Scene13 -1-
薄暗く広い通路に音を響かせて歩く巨人が歩む音は、これまでと違って不規則なリズムだった。その金属の巨人はガイファルドたちと2度戦ったウォリアーのゴルン。彼は見た目以上に大きな不調を抱えていた。その不調は復活してから完全ではな状態で激しい戦いをしたことで加速していき、その稼働効率を
その向かいから歩いてくるのは、ガーディアンズ内でウィザードと呼称されるヴィーショッグという名のセガロイドだ。
「ヴィーショッグ、これからあの国に向かうのか?」
ゴルンに声を掛けられがヴィーショッグはその言葉を理解できずに立ち止まった。
「(オルガマーダの言葉ですか? なんと言ったのですか?)」
ゴルンが喋ったのは、この世界で一番メジャーとなっている言語だった。
「(これからあの国に向かうのか? と言ったんだ)」
「(そうです、今までビストールが集めた情報ではあの小さな国に仲間が封じられている可能性が大きいようなので。最終調査ですよ。確認が取れたらまたビストールを使って解放しなければばりません。そうなるとあなたの体を修復するのが先延ばしになってしまいますね)」
ゴルンの状態を見てヴィーショッグが憐れんで言う。
「(ここのサブ動力炉だけでも完全稼働すれば良いのですが、さすがに経年劣化があって修復には時間がかかります。その修復が完了すれば取り合えずあなたの体も完全復活させられることでしょう。それまでは無理をしなことです)」
「(わかっている。力を出し切れない戦は楽しくない。奴らがギソーン級ならばさらに強くなる。互いに全力で力を出し切る戦いをするためにはどちらにも時間が必要だ)」
ゴルンは簡易メンテナンスのための部屋に向かって歩いていく。
「(人類に対する宣戦布告は完了した。服従を要求したがそれはまずないだろう。奴らにはバドルという戦力がある)」
「(しかし、そのバドルもたったの3体です。バドルを抜かせばこの時代のオルガマーダの戦力はたいしたことありませんから)」
そんなヴィーショッグにゴルンは、今度は日本語を使って言った。
「油断するとその人類の技術に足元をすくわれるぞ」
「(なんて言ったかわからないけど、私に対する忠告だね。肝に銘じるますよ)」
ヴィーショッグはゴルンの背中に向かってそう告げてから日本に向かうために飛び立った。
ゴルンが入ったメンテナンス室。簡易的ではあるが体の各所を点検・修繕することができる施設であり、現在ゴルンはその体よりも大きなハンガーラックの中に固定され、多くのアームがその体に伸びて作業していた。
その部屋の片隅には巨人が扱うにはあまりにも小さな部屋があり、そこには1メートル四方の輝く箱状の物体が固定されている。そして、その箱状の物体に向かって機械を操作する者の姿があった。身長は180センチメートル前後でピタリとしたスーツを纏った男性だ。
「わかるぞ、人間に裏切られたのだな。その貴様の恐怖と混乱の感情が伝わってくる。その感情を別のエネルギーに変換するのだ。そしてそのエネルギーを発散する物を俺が用意してやろう。それまでしばし待て」
その言葉はセガロイドたちが使う言語ではなく日本語だった。その人物はその後も輝く箱に語り掛けながら、様々な装置を操作していた。
***
セガロイドたちが名乗ったムー帝国。その名から想像しうる目に見えない脅威がセガロイドたちに対する恐怖を膨らませる。
ムー帝国は宣戦布告によって服従を要求したが、それに従う国はひとつとして無かった。その理由はセガロイドのゴルンが考えていた『バルドことガイファルドたちの存在』によるモノではなかった。
それがわかるのはそれからまた数か月後のことである。
久しくしてA級機械虫一体と数体のB級機械虫群がS国に現れた。その機械虫が向かう先は以前膨大なエネルギーを手に入れた粒子加速器がある実験施設である。それとほぼ同時にA国にも機械虫が多数出現する。その場所もエネルギー研究施設であり、機械虫の目的はそのエネルギーだった。
