Scene5 -2-
「現在A国軍が機械虫軍と交戦中。総数六十一体のうち、A級は四体。B級は六体、C級以下が五十一体。その他小型機械虫多数で、そちらは陸軍歩兵部隊を中心に応戦しているということだ。市街地ではないため人的被害は今のところ出ていない」
と、剛田が説明。
「ということだ。交戦地点はここ」
柳生博士はスクリーンに地図を映し出す。
「幸いにも荒野で周りを気遣う必要はほとんどない。アクト君のデビュー戦には打ってつけだ。ただ数が多いだけに最初は遠距離からの狙撃でノエルとレオンの援護をしてもらう」
「狙撃ですか」
「スコープに入れて引き金を引くだけだ。生身で撃つよりは当たる」
「その簡単に当てられる射撃武器がこれだ」
剛田がスクリーンを切り替えてその武器を映し出した。
「三〇〇口径のスナイパーライフル。ノエルが使う予定だったが今回は後衛のセイバーに使ってもらう。まだ試作品として完成したばかりだから七弾倉の交換用マガジンはひとつだけ。全弾撃ち尽くしたら状況を見て接近し、この四五〇口径ハンドガンをぶち込んでやれ。こいつも試作品だから交換用のマガジンはひとつだけだ」
ハンドガンはレオン用として用意したものだったらしいが、今回はスナイパーライフル同様にセイバーに装備することになった。
「大丈夫、俺にはこいつがある」
ルークは拳を握ってにこやかに笑った。
このルークという男はなんとも接しやすい。というか彼の言葉や言動は不思議となんら抵抗を感じない。初対面のときからそうだが礼儀らしいものもないのに、あっさりとアクトの懐に入ってきて、それが心地よい。外国人だからなのだろうか、とアクトは考えルークを見ていた。
「どうした?」
「いや、後方支援はまかせてくれ」
「でも、できれば俺たちから遠い奴から狙ってくれよ。いくらレオンでもライフル弾が当たったら痛いんだぜ」
と冗談を交えて言うのだが、それを聞いていたエマは、
「笑い事じゃない。射線が〇・五度でもズレていれば着弾点は大きく変わる。仲間に背中を撃たれるのは困る。だからレオンには絶対に任せられない」
と本当に困った顔で付け足した。
「あ、あぁ気を付けるよ」
交戦地点が変わらなければ狙撃ポイントは三・八キロメートル離れた場所だ。アクトが冷静ならセイバーの正確な動きとコンピューター制御と合わせて狙撃が大きく逸れることはない。つまりルークもレオンもどちらの性格も狙撃には向かないということだがふたりともそのことは気にしていないらしい。
その他作戦内容や注意点を指示されブリーフィングが終わる。解散後にはもう一度セイバーと合身し、スナイパーライフルとハンドガンの取り扱いをノエルに合身したエマに直接指導を受けた。
「そう、トリガーは優しく。力むと銃身がずれる」
その指導が終わった頃、戦闘領域まで約一時間三十分となり、それまでは各自休息を取るということで軽い食事をしてから休憩室のソファーで横になる。
アクトは突然の実践に緊張もしていなければそれほど恐怖を感じていない。それはきっとガイファルドの異常なまでの強さを実感したからなのだろう。二十分ほどの仮眠を取ったアクトは軽いストレッチをおこなって、セイバーたちのいる格納庫に向かった。
セイバーたちが何をしているのかと思ったら、椅子に座って普通に会話をしていた。内容は機械虫との戦闘についてだった。
「ルークが酷い熱を出してな。俺だけで出撃したこともあったわけだ。まぁ俺なら合身してなくても機械虫に後れをとるなんてことはないけどな。でもお前も同じことがあるかもしれないから、戦闘訓練はしっかりやっておけよ」
「射撃訓練は私が見てあげる」
「ありがとう、よろしくお願いするよ」
「じゃぁ今日の戦闘が終わって帰ったら早速始めましょう」
『あいつらだけでも普通に会話するんだな』
ガイファルド同士で仲良くやっているのを見たアクトは感心しながら博士の居るであろう休憩室に向かった。
「どうしたんだ。まだ一時間くらいあるのに」
