Scene7 -2-
エレベーターを降りると、密閉感の高い静まったホールに出る。そこから続く通路を進むと装飾された扉があり、ノックをして中に入る。そこにはカウンターがあって女性がひとり座っていた。
「おはようございます、柳様」
『ヤナギ様?』
「おはよう。会長たちはもう来てる?」
「はい、すでに集まっております」
丁寧な口調の女性は内線で何かを確認したあと、カウンターから出てきて四人を奥の扉へと案内した。
扉をノックすると男の声が返ってきて「柳様をお連れしました」と告げて女性が扉を開けた。
扉の中には老齢の男と中年の男性、その後ろにふたりの若い女性とアクトより少し若い感じの少年が待っていた。
「おはよう、柳殿」
『ヤナギ殿?』
老齢の男は笑顔で博士を出迎えた。
「おはようございます、翔真さん」
続いて他の者も挨拶する。
今まで疑問と緊張しで押し黙っていたアクトは彼らの顔を見て更なる緊張を強いり、背筋を伸ばした。
「神王寺会長と社長、そして幹部の方々!」
「その通り、アクト君はよくご存じだよね」
当然だ、自分が就職する予定だった会社の最高幹部陣であり神王寺雷翔の家族なのだから。
入社面接のときに遠間から社長を見たことがあったが、直接会うのはこれが初めてで、アクトは背筋をゾクゾクさせて直立していた。
「博士はお知り合いだったんですか?!」
「そうだね、三、四年くらいの付き合いになる」
こんな世界一の大企業の幹部たちを朝早くに呼びだしてしまうことにも驚きだった。博士はいったい何者なのだろう。『柳生』ではなく『柳』と呼ばれていることも気になっていた。
社長の神王寺勇翔はアーロンに負けないくらい厳格な面持ちでさすがは世界一と言っていい大企業の社長だけのことはある。その娘であり雷翔の姉の翔子からは優し気な雰囲気の中に一本筋の通った力を感じ、ライトの双子の妹の舞花は厳しい雰囲気の中に優し気な空気を纏っていた。そして、ライトの弟の光司は幼さの中に雷翔と同じ力強い意志を感じさせる。
「立ち話もなんですから隣の部屋へ」
会長の翔真に連れられて部屋のテーブル席へと移った面々。着座すると先ほど案内してっくれた女性がお茶を持ってくる中で、博士もロイドもルークもいつもと変わらずリラックスしているが、アクトだけはガチガチに緊張していた。
「さて、朝早くから申し訳ないのですけど、紹介した者がいまして。さぁ自己紹介を」
といって博士はアクトに視線を向けた。
それを受けたアクトは目を見開いてガタンと音を立てて立ち上がる。
「豊明大学四年、天瀬空翔です。本年四月より御社の対機械虫防衛機動重機のメカトロニクス関連部門に配属予定です。研修期間中とはいえ連日無断欠勤してしまい大変申し訳ありません。本日より復帰し誠心誠意粉骨砕身の思いで働きますので、改めてよろしくお願いします!」
それを聞いた一同は無言で顔を見合わせ、一瞬の間を置いてから笑い出した。
何が起きたのかわからず戸惑うアクトを博士はあきれながら座らせる。
「その件は存じてますよ。大怪我もしたと聞いています。その包帯からしてまだまだ完治には時間が掛かりそうですね」
翔子は不憫そうな表情をしつつ笑っていた。
「君が機動重機パイロットも志望しているということは耳に入っていた。なかなかの変わり者だという噂もだ」
勇翔社長も表情は大きく崩さずに笑いながらそう言った。
「アクト君、みんなが聞きたいのはそっちの紹介ではないのだがね」
翔真会長にそう言われ、アクトは戸惑う。いったい『そっち』の紹介ではないとは? 慌てふためくアクトを見た博士はやれやれと思いながらアクトに代わって紹介する。
「新しく秘密結社ガーディアンズの仲間に加わった天瀬空翔くんです。そして、新たなガイファルドである白い巨人の共命者で、彼のコードネームはそのままアクト。ガイファルドの個有名はセイバー」
博士は超極秘事項であるガーディアンズやガイファルドについて話し始めた。
「事故によって共命者となったこともあり、本人は戦闘の素人でありますが、先日とある訓練の中でダブルハートが覚醒。身体能力の上昇現象が発現したことで正式に作戦行動に参加することができるようになりました。中距離支援型として現在セイバーの兵装の開発をしているところであり、機動重機の戦力アップと合わせて急ぎ新兵装を実践投入していく予定です。彼とセイバーはそのメイン実験体としても協力してもらうことになっています。以上です」
とアクトも知らないようなアクトの紹介がなされた。
『機動重機の戦力アップと合わせて?』
アクトは自分の紹介とガーディアンズとことと神王寺の者たちのとのつながりが良くわからない。
「それと彼はロイドと言ってアクト君やルークのボディーガードです。気にしないでください」
