第24話 二人のちデュエット
で、カラオケに着いたのはいいんだが。
「どうしてこうなってしまうんですかね」
「……さあな」
俺と心愛は、何故か二人でカラオケルームに居た。
まず、部屋に入る前に春日井がいなくなった。母親が急な風邪で倒れてしまって、家事をしなければいけなくなったらしい。
『ほんっとごめん、今度埋め合わせするから!』
部屋に入った直後、風間もいなくなった。妹が変な男に絡まれて困っているらしく、柄の悪い風間にヘルプコールが入ったのだそうだ。
『ちっ、すまねえ。世界一かわいい妹からヘルプコールだ。変な男に絡まれているらしい』
というか、風間に妹なんていたのか……。しかもシスコンっぽかったけど、大丈夫か?(いろんな意味で)
かくして、高校生
二人きりというのは今さらの話だからいい。だが、どちらからマイクを握るというわけでもなく様子を伺い合ってる現状は、はっきりと気まずかった。
「……歌わないんですか?」
「心愛こそ歌わないのか?」
「まだ曲が決まらないんです」
そう言うと、心愛は曲を選ぶための機械を操作しはじめる。俺も、曲が掲載された分厚いカタログを
いや、だってあまり歌うつもりなんてなかったからな。
四人で入れば、俺以外の誰かが曲を入れるだろう。まあ、様子を見てちょっとくらいは曲を入れる必要があるだろうが、空気を読む振りをしていれば大して歌わずに済む。そんなことを考えていた。
「どうせ、歌う気はなかったんでしょう」
「まあ、そうだな。心愛もそうなんじゃないか?」
「私は歌う気でしたよ。……それなりに」
「それ、要するになかったってことだろ」
「本当に歌う気だったんですから。まあ、人前で歌うのは恥ずかしいので、勇気がいるってだけです。それに……」
心愛が、俺の顔をなにか言いたげに見つめてくる。
「それに?」
「いいです。恥ずかしいんですよ、とにかく」
何故か怒った風に、プイと
「うーん、じゃあ帰るか? ここ、十五分区切りでの清算だったしさ。さっさと帰ってしまえば安いもんだし、無理に歌わなくてもいいんじゃないか?」
「えっ。いや、でも、それは、お金がもったいないです」
「いや、確かにもったいないけど。でも歌いたくないんだろう?」
「べつに、歌いたくないとは言ってません。それに、せっかく来たんですし……練習、そう、練習していった方がいいじゃないですか。今後いつ誘われるかわからないですし」
「練習、ねえ」
今日の面子以外で来ることなんてないだろうし、クラスの連中の付き合いとかは全部断るつもりだから、修練の必要性なんてものはあまり感じないが。
でも、心愛は違うのだろう。
「わかった。心愛がそういうんだったら付き合おう。もともとそういうつもりだったしな。曲もゆっくり選んでいいから」
「え? あ、ええっと、そうですね……」
俺は歌う必要がないからな。
「……じゃあ、これにします」
それからしばらくして、心愛がリモコンを操作しはじめる。
心愛がリクエストした曲を画面に送信すると、あまり音楽に詳しくない俺でも知っている、人気女性アイドルグループの曲が流れ始めた。
三年前くらい流行っていた、人気ドラマの主題歌だったやつだ。
「……こういう曲をいくつか歌えたら、なにかあっても対処できると思いまして」
「処世術かよ。まだ学生なのに大変だな」
「どうしても断れない誘いだって多いでしょうから。はい、どうぞ」
そう言って、心愛がマイクを手渡してくる。
……え?
「もちろん、悠も歌うんですよ。私一人だけなんて恥ずかしいじゃないですか」
「いやいやいや、俺は練習なんて結構なんだが」
「付き合うって言ったじゃないですか」
「一緒に歌うって意味じゃなかったんだが」
「でも、恥ずかしいですし。それに、悠にじっと待ってもらってるのもなんかイヤですし。……ダメでしょうか」
普段の強気な姿勢とは違う、捨てられた子猫のような、残念そうな表情と声色で尋ねてくる心愛。演技ではない。付き合いの長さでわかるが、こいつが時折見せる素の表情だった。本気で残念がっているのがわかる。
「わかったわかった。付き合うから」
「本当ですか!?」
心愛が、珍しく精一杯の感情を表に出して喜ぶ。だが、すぐに我に返ったのか、こほんとわざとらしい咳払いをして、何でもないような表情を浮かべた。
やがて、イントロが流れ出すと、恥ずかしそうに心愛が口を開く。
「~~~~♪」
「――え……?」
思わず、小さな声を漏らしてしまった。心愛の歌声が、あまりにも心地よかったから。
普段から綺麗な声の心愛だったが、それをいっそう研ぎ澄ましたような美しい音色。
「悠の番ですよ」
は、となった。
慌てて歌って、心愛に繋げる。たどたどしく、女性アイドルの曲ともあって、ぶっちゃけ自分でもちょっと気持ちの悪い歌い方になってしまった。
「~~~~♪」
それにしても、苦手とか練習したいとか言ってたのに、これは――。
――歌い終わった後、惚けるように心愛を見る。
「な、なんですか。どうかしましたか?」
「いや、すげー歌上手いなって思って。苦手って言ってたくせにさ」
「大袈裟ですよ。ちょっと相性がよかっただけです。じゃあ、次の曲いきましょうか。これ、歌えますか?」
「やっぱり俺も歌うのかよ……」
「当然です。せっかく入ったんですから、楽しんで行きましょう」
結局、カラオケを楽しむことになってるし。
まあでも、心愛のこの歌声が聞けるならいいか。そんなことを思いながら、俺は心愛のカラオケに付き合った。
入る前は上手く歌うことを避けるつもりだったはずが、結局、二人だけで三時間もカラオケを楽しんでしまった。
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