Scene9 -4-

  イカロスからの指示で小型機械虫の追撃に向かおうとするセイバーだったが三体の機械虫に阻まれて実行できずにいた。


  『A級機械虫が相手じゃ俺のヘビーアームズの火力じゃだめだ』


  せっかくの遠中距離型スタイルもその強固な装甲を貫けない。決して高くない機動力もあって三体相手では接近を許してしまう。


  「右のやつに火力を集中」


  ノエルの指示を受けて再びミサイルの雨を降らせるとほぼ全弾直撃して横転させることはできたのだが、残りの二体が猛然と突き進んで来た。


  「止まれっ!」


  弾丸に気勢を込めるが威力が上がるわけでもなく、その装甲に多少の弾痕を刻むものの跳ね返されてしまう。


  「込めるのは気合じゃなくてフォース」


  そう言って乱射されたノエルのサブマシンガンは数発弾かれたあと、装甲を砕き打ち抜いて機械虫を破壊した。


  弾丸をフォースで強化する。それ自体は可能なことではあるが、ガトリングガンやサブマシンガンのように連射される弾丸のすべてを強化することは簡単ではない。それをやってのけるノエルの能力は他のふたりより大きく抜きん出ていた。


  「だめだ止められない。オレたちに目もくれずにいったい何をする気なんだ」


  再びフルバーストを使って残りの機械虫を破壊したエマはセイバーの弾薬と一緒に投下された追加のバリアブルガンを拾い上げる。セイバーはバックパックマガジンを分離して、新しい物を装着した。


  絡んでいた四体全てにトドメを刺したレオンはふーっと一息つくと、さらに二体がレオンに迫っていく。そんなレオンにエマは指示を出飛ばした。


  「上級機械虫は全部任せる」


  「あぁ?! ひとりで全部か?」


  さすがのレオンも突飛な指示に裏返った声を上げたが、次の一言を受けて快い返答を返した。


  「隊長命令!」


  「yes ma'am!」


  「セイバーはわたしと機械虫の追撃を」


  「おう」


  ふたりは方向転換して虫の波に乗りながら周りを走る機械虫を破壊していく。そうしながらもエマは状況分析とこれからの事態の予想を立てていた。


  『戦闘を無視するのは人類の抹殺や戦力の殲滅が目的ではない。行動を邪魔する者に対しても排除的行動すらないとなると、それを上回る最優先事項がある。この行動は被害を最小限に多くの仲間を目的地に到達させるため?』


  「奴らの予想目的地の状況に変化は?」


  ノエルはイカロスに向けて通信する。


  「ピラミッド付近に敵影及びエネルギー反応はないわ」


  「そう、ありがとう」


  美紀からの返答に安堵の意のこもった言葉を返す。だが、それから数十秒後に、機械虫たちは思いもよらない行動を開始し始めた。


  「包囲を抜けた小型機械虫軍の先頭は十秒後にピラミッドに接触します。あっ、いえ逸れていきます。機械虫はピラミッド横を抜けていきます」


  「ピラミッドの破壊が目的ではない……?」


  いまだ行動原理も明確な目的も不明の機械虫たち。大したデータではないがそのデータに基づき弾き出した一番確率の高い行動予測はピラミッドの破壊だった。しかし、ピラミッドに到達した小型機械虫たちはピラミッドを避けるように迂回し始めた。


  次々に押し寄せる機械虫の群れはピラミッドの横をすり抜けるかに思われていたが、なんとそのままピラミッドを囲んでぐるぐると回り出す。


  「機械虫が連結しはじめました!」


  小型機械虫を含めピラミッドを取り囲む機械虫たちは積み重なり、柱状に連結を開始する。その数は三十を超え、五十を超えてどんどん増えていった。


 迎撃していたガイファルドたちはピラミッド周辺で起こっている事態の連絡を受けて、この場でちまちまと迎撃している状況ではないと判断し、連結して柱となっている機械虫たちの破壊する必要があると判断した。


  「レオンもピラミッドへ。ピラミッドを囲う柱状の機械虫を破壊してください」


  「了解したっ」


  眼前に広げた右手のひらにフォースを集約させたレオンは、今日二度目のフィーチャーフォースを行く手を阻む二体へ向けた突き出した。一体目のコアと上半身を吹き飛ばしてその後ろのコアを握り潰すと、そのままピラミッドに向けて全力で跳躍する。


  後方から機械虫のエネルギー弾が多数飛来するも直撃弾をその手で打ち消して再度のスラスター噴射で射程外に逃れてノエルたちに合流する。


  イカロスのブリッジから戦況と状況の監視分析をしていたオペレーターがピラミッド周辺の状況変化の報告を叫ぶ。


  「博士、連結することでDゾーンを展開した機械虫たちが共鳴して出力がどんどん上がってピラミッドを包んでいきます」


  博士はすぐに自らキーボードを叩いて確認する。


  「何をする気だ?!」


  発汗、振るえ、渇きがイカロスの乗員に現れていた。ただ街に現れていた機械虫を倒していたこれまでとは違うこの状況が、知らず知らずにそういった症状を引き起こすほどの緊張を与えていたのだ。


  連結したとはいえ小型の機械虫が発するDゾーンはそれほど強くはない。だが、柱状に連結した機械虫の数は百を超えてまだまだ増えており、その共鳴作用によって飛躍的に増幅されてピラミッドを覆ってしまった。なおも力を増してゆくこの力場が何か決定的なことを起こすのだろうという予感を、皆に等しく植え付けていた。

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