「A国にも機械虫群?」
ガイファルドを乗せてS国に向かって移動中のイカロスに基地から通信が入り、博士が大きな声で叫んだ。
機械虫群の規模はさほど差はない。襲われる施設の規模はS国の方が大きいとはいえ、どちらを優先と比べることはできない。しかし、向かえるのはどちらか一方だけである。
「レオンが以前使った小型輸送ジェット機で誰かが向かうってのは?」
ルークの提案に対して博士は答える。
「小型輸送ジェットの速度を考えたらイカロスでS国に誰かを下ろしてからA国に向かった方が早いかもしれん。それ以前に燃料が足りないな」
「それならもうS国を先に片づけよう。エリア132で俺たちを攻撃してくるくらいだ。A国ならなんとかするよ」
アクト提案に皆が納得し速攻で終わらせたのちにA国に向かうことを選択した。その矢先……。
「おい、あれ……?」
到着を待ちながらニュースを見ていたルークがモニターを指さす。
各々自分の仕事をしたり体を休めていたが、ルークの異様な声の出しかたを不思議に思ってイカロスの艦橋にあるモニターに目を移した。そこにはS国のエネルギー研究施設での機械虫との攻防が映し出されているのだが、その機械虫と戦っているのが多数の機動重機だったのだ。
「機動重機だと?!」
剛田は叫びその他の者は押し黙る。
それはGOTの管理する機動重機ではない。機動重機に酷似した巨大な人型兵器だ。これは正式にS国によって作られた巨大人型機動兵器に分類される。だが見た目からそれが機動重機なのだということは誰の目から見てもあきらかだった。
「なんでS国が機動重機を……」
人間と変わらない自然な動き。機械虫と組み付いても壊れることのないその頑強さ。そして装備する兵装を自在に操る器用さ。見紛うことのない機動重機の特性を持った巨大人型起動兵器だった。
「技術提供か」
「おい博士、それはA国がガンバトラーから盗んだ機動重機の情報をS国に売ったってことか?」
「売ったのかどうかまでは定かじゃないけど、世界軍事同盟が技術提供をし合う立場にあるのなら、無償で提供したとも考えられる」
「そんなまさか?!」
今度はアクトが叫んだ。
「アレだけの技術を無償で渡すなんて。A国じゃなくても独占しそうなモノですよ」
そうは言っても現にS国が作ったと思われる巨大人型機動兵器は機動重機の技術を使って建造されたとしか思えな。画面越しで見ただけでは明確には言えないが、GOTの機動重機とそう変わらない能力を持っていると考えられる。
しばし画面を見続ける中で再び博士は言った。
「そうか、わかったよ」
「何がわかったんだ?」
剛田は画面を見たまま聞き返す。
「返還が約束されたガンバトラーが機械虫に襲われて大破したとき、A国は世界中からバッシングされた。でもある時期を境にパタリとなくなったろ?」
突然の話題の変更に皆は博士に視線を集める。
「あれは各国に圧力をかけたんではなくて、甘い汁を約束したためだったんだ」
「その甘い汁が機動重機のデータか……」
「そんな甘美な条件を出されれば押し黙るし自国の情報統制だってするだろう。その結果がこれだ。機動重機、いや機動兵器か。それがこの数ヶ月で5体。もしかしたらもっとあるのかも知れないが、この短期間で仕上げるということは
「あれならA級1体くらいなら対処可能かもな」
ライゼインを破壊したA級も既存の軍事戦力と複数体の機動重機を使えば勝利することも難しくない。
S国はわずかな時間で5体ものB級機械虫を倒していた。そしてその直後、誰もが予想してた通りA国でも機動兵器が多数戦地に投入され、機械虫の群れを殲滅したのだった。
機械虫群の襲撃から数時間後、A国は自国が開発した巨大人型機動兵器を正式に発表した。博士たちが予想した通りその技術は対機械虫世界軍事同盟に技術提供をおこなったとも告げ、同盟軍内での基本戦力として配備されたとあかされた。そして、のちにはその国ごとのカスタマイズが成されていく。