アクトの紹介中にチラチラと幹部陣の視線がルークとアクトの間に座るロイドに動くので、博士はそれも軽く説明する。
「えーとそちらからは何か質問や報告はありますか?」
「ちょっと待ってください」
どんどん進んでいく流れにアクトは割って入った。
「全然わからないのですけど。なぜガーディアンズの基地からエレベーターを上がったら神王寺の幹部陣が待っていて、博士とは顔見知りで。それにガーディアンズのことまで話してしまっていて……」
「柳殿、何も説明していないのか?」
アクトの態度と言葉を聞いて不思議に思った翔真は博士に問いを投げかける。
「はい、知っての通り彼は事故によって共命者となったので今後の対応が未定だったもので。更に初の実践によるメンタル面でちょっと問題が起こり、それがようやく解決したのが三日前だったのですよ。何よりこのことは言わない方が面白いとルークが言うものだからつい僕も乗ってしまいました」
博士は軽く笑いルークを横目で見る。
「ルーク、君も相変わらずだな」
「実際面白かったでしょ?」
「アクト君がかわいそうよ」
神王寺の幹部たちを前にまだ緊張が抜けないアクトを舞花がフォローする。
『オレって可愛そうなのか?』と思ったところで、みんなと砕けて話すルークに対する疑問が沸き上がった。
「なんでルークは神王寺幹部の人たちと顔見知りなんだよ」
「あぁ、それは俺はここの社員だからだ」
「なに?!」
「俺が恋人を追って日本に来たって話しただろ? そのとき就職したのがこの会社だったんだ。しばらく普通に働いていたんだけど社長らに呼ばれてさ」
「機動重機パイロット候補としての人事だ。彼の物怖じしない性格、強靭な肉体、格闘センスに判断力などからパイロット適性が高かったので選定した。実際スピリットリアクターとの相性も良かった」
ルークはアクトの視線を外してそっぽを向く。
「だが、柳博士が彼はガイファルドの適性率が高いと言って連れて行ってしまったことで、こちらは貴重な重機パイロット候補を失ってしまったわけだ」
勇翔社長は難しい顔で首を横に振る。
「ルークおまえ、そんなこと一言も!」
「いや、ここでこんな感じで発覚した方が面白いと思ってさ。もちろん悪意はないんだぜ」
悪意はなくとも面白がってやるのはどうかと思うと皆はルークを白い目で見る。
「そして、我々は新たななパイロット候補が見つからぬままそのときを迎えてしまったのだが」
それはライトとゼインを失ったことだ。
「もちろんそれを責めているわけじゃない。我々の仕事はガイファルドが戦線に登場するまでの間、奴らの対処をするという約束だったのだから。だが、ライトはそうではなかった」
勇翔は呆れ顔の中に悲しさをにじませた。
「兄は本気で機械虫の奴らをすべて倒すつもりで戦っていました。ルークさんが機動重機パイロットにならなかったことは残念ですが、兄のあとを継いで重機パイロットになるのはボクです。今はまだ訓練中の身ですが、近いうちに必ずなってみせます」
雷翔の弟だけあってその言葉には確固たる意志が込められ、それがアクトたちにも伝わった。
「ガイファルドが出てきた以上重機パイロットはもう必要ないと言っているのに聞かないのよね、この子は」
「姉さんたちは同じことを兄さんに言って聞くと思いますか?」
光司の言葉に誰も言い返せない。光司の言う通りライトはそんな言葉に耳を傾けはしなだろう。例え微力であっても戦う道を選ぶ、彼はそんな男だと皆わかっていた。
「とまぁそういうことで機動重機パイロットの募集は現在していないのだよアクト君。君がライトのことも思って機械虫と戦いたいということは知っているが、その思いは我が企業では叶えてやることができないだろう。といってもガイファルドの共命者となった君に機動重機は必要ないだろうがな。それでも我が社で働く気があるかね?」
突然の問答だったがアクトは迷わず答えた。
「はい、機動重機のエンジニアとして力を振るい、御社のお役に立ちたいと思っております」
「真面目か」
と舞花が小さく突っ込んだ。
「では、アクト君は私と同じメカトロニクス統括部門に……」
「ちょ、ちょ、ちょっとまって」
まとめに入った博士の言葉をアクトは遮った。
「今、私と同じメカトロニクス統括部門って。そこにも突っ込みたいけど、それより、ガーディアンズと神王寺コンツェルンの関係って一体なんなんですか?! さっき『ガイファルドが戦線に登場するまでの間、奴らの対処をするという約束だった』とも言ってましたよね?」
「あぁそこの説明を忘れてたよ。まぁ長くなるからなるだけ簡単に説明するけど」
「いや、長くなってもいいからちゃんと説明してください」
博士は少々めんどくさそうな顔をしてから座り直し、お茶を一口すすると説明を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます