Scnen16 -4-

「どこの国の差し金が知らないが、ぶち壊す!」


 ロボタウンを襲った襲撃者たちに対してその怒りを前面に押し出したセイバーは、国籍不明の機動兵器に攻撃を開始した。


 セイバーの攻撃は的確に相手にヒットする。これまで激戦をくぐり抜けてきたセイバーにとって機動兵器など相手になるはずもないのだが、この対戦はセイバーが圧倒ということにはならなかった。それには理由がある。


 戦闘領域にリンがいるはずなので、下手に攻撃すればその被害によってリンに危険が及ぶ可能性がある。逆に攻撃されればその流れ弾の被害が発生すること。


 リンの居るであろう重機技総のビルは二十メートル前後の巨人であるガイファルドと機動兵器にとっては遠い場所ではない。セイバーは光の少ない夜のロボタウンで数十メートル先の建物の様子を伺いながら戦っていた。


 そういった慎重な戦い方がセイバーに全力を出させず、戦いを拮抗させていた。


 セイバーは重機技総じゅうきぎそうのビルから少しでも離れようとセイバーの倍以上はある機動兵器を力で押すような戦いをしている。横蹴りで強引に吹き飛ばしたとき、機動兵器が放ったビーム砲がセイバーのフォースフィールドに弾け、後方の重機技総のビル付近を焼いた。


 続けて発射されたマシンキャノンもセイバー自体には大して効きはしないが、セイバーの後方でロボタウンの街を傷つける。


「リン!」


 セイバーは振り向きビルを見るとその攻撃によってビルの倒壊が少しばかり進んだ。


 機動兵器に背を向けて走り出すセイバー。走り寄る中でビルから小さくないガスの爆発や炎が燃え上がった。


「きゃぁっ」


 その中で長谷川を抱えたリンは炎に巻かれ爆発の衝撃を受けている。


 駆け寄ったセイバーは自分よりも大きなビルを受け止めて支えた。その足元のビルの瓦礫の隙間にふたりが倒れているのが見える。


 セイバーはビルを支えることはできてもその状態のままふたりを傷つけることなく安全に助け出すことは難しかった。十八メートル近い巨人の手で人間を優しく掴むことは簡単ではない。それもこんな切羽詰まった状況ではだ。


 闘いの最中に背を向けたセイバーに向かって敵は情けをかけるつもりはまったくなく、背面のキャノン砲を前面に展開した。


「野郎、させるか!」


 セイバーの登場に固まっていたゼトラキャノンは、セイバーを狙う大型機動兵器に向かって乱射。しかし、バリアシステムらしきフィールドによって大きな効果は得られず、腕部の四連装ビーム砲の反撃を受ける。


 機動兵器の攻撃にセイバーは耐えられてもビルの倒壊は免れない。そうなればリンと長谷川の命はない。反撃する遠距離攻撃はなく、考えられる唯一の遠距離攻撃は以前発現した額のダブルハートから放たれた超破壊エネルギー流だが、そんなモノを撃てばその反動でビルは倒壊する。セイバーの背面を巨大機動兵器が照準を付けたとき、


「合身解除だ!」


 ビルを支えるセイバーの胸が開き、胸部のソウルリアクターから出て来たアクト。


 合身解除によって上腕部のイエローラインが消失し、シングルとなったセイバー。アクトは中腰のセイバーの膝に飛び降りて、足を滑るように地面に降り立った。

「リン!」


 瓦礫に埋もれかけ、炎にまかれそうになっているリンに駆け寄るアクト。その状況をモニターしていた博士と剛田が頭を抱えた。


 アクトはリンと長谷川を抱えてビルから走り出す。


「あいつをぶっ壊せ!」


 同時に発射された高火力ビーム兵器に向かって手をかざしたセイバーはフォースフィールドによってその攻撃を防ぎきる。その攻撃の衝撃の圧力に押されてふたりをかついで走るアクトは、転倒しそうになりながらもどうにか持ちこたえてビルから離れていく。


 ビルにも衝撃が伝わり、セイバーの支えを失ったビルはついに倒壊を開始。


 セイバーはビルが倒れ切る前に機動重機に走り寄り、共命者のないシングルでありながらもこれまでにないような力と速度で殴りつけた。


 防御フィールドを突き破り、超硬質の装甲をガンガン殴るセイバー。超至近距離からのビーム攻撃の反撃も弾き、鉄塊の巨腕の攻撃にひるむこともなく、攻撃は加速していく。


「うおぉぉぉぉ」


 セイバーの猛攻によって残骸をまき散らしながら徐々に原型を失っていく大型機動兵器は、とうとう動きを止めて倒れた。


 しばし倒れた起動兵器を眺めていたセイバーだったが、急に向きを変えてアクトの元に駆け寄っていった。


 ドーーーーン


 大型機動兵器は大爆発を起こすと、これまで倒した黒い機動兵器たちも次々に爆発していった。セイバーは両手と体を使って爆風からアクトたちを保護する。


 フォースフィールドの力によって彼らにその衝撃は伝わらなかったが、近くにいたガードロンと比較的軽量なゼトラキャノンがふらつくほどの爆発だった。


 セイバーが飛び出してから少しして、博士と剛田を乗せぬままに発進したイカロスは、不可視のままで待機していた。


 イカロスが発進したときにはセイバーはビルを支えており、その状況がわからないうちにアクトは合身を解除。度肝を抜かれているあいだにセイバーは敵を殴り倒してしまった。


 ここで下手にレオンとノエルが出て行くと、GOTとガーディアンズの関係を疑われかねないと判断し、セイバーには海辺まで移動してもらってからイカロスが回収した。


 黒い機動兵器はことごとく自爆、小型ロボットも自爆。そして驚いたことにロイドが行動不能にしておいた黒い特殊スーツに身を包んだ潜入者も、全員頭部が吹き飛んで死んでいた。


 何人かの者は闇に乗じて逃げられてしまい、GOT本部を狙った物の正体はわからぬままではあったが、一部の者だけがわかる明確な情報があった。それは、ガーディアンズが扱うPRシリーズと同型のロボットがこの襲撃に使われたことだ。


 そのことに気が付かず基地に戻ったアクトは、敵のPRシリーズの存在を聞いて背筋を凍らせた。やはりまだ心に深い傷、とまではいかないまでも、苦手意識として刻まれているのだった。


 神王寺コンツェルンはあえてこの襲撃を公表しなかったが、騒ぎに気が付いた者や日本政府がGOTの存在の危険性として取りただした。


 この襲撃は夜間の突然の強襲にもかかわらず襲撃直後の早い段階からの映像が出回っていた。このことから、日本政府も加担しているのではないかと疑う者もおり、ネット上でそういった論争がおこなわれる。


 しかし、この襲撃事件でガーディアンズの内部でも外の世界でも最も大きな論点となったのは、戦闘中にガイファルドから離れていった人影についてだった。

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