第40話 可愛い仮妻と旅行②
由佳さんの言葉が頭の中で反芻すること二時間。
目的地まで約半分と来たところで、サービスエリアでお昼休憩を取ることになった。まぁ、そこで起きる問題と言えば……。
「人がいっぱい……」
「そうだな」
「離れたら、だ、ダメだからね」
「離れないでしょ」
やはりと言うか車を降りた瞬間から、由季は俺に引っ付いていた。それはもう、隙間を完全に無くすことを目標としているように。
おかげで腕が柔らかい感触に歓喜している。だが、動き辛いというデメリットはある。しかし、そんなものは些細なことだ。
「由季ちゃんを外で見られるなんて……感動ね」
「車乗る時に外出ましたよね」
「そういうことじゃないわ。家から離れた場所で由季ちゃんを見ることが新鮮なのよ」
「そうですね……」
『買い物に行ってくる』とか『ちょっとコンビニ』と呼び掛けた際には必ず『私も行く』と言って由季は付いて来た。
家から近い場所だから由季も頑張って付いて来るのだと思っていた。
この時までは。
「それはゆうがいるから……」
「え……?」
「ゆうの側にいるって決めたから……」
そういえば、海外に引っ越すという突拍子もない嘘を吐く練習を見られてしまったけど、その時に由季は付いて行くと言ってくれた。
ずっと住んでいる安全な場所から抜け出してでも、由季は俺を選んでくれたんだ……。
「俺も由季の側にいるよ……ずっと」
「ゆう……」
今すぐ愛おしい恋人と愛を伝え合いたくて、俺と由季は顔を近づけるが、ここは二人の家ではなかった。当然、その光景を見て囃し立てる者がいる。
「「ひゅーひゅー」」
「「っ⁉︎」」
家にいる頃の習性で、嬉しくなるとキスしそうになるのが裏目に出た。
「家でそうやってキスする日々を送っているのね〜 女の顔してて可愛かったわよ〜 由季ちゃ〜ん」
「羨ましいわ〜」
「「っ⁉︎」」
嫉妬深い言葉が俺と由季に突き刺さった。だが、それも直ぐに方向転換して父親二人に突き刺さった。
それはもう『私たちの子供カップルがイチャついてるのだから、私たちがイチャつかないでどうするのよ』と。
そうして、イチャつきたいと思った母親二人は学生時代の頃の自分を思い起こす。
「透君……一緒に手を繋ぎませんか?」
「っ⁉︎」
透は幻視した。
かつて恥ずかしそうに手を差し伸べて来た彼女の姿を。
初めましての出会いから知り合いへと。
知り合いから友達へと。
友達から親友へと。
親友から恋人へと。
恋人から夫婦へと。
そうして一歩ずつ関係を進めて行った懐かしき日々を透は思い出していた。
「変わらないな……由佳」
「変わらないのはもう一つありますよ。……透君への愛情です。ずっと愛しています。これからも側にいることを許してください」
「それはこちらのセリフだ。ずっと側にいて欲しい」
そうして二人は軽くその場でキスすると、腕を組んでそのまま店の中に入って行った。周りの目等、気にもせず二人だけの世界を作って。
その一連のやり取りを見ていた由季は羨ましそうな表情をして、二人が去って行った方向を見つめていた。
「お母さん凄かった……。何十年と経っても私もゆうとあんな関係になれてたらいいな……」
「なれるだろ。出会いは違うけど、俺と由季は二人と同じように愛し合ってる。だから、俺と由季が望めば必ずなれるよ」
「そうだね……ゆう。何十年経っても私とゆうは……」
「がぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
「「っ⁉︎」」
「ほら、逃げてみなさい? 追い詰められてから逆転するのが大好きなのでしょう?」
そこには首に腕を掛けられ、苦悶な表情を溢す父さんという弱者がいて、愉悦な表情を溢しながら、首に腕を掛ける母さんという強者がいた。
「反撃してみなさい。少しでも私を楽しませて! そうしなければ、全部貰っちゃうわ……」
「「……」」
俺と由季は酷い光景もあったものだと他人事のように感じながら、そそくさとその場を立ち去った。
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悠と由季が立ち去った後の話
「あんなカップルにはならないようにしようね……」
「そ、そうだな。あの人たちは住む世界が違うからな……」
「なら、やっぱり目標とするのは私の両親カップルだね」
「それが良いな。でも、それ以上に俺は由季とイチャついてるカップルになれたら良いなと思ってるよ……」
「ゆう……」
そうして、俺と由季は店の裏側に回り、人気の少ない場所で、先程見られて止めてしまった分のキスも合わせて、音を立てないようにして静かに求め合った。
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