメですよ! なに言ってるんですか! やめてください!」
一瞬頷きかけた心愛だったが、言葉の意味を理解したのか慌てて否定する。
「というかここっち、さっきからボーッとしてない? 大丈夫? 体調でも悪い?」
「え? え……え、いえ! 特になにもないですよ!」
平静を装っているが、動揺を隠し切れない心愛。
ふと、先日の体育の授業の光景が脳裏に浮かんだ。心愛が他の女子にボールをぶつけられて、嫌がらせをしている時のものだ。その後に、春日井から聞いた話も思い出す。
「本当になにもないのか?」
「なにもないですよ。昨晩、夜更かしをしていたので頭が働かなかっただけです。悠のせいで、ゲームにのめりこんでしまったので」
「ゲームって……まさかお前、俺に勝つためにわざわざあのゲームを買ったのか? 言えば貸してやったのに」
「それじゃサプライズにならないじゃないですか。いきなり強くなって驚かせたかったんです」
「今、自白してしまっている時点で、もうサプライズにはなりえないがな」
「あっ……」
心愛が、しまったという顔をした。
「と、とにかく、なにもありませんから」
だったらいいんだが……。
「なあ。お願いがあるんだが」
そこでぼそりと口を開いたのは、風間だった。
「誰でもいい、俺にちょっとだけ弁当を分けてくれないか」
ランチタイムだというのに、さきほどから風間はなにも食べていなかった。
「どうしたんだ? ダイエットでもしてるのか?」
「弁当を買う金がない」
「は?」
「昨日、ゲーセンでカツアゲされた子供を見つけてな。
「お前は本当に不良なのか? というか、後先考えて格好つけろよ」
「ばっか。
「俺は細かいことが考えられない組織のトップなんて絶対に嫌だが」
「風間っち、くっそ受ける。ここっちがゆっちーにしてあげてるみたいに、明日からわたしがお弁当つくってあげよっか?」
「お、マジか? でも春日井は購買部で弁当を買ってるよな」
「うん、わたしの料理クソヤバいからね。自分では食べたくないけど、他人に食べさせるのは練習にもなってちょうどいいかなって」
「人を練習台にするつもりか!?」
まあ、文字が酷いし、なんとなく料理もダメなイメージがあったけど、それは間違ってなかったか。
それにしても、そんな愉快な会話をしている最中でも、やっぱり心愛は上の空で。
……本当に、大丈夫なのか?
放課後、心愛から
ちょっと用事ができたので、先に帰っていて欲しいらしい。
『用事って?』
『……秘密です。大したことないですから、いちいち詮索しないでください』
『気になる』
『はあ、悠ってそんなにしつこい人でしたっけ。クラスメイトにお願いされて委員会の仕事を手伝うことになっただけですよ。では、これ以上この件で返信はしませんから!』
うーん、怪しすぎる。
昼休みのこともあるし、なんとなく心配だったので心愛の教室に立ち寄ってみたが、彼女の姿は見当たらなかった。
あいつの話を信用するなら、用事があると言ってたから、学校のどこかにはいるんだろうが。
なんか心配だな。ちょっと探し回ってみるか。
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