Scene4 -2-
アクトが目覚めたのは午前七時十二分。寝ぼけ眼でデジタル時計を確認し、布団からのっそりと起き上がる。あんなことがあって大怪我もした割に良く寝たもんだと自分に感心しながら洗面台で顔を洗った。
「オレの新しい人生が始まったんだ。気合入れろよアクト」
こうやって鏡の自分に声を掛けるのはアクトの習慣だった。顔も洗い気合を入れたところで自分の共命体のことを思い出す。命を共にする者。これから共に機械虫どもを倒す相棒だ。同時に柳生博士に言われたことも思い出した。
「名前、付けてやらないと」
昨夜眠る前に考えようと思っていたが、いつの間にか深い眠りに落ちていて、考える間も無かったのだが、これはどうだろうかという名前はあった。他にもいい名前は無いかなぁなどと考えているとドアの方からチャイムが聞こえ、ドア横の壁に備え付けられたモニターにはエマとルークが映っていた。開閉スイッチを押すとシューと静かな音でドアがスライドした。
「あっ、おはよう」
「good morning」
「おはよう、起きてたのね。よく寝られた?」
「あぁ、思いのほかよく寝られたよ。オレって割と枕が変わると寝られないタイプなんだけどね」
「俺たち共命者の設備はどれも最高の物が使われてるからな。寝心地が良かったんだろうぜ」
昨日と変わらず陽気な笑顔でルークが言った。
「そうかも。オレの自宅のマットレスも五万くらいしたそこそこの物だけど格が違うって思ったよ」
アクトも笑顔で言葉を返した。
「少し早いかと思ったけど一緒に朝食はどうかと思って」
「うん、ご一緒させてもらうよ。だけど、この服装なんとかならないかな?」
部屋着のようなスウェットの上下でこの施設の中を歩くのはちょっと場違いな感じだ。それも一緒に歩く二人がここの制服らしき物を着ているならなおさらだ。
「Timely! こいつを持ってきたから着替えたらいい。アクト用の制服だ」
ルークは大きめの袋をふたつ差し出した。
「ほんとに?! 君らと同じやつか」
「PR3を待たせておくから着替えたら案内してもらって。私たちは先に行って席を確保しておくから」
名を呼ばれたPR3が部屋の外で見切れた。
「うん、わかった。じゃぁまた後で」
アクトはすぐに袋を開けて中身を取り出し急いで着替える。
「おー、なかなか似合うんじゃないか」
鏡に映る自分を見てそう呟くのも自己暗示が含まれている。
アンダースーツっぽい黒の上下、白を基調にしたトリコロールカラーの長袖ベスト。赤いショートブーツに茶色のベルト、そして、いかにも通信機っぽいブレスレットと何かありそうな……「チョーカーかな?」
ピー、ピー
「おうっ」
突然、腕に付けたブレスが鳴った。小さく光る部分を押してみると「ルーク sound only」と表示される。
「HEY! 着替えは終わったか? 席は確保できた。アクトも腹減ってるだろ? ここの飯は美味いから早く来て食べようぜ!」
「お、おう。今着替え終わったからすぐ行く」
「OK! 待ってるぜ!」
そう言って通信は切れた。
部屋を出るとPR3が待っていた。
「着替えが済んだようですので食堂に案内します」
「よろしく」
かすかな駆動音をさせてPR3は動き出した。近くのエレベーターに乗っていくつか上昇した階を降りると目の前に乗り物らしきものがあった。
「乗ってください」
PR3は自分専用というような形状の座席に乗り、アクトはその横に座る。その乗り物はスッと浮き上がりスムーズに発進した。おそらく時速八十キロくらいは出ていそうなスピードで真っ直ぐ三十秒程度走ると終点の壁の前に停止する。乗り物を降りて壁の前に立ったアクトに、
「ブレスのある手をかざして下さい」
とPR3が指示するので、その通りにすると、目の前の壁は仰々しく重々しく開いた。開いた先にはまたドアがあり、今通った壁が閉まるとランプが赤から青に変わって部屋のドアのようにシューと開いた。
「厳重なセキュリティーなんだな」
