可愛い彼女編
第19話 可愛い彼女とご挨拶①
「……えへへ」
どこかで聞いたことのある意地悪そうな声が聞こえてくる。一体、どんな人だったろうか……。
「ぶちゅー」
子供みたいな声を出して、大人のキスをしてくる人はどんな人だったろうか……。
でも、そんな行動を取るような人なら、一人だけ心当たりがある。
その人は──
「おはよう由季」
「おはようゆう〜」
視線が合わさって嬉しそうに頬擦りをしてくる女の子。昨日、俺の彼女になった幼馴染の由季である。
どうやら、昨日の発情状態? の症状は無くなっている。その代わり、元気に仮想のしっぽを振って頭を差し出してくる。
まるで、『撫でて〜』と言わんばかりのアピールをしてくる子犬だ。俺はその愛くるしい姿にご所望の撫でを披露しようと思う。
俺はうつ伏せの状態から転がって仰向けの体勢になると、由季を抱き寄せた。
すると、嬉しそうに背中に腕を回して抱きついてくる。その際に二つの柔らかな感触に気を取られそうになるが、それは後だ。
「ぎゅー」
俺の胸元に張り付く由季の頭を愛でる。ついでに昨晩、三つ編みにした髪を解くと、ひらりときめ細やかで綺麗な髪が解放される。
「ほらほら、撫でこ撫でこ」
「ふにゃぁ……」
ぐったりと由季は俺の胸元に撃沈する。だが、俺はそこに追撃を仕掛ける。反撃の隙など与えない。トロトロにしてやるのだ。
「ふ〜ふ〜ふぅぅぅぅ〜」
「ほれほれ、ここが良いのか?」
「うぅぅぅぅ〜〜〜〜」
「可愛いなぁ〜 由季は」
「……ぶぅ」
どうしてか由季は不機嫌になってしまった。次は一体、何をご所望なのだろうか。
「ゆうばっかりずるい。私もゆうを屈服させたいのに!」
酷い言い掛かりである。だが、俺は男として何事も異性の上を行きたい。簡単に譲る気は全くない。
しかし、あと数年も経てば由季に屈服せざるを得ないものが出てくるのは、この時の悠は知らない。
「屈服させるんじゃなくてさ……」
俺は撫でるのと同時に由季の髪型を料理スタイルであるポニーテールにしていた。
「由季の作った朝ご飯食べたいな」
その言葉に花が咲いたような笑顔を浮かべた由季は「作ってくる!」と意気込んで部屋を駆け出して行った。
それを見届けた俺はぐったりとベッドに倒れた。
「はぁ……危なかった」
抑え込んでいた性の欲求が湧いてくる。
ぞうさんが壮大に立ち上がる。
大好きな女の子に言い寄られて興奮しない訳がない。それに昨日の件も含めて色々と限界だった。
「……処理しないと」
俺は立ち上がる。
目的はお手洗い。
おかずは昨晩の由季の『あなた』呼びと、先程の二つの柔らかな感触だ。
**** ****
俺がリビングに向かう頃には美味しそうな匂いが台所から漂って来ていた。
「よし」
料理中の彼女の顔は真剣そのものだった。あの撃沈してふにゃけていた人とは到底思えない。
「出来たのか?」
「出来たよ〜 ささっ、座って下さい」
俺は由季に背中を押されて椅子に座らされた。その三分後には机の上に白米、『なめこと豆腐の味噌汁』、きんぴらごぼう、鮭の焼き魚が置かれていた。
完全な和食スタイルでワクワクしてきた。
「早く食べよ」
「ふふっ、たくさん愛情注いだからね!」
「っ⁉︎ そ、そうか」
「それじゃ、いただきます」
「……いただきま」
ちょっと待ちなさい!
俺が手を合わせようとした時にそのような声が玄関の方から聞こえてきた。続いて、リビングに続くドアが開いて二人の人物が入ってくる。
「私も由季ちゃんの手料理食べたいな〜」
「すまないね、二人とも……」
朝食の時間に乱入……というか朝帰りを決め込んだのは由季の両親であった。
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