博士は剛田と一緒にコーヒーを飲みながら談笑していた。そのテーブルに開かれていた冊子は……。
「それって聖者ロボシリーズの公式ガイドブックじゃないですか、それも初回限定の裏設定資料と聖者王ゴウダイガーのプラモデル付き! オレも持ってるんですよ」
「ホントか? アクトも聖者ロボシリーズを観てたのか」
剛田が驚きの声を上げた。
「えぇ、子供の頃から見ていて、大人になってからブルーレイディスクBOXも買いました」
「この公式ガイドブックは放送終了後の翌年に発売されたから一〇年くらい前の物だぞ」
「それも五年くらい前にバイトしたお金で買いました。プレミアが付いていてニ万五千円もしたんですよ」
「君もかなりのマニアだな、今その話しをしながら新型兵装について話していたんだよ」
博士は眼鏡のレンズを光らせた。
「オレも混ぜてください」
「おう、来い来い」
アクトは博士と剛田と三人で聖者ロボシリーズの話しで盛り上がった。時折出る新型兵装の科学的な話にもアクトは意見していた。
「なるほど、そういうのもアリだな」
剛田が納得する。
「アクト君はよくそんなこと知ってるね」
「オレはこう見えて神王寺コンツェルンの防衛機動重機関連のエンジニアのタマゴですからね。将来機動重機のパイロットになるにあたりたくさん勉強しましたし、聖者ロボの武器を再現するにはって科学的に検証したりしてましたから。まぁ趣味の範疇ですけど」
「いやしかし、この発想は面白い。実際にやってみようなんて思わなかったよ」
妄想力を褒められて嬉し恥ずかしアクトは次々にアイデアを出していった。
「これは検討の余地ありそうなのがいくつもあるな」
「そうだね、ちょっと詰めて考えていきたいね。実験できるガイファルドも増えたことだし」
といやらしい笑いがふたつ並んでアクトを見る。
「機械虫との交戦ポイントまであとニ十分です。共命者は共命体との合身を済ませ、発進に備えてください。柳生博士と剛田メカニックチーフは艦橋に来てください」
「剛田さん行きましょう。アクト君、ちゃっちゃと機械虫やっつけてさっきの話の続きをしよう」
博士と剛田のサムズアップをサムズアップで返したアクトは、セイバーの居るハンガーへ向かった。
ハンガーではエマがノエルとの合身を済ませてダガーが二本備えられたフォルダーを腰に装着していた。
「セイバー、オレたちも合身だ」
「了解しました」
「待ってアクト」
「ん、なに?」
「そのテーブルにある物を怪我をしている右肩に」
テーブルには銀色の箱が置かれていた。手に取って開けると中に注射器が入っている。
アクトがそれを肩に当ててスイッチを押すと、パシュッという音と共に薬液が注入された。
「痛み止め兼細胞活性剤。無いよりましだと思う」
「ありがと」
手を上げてお礼の言葉を返した。
『ぶっきらぼうなしゃべりをするけど気遣いある子だな。隊長だからだろうけど』
アクトが合身を済ませてハンドガンとマガジンをフォルダーにセットしスナイパーライフルを手に取ると。ルークがあくびをしながら入ってきた。ライフルの取り回しを確認しつつルークに銃口を向けて眠気を飛ばしてやると、ようやく彼もレオンとの合身を済ませた。
それぞれの準備が整ったところでスピーカーから声が流れ出る。
「準備はいいかい? アーロン司令からの言葉を伝える。『経験値を上げて無事に帰ってこい』だそうだ」
「あの人らしい」
レオンの言葉にノエルがうなずく。
「それとさっきのブリーフィングで言ったとおり、本艦は高度一〇〇メートル地点で一度停止する。三体のガイファルドはそこで降下してもらうがセイバーにはまだバックパックスラスターを装備していないので、レオンとノエルに捕まって降下してもらう。そこからセイバーは狙撃ポイントでサポートの準備。ノエルとレオンは弧を描くように左右から接近して敵を挟み討つ」
「了解」
「OK!」
「わかりました」
三者三様の返事を返して降下準備に入った。
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