GOTの機動重機との相違点として、機動重機が超AIを搭載した自立志向型に対し、A国が提供した機動兵器の基本フレームには人間ように機体を動かすための制御システムは組み込まれていても、あくまで人間が乗り込んで操作するパイロット登場型であった。その理由は超AIの元となるレアメタルによって作られたニューロンコンピューターを製造するのに数年掛かる上、それを育成するのにも長大な時間を要することから機動兵器への導入を断念。そのほかにも人工知能の暴走による人類に対する反抗といった事態を想定したからだった。
しかし、超速処理のコンピューターに制御を任せることで、人間が巨大な人型兵器を操作することが容易になった。
大国を中心にいくつかの国でも機動兵器の製造がなされ、軍事大国に遅れて日本も3体の機動兵器を完成させる。
機動兵器が配備された組織は自衛隊だが、陸海空の他に特務部隊が新設され配備されることになった。
ちなみに日本が製造した機動兵器は高機動射撃戦に特化させたモノで、他国の機動兵器に比べて軽量化されている。白兵戦、中距離支援戦、長距離射撃戦と特化させることでの組織戦を前提に開発された。
その名はガンドール。これは世界的にも人気のアニメ作品に出てくる人型兵器を参考にされたともっぱらの噂である。
ガンドールの完成からほどなくして、日本政府は神王寺コンツェルンの運営するGOTに対して組織解体の要求した。これに対してGOTの現司令官である神王寺翔子は毅然と答えた。
「いかなる理由があっても機械虫がこの世界に存在する限りGOTは解体しません。例え世界の軍事力がGOTを上回ったとしても、戦力に重きを置いた兵器とは違い、GOTは人々を救う重機としての役割に重きを置いています」
この宣言を聞いた世界の人々の大多数は強くGOTを支持した。
「機動重機のデータをパクって兵器を作ったからって調子に乗らないでよね」
神王寺雷翔の双子の妹である舞歌がSNSで言い放った言葉は大炎上し、一部では再びA国叩きが起こる。
これまで数年間、機械虫から世界を守ってきたGOTに対して日本政府は強硬手段を取ることができない。日本政府の機動兵器ガンドールには実践による実績が無く、GOTが不要だという根拠も乏しい。他にも世界からGOTを擁護する声も多いのも要因のひとつであった。
日本政府としては早急に機械虫との実践においてガンドールの有用性を示し、目の上のタンコブであるGOTの不用性を示したのだが、日本でのD級以上の機械虫の出現率は他国に比べると少ない。ガンドールの性能をアピールできるほどの上級機械虫との実践を望んではいたが、そんな理由で機械虫の出現を望んでいる意思を国民に知られるわけにはいかない。
だがある日、政府が望んだ機械虫が日本の首都、東京に現れる。東京に上陸した機械虫が向かった先はY市。奇しくもその場所はライゼインが戦った最後の地だった。
富士駐屯地に配備されていたガンドールはすぐさま専用ヘリによってY市へと輸送される。同時に機動重機隊も発進するが、現状ではガードロン一体だけである。その目的はあくまで救助活動だ。
「ガードロン、新しい仲間はまだAIの育成が完了していません。それまでは部隊は戦闘目的ではなく救助活動を第一目的とします」
「了解であります」
翔子の指示に力強く返事をするガードロン。
「でもここぞってときにはガツンとやっちゃいなよ! あんたはバージョンアップして以前よりずっと強くなっているんだから!」
舞歌が喝を飛ばした。
「はい、ゼインとガンバトラーの分も頑張ります!」
「でも無理はしちゃだめだぞ。ガードロンはボクが隊長になるまで現役でいてくれなきゃ」
光司の言葉には兄とゼイン、ガンバトラーを失ったことでの悲しみがこめられていた。
「光司、心配してくれてありがとう。大丈夫、僕は頑丈さが取り柄の機動重機だから」
ガードロンは数台のサポートボットと共に現地へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます