Scene12 -6-

帰還後、アクトは長谷川のいる重機技総に戻り、A国軍から返還される予定のガンバトラーを待っていた。時間から逆算すれば、すでに輸送機で飛び立っている頃である。あと数時間もすれば日本に到着するはずだ。


東京の駐屯地であるYベースまではここから1時間ちょっと。現在の時刻は12:55で、まだしばらく時間があるため、リンと長谷川と3人で少し遅めの昼食を食べに社員食堂に向かった。


昼食を終えた3人がコーヒーを飲みながら趣味寄りの仕事の話をしていると、長谷川の携帯から着信音が流れる。


「ちょっと失礼」


とマイク部を手で覆いつつ電話に出る。


「ガンバトラーがっ!」


長谷川は悲愴感漂う声でガンバトラーの名を上げた。その声を聞いて社員食堂で食事を取る全ての人が長谷川に視線を送る。


長谷川は電話で話しながらアクトとリンを見て眉間にしわを寄せながら目をつぶる。ふたりはその表情とガンバトラーの名を叫んだことに何か良からぬことがあったんだと理解するが、その内容まではわからない。


何度もうなずきながら返事をしていた長谷川は電話を切ったあとアクトとリンを見て力のない声で内容を伝えた。


「ガンバトラーは輸送中に機械虫に襲われて……大破した……そうだ」


何事かと聞き耳を立てていた食堂の社員たちにもこの内容は聞こえ、ざわめいていた食堂内は静まり返った。


その電話は、ほんの少し前までガンバトラーの帰還を喜び待ち望んでいた3人の思いを砕く悲報だ。いや、これはもう訃報ふほうと言っていい。


日本への輸送するにあたって返還手続きをおこなうため神王寺コンツェルンの関係者が待つ飛行場にトレーラーに搭載して移動していたところ機械虫にが出現。その機械虫は海岸から上陸したあと東進を始めた。理由はわからないがトレーラーへの攻撃を開始したことでトレーラは転身して再びエリア132に向かったのだ。


「あのトレーラーの中に?!」


その先はアクトもその目で映像を見た。ガンバトラーを搭載したトレーラーは攻撃を受けて、共に炎上大破してしまったのだ。


この訃報ふほうはすぐにロボタウンに広がり、次の日には全世界へ報道された。


その事実が世界に報道される少し前、ガンバトラーの遺体と言える大破した機体を乗せた輸送機が日本のYベースに到着した。それをGOTの隊員が引き取った数時間後、ようやくガンバトラーはロボタウンへと帰還した。見るも無残な姿となって……。


ロボタウンの機動重機格納庫でその姿を見せたガンバトラーはほぼ原形を保っていなかった。戦闘用動力炉のスピリットリアクターが稼働していない状態ではフレームや装甲強度はその恩恵を受けられず、現代の技術で作られた物と大きな差はない。そのため機械獣の攻撃を受けたトレーラーと一緒に衝撃と高熱でこのような状態になってしまったのだ。


その残骸を見回すアクトと長谷川が探しているのはガンバトラーのAIボックスだった。


「AIの反応はない。ここにあれば……、生きているならシャットダウンしていても反応があるはずだ」


博士は皆に辛い真実を告げる。


仲間であるガードロンたちはガンバトラーであったそれを見つめたまま動かない。彼のAIも『悲しい』という情報とエネルギーを生み出し処理しているのだろう。

どさっと長谷川がその場に倒れた。


「長谷川さんっ」


すぐに医療室に運ばれて検査をするが彼に大きな異常はなかった。倒れたのは溜まっていた仕事による疲労と精神的ショックによるモノであった。彼は丸一日入院したのちに、博士に自宅でしばらく休養するように命じられる。


ライゼインに続いてガンバトラーの死を受けて、神王寺コンツェルンとGOTの関係者及び世界の一部の人々は大いに悲しんだ。GOTの機動重機たちに直接救助を受けた人たちも数えきれないほどいるので、そういった人にとっては恩人を失ったも同然だ。


その原因はA国にあると世界の人々から多くの非難の声が上がった。これはA国が機動重機の技術を独占したであろうことに対する反感から国ぐるみの陰謀というべき勢いでA国を叩いていた。


しかし、そのA国叩きもあるときから忽然となくなり、各々の国の中でもA国に対する批判の声を抑制するように鎮静化してしまう。


そんな風に世界の波風が上下する中で、ガンバトラーの葬儀というような式がそれなりの規模でおこなわれた。


新たな機動重機を加えるという目星がついた矢先に、ゼインの代わりに隊長を務めていたガンバトラーを失ったGOT。だが戦いが終わったわけではなく、以前よりも少なくなったとはいえ機械虫は現れる。


ガードロンだけになってしまったGOTは、それでも人々を救援するために世界を飛び回る。

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