歩きながらPR3に尋ねる。
「そうです、あなたたち共命者の暮らす区画や共命体のハンガーは一般の者たちの区画から隔離されています」
「一般の者たちってオレたち以外に人間なんて」
シューっとドアが開いた。
パン、パンパン
開いた部屋の中から鳴り響いた音に驚き、思わず腕で顔を庇ったアクトは細めた目で部屋の中を見ると。
「ようこそ秘密結社ガーディアンズへ!」
と、五十人、いやもっとだろう。大勢の人が声を合わせて叫んだ。
「え?!」
「ほら、早くこっちい来いよ」
ルークが前に出てきて腕を引っ張って中に引き入れられる。
「こんなに人が……」
「こんなに人が居て驚いたってか? そうりゃ驚くよな、それに秘密結社とか言ってこの歓迎だもんな」
そう、秘密結社という呼び名のイメージからしてこの状況はまったく予想できない。もっと暗い感じが頭にあったのだが、まさかこれほど大勢で歓迎会を催す秘密結社があるだろうか。
ひとりの男性が立ち上がる。歳は五十歳手前くらいだろうか。顔も体もごっついその男はアクトを凝視して口を開く。
「俺はガイファルド兵装関連メカニック兼プログラマーの責任者をしているの剛田だ。先に言っておくと、ここに居る者たたちは全員、巷で機械虫と呼ばれる奴らに襲われて家族を失っている。君は今回我々と同じように機械虫に襲われて事故によって共命者となったことは聞いている。ある意味それは俺たちよりもつらいことなのかもしれない。だから俺たちは君とルーク、エマを全力でサポートする。だから……、だから、俺たちの代わりに奴らをぶっ倒してくれ!」
剛田の言葉に続いて声が上がる。
「たんだぞ!」
「お願い、仇を討って」
「やつらをぶっ潰せ」
みんなは思い思いに声を上げ、その声を聞いたアクトは胸に熱くこみ上げるモノを感じていた。
エマが背中をポンと叩く。
「彼ら思いに応える覚悟はある?」
アクトは一歩前に出て一同に注目される中、自分の思いを語る。
「オレの両親も三年前、初めて機械虫が現れて間もない頃に殺されました。ふたりで旅行に行ってたんです。当時オレは学生で学校でその知らせを受けました。そのあとオレも機械虫の被害にあって大怪我をしましたが、、神王寺雷翔さんに助けられたんです。病院で機動重機たちの活躍を見てオレの代わりに彼らが仇を取ってくれているんだからオレは彼らの手助けがしたいって思いました。たぶん今のみんなと同じ気持ちだったと思います。ライトさんはその期待に応えて命懸けで戦ってくれていました。だから、今度はオレがみんなの期待に応えられるように命を懸けて戦います。だからサポートよろしくお願いします!」
「おう、まかせとけ! よしお前ら、俺たちもすべてを懸けて共命者たちをサポートしていくぞ!」
「「おー!」」
この掛け声を聞いてアーロン司令が秘密結社ガーディアンズは企業でも軍隊でもないと言っていたことを思い出した。みんながあるひとつの目標に向かって一致団結する家族なのだとアクトは理解した。
「よっしゃ、堅苦しいのはここまでにして飯だ!」
「おう!」
その後はじゃんじゃん運ばれてくる料理を食べながら各部署ごとの簡単な自己紹介をする。年齢は五歳から六十歳と幅広く、特別な技術を持たない者もできることで協力し、新しいことを学んでいるということだった。みんなアクトたち共命者とは違う制服を来ていて、赤色がメインの制服は共命体に直接関与する仕事をしており、黄色はオペレートなど間接的に共命者や共命体と関わる仕事をしているということだ。そして、緑色の制服は基地内の設備に関する仕事で、青は生活関連の雑務を担当しているという。
酒はないながらも盛り上がった歓迎会は一時間ほどで終了し、各自持ち場へと戻っていった。
元料理人たちの美味しい料理を満喫したアクトは、エマとルークと一緒にそのままガイファルドたちのハンガーに向かった。
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