Scene17 -1-

 F国のエネルギー施設奪還の攻防はその後二ヶ月続いていた。奪還をあきらめ、機械虫の増産やエネルギー奪取の阻止を目的とした核攻撃という最終強行手段も無効化され、各国の機動兵器と機械虫との白兵戦、中距離射撃戦が繰り返されている。


 F国の施設奪還がされないまま、今度はC国に新設された施設へ機械虫が進行を開始。事態を重く見た世界軍事同盟は、F国奪還の戦力をF国からC国に向けて押し寄せる機械虫の大群に向けることを余儀なくされた。


 さらにC国はGOTに対して共同戦線を依頼。これは世界軍事同盟が発足してから初めてのことである。


 世界各国に機動兵器が配備されたいまの状況ではGOTの機動重機が加わったところでたいした戦力にはならない。100が110になったところで事態は動かないであろう。それでもどうにかして機械虫の進行を止めたいのだという思いが、GOTへの助力を打診させたのだ。


 機械虫はC国を目指して侵攻する中で通過する国には目もくれなかったため、他国に大きな被害はなかった。世界軍事同盟も進行中の機械虫を攻撃しなかったのだが、その理由は当然C国のために自国を戦場にしたくないという理由である。


 そのため、機械虫への攻撃はC国の国境を超えて入国した時点でおこなわれた。


 先行隊なのかはぐれ機械虫なのかわからないが、先んじてC国にたどり着いた個体はすぐに駆除されていく。大軍勢の先頭がC国に到着する二十四時間前。GOTの機動重機がC国作戦宙域に入り、第二防衛ラインにて戦闘準備を整える。


 翌日の十四時二十二分。ついに機械虫群と世界軍事同盟の戦いが始まった。


 中遠距離攻撃部隊が討ち漏らした機械虫を近距離攻撃部隊が掃討する。上位個体が多数現れ始めると、少しずつ補給が追い付かなくなっていき、徐々に防衛ラインは崩れていった。


「さぁ、我々の出番だ」


 機動重機部隊隊長のガードロンが声をかけると、


「待ってたぜ、暴れてやるぞ」


 ナグラックが威勢よく叫んで返す。


「持久戦になる。ロボタウンでの戦いみたいにならないよう気を付けるんだぞ」


 シェンダーがナグラックに忠告した。


「さぁ、俺様が復活した新生機動重機部隊での初の大きな戦いだ。完勝で決めるぜ!」


 ゼトラキャノンは勇んで咆え、皆はそれを見て闘志を燃やす。


 第一次防衛ラインが三割ほど後退したところで中型機械虫が次々の抜け出してくる。そのタイミングで第一次防衛ラインを死守する機動兵器部隊は、小型機械虫の殲滅に専念する戦いに切り替えた。


 中型機械虫に対しては個ではなく、各国の機動兵器小隊で一体ずつ仕留めていく作戦となっていた。当然GOTも機動重機で小隊を作り機械虫に挑んでいく。


 そのころ日本のロボタウンでは、GOTの司令官である翔子が神王寺の親族と卓を囲みながら戦況を見守っていた。


 GOTはこれまで機械虫とは個々での闘いがほとんどであり、多くても十数匹程度であった。機械虫が大群で現れるようになったときは、すでにライゼインは敗北してガイファルドが最前線に出てきたため、GOTは後方支援や救助活動が多くなっていたのだ。


「大丈夫かなぁ」


 次女の舞歌まいかが不安げな声で言う。


「組織戦ができないわけじゃないが、統率が取れなくなったときの大混戦ではどうなるかわからない」


 元司令官、彼女の父である勇翔ゆうとも表情を曇らせている。


「A国でのガンバトラーの件もあります。自身の安全を最重要事項として行動するように伝えました。C国にも機動重機たちの判断で戦線を離脱するという条件での共闘だと伝えてあります」


「ゼトラキャノンも加わって部隊としてのバランスも安定した。この戦いに勝てるかはともかく、彼らがやられる可能性は低いだろう」


 勇翔ゆうとの言葉に舞歌と光司は少しだけ気持ちを落ち着ける。


「だが……」


 そう返したのは神王寺の会長である翔真しょうまだ。


「連結機械虫の対処が問題だ。さらに言えば、機械獣、そしてセガロイド。奴らが現れれば世界軍事同盟軍は壊滅的な打撃を受けることだろう」


 現状では機械獣もセガロイドも目撃されてはいない。とうぜんそれを見越してガーディアンズは控えている。


 この戦いに参戦していない理由は戦力の温存もあるのだが、C国という大国に協力とは言え軽々しく領空を犯せば、またしても攻撃を受けかねないという懸念があったからだ。


 もちろんいざとなれば飛び込んでいく準備と覚悟はあるが、それは機械獣やセガロイドが現れたときか、または機動重機たちが危機的状況になったとき。


 しかし、このあと起こったことは、そのどちらでもない予想外のことだった。


 戦闘が始まってから二時間が経過。機械虫の第一波はおおむね撃退した。第二波が到達するまで一時間二十分ほどと通知され、各国の部隊は補給をおこなう。まばらな機械虫たちを後方支援部隊が駆除しているほんの少しだけ気が緩んでいたときだ。


 ある小隊が戦場に不可思議な黒い球があることに気が付いた。機械虫が運んできた物だろうかと警戒しつつも近寄っていく。


 通信を受けた部隊長はすぐにそれを破壊するようにと命じ、小隊は銃撃によってその球体を攻撃した。「撃ち方止め」の命令を受け、攻撃を中止した小隊。目の前には土煙や爆炎が上がっている。煙が晴れようかというところで、その向こうから砲撃がおこなわれた。


 一撃で二機の機動兵器の上半身が吹きとんだ。運動性を重視した比較的軽装甲とはいえ、一撃で破壊したその攻撃力は機械虫を上回ると断定できる。


 対機械虫特別攻撃措置によって部隊責任者の命令なく攻撃を敢行。三機の機動重機は残り少ない弾薬を使って乱射する。突然のことで精密射撃もできない三機に対してなぞの敵は再び砲撃をおこなった。


 さらに二機の機動兵器が破壊され、残った一機は後退しつつ迎撃する。


「謎の敵に襲われ自分を除く機動兵器は破壊されました。至急応援を!」


「敵はどんな奴だ?!」


 部隊長の質問に機動兵器パイロットは慌てながら叫んだ。


「敵はイミット、いや違う。セガロイドとも違う新たな人型機動兵器だ!」


 この通信を最後にこの機動兵器は破壊された。

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