第320話 スカイラーク計画発動

春である。

毎年この時期になると、この世界に来た事を、本当に感謝する。

元の世界の様に、『花粉症』に悩まずに済むからである。

子供の頃は何も問題なかったのだが、16歳ぐらいから花粉の飛ぶ季節になると、クシャミと鼻水に悩まされていた。

特に結婚して以降は、年々酷くなり、この季節は外に出るのが辛かったのだ。


しかし、この世界では、1年を通して全く花粉症になる事が無い。

花粉症になったという人も知らない。

この世界の人の身体の仕組みが違うのかも知れないが、お陰で春の自然の息吹を躊躇無く感じる事が出来るのである。




さて話は変わるが、4月の中旬に入る頃、俺は小型の試作機でテストし、最終的な飛行の方式を決定した。


フッフッフ、これでこの世界の空を俺の物だ! とどこぞの大魔王の様な事を呟きつつ、新大陸への夢を膨らませる。


結局だが、実機のサイズは、直径10mぐらいの円盤タイプにした。

理由は色々あるのだが、一番は、UFO世代だからである。

よくTVのUFO特集に心を躍らされたのを思い出す。


「おらぁ、向こうのお山がオレンジ色に光ったのを見ただ。 あれは丸っこい円盤の形さしてて、山の奥へと消えて行っただ。

間違いねぇ、あれはUFOだべ!」

とアメリカの現地のオジサンがしたり顔でインタビューに答えていた。

また、ある者は、自分は宇宙人に連れ去られ、性的な実験をされた!と言う男女が出て来たりして、涙ながらに主張していた。

そう、あの番組である。


空中を飛ばす為の原理は、重力魔法の反重力で浮かせ、行きたい方向に負の重力を作る感じである。

その為、巨大な船体や構造を必要とせず、更に空気抵抗を減らす形状を模索した結果、薄っぺらい円盤形に行き着いたのであった。


一応、モノレールにも採用した、空気抵抗を0にするエアーシールドも使っているので、魔石の燃費を考えなければ、事実上、無限に加速する事が可能である。

まあ、バカみたいに燃費が悪いと使い物にならないので、一応音速を超えない辺りでの運用となる。


そして、今日5月5日は、完成した試作機の処女飛行である。



「さぁ、待ちに待った初フライトだ。 最悪堕ちる可能性もあるから、初フライトに乗る乗らないは、各人の自己責任でお願いしたい。 事故だけに。」

と俺がコナンさん、リサさんに問うと、即答で

「乗るよ?」

「乗るに決まってるじゃないですか!」

と返って来た。


「まあ、そう言うとは思ってたよ。 フフフ、なんせ人類初の瞬間だもんね。」



ミスリル製の銀色の機体へと乗り込み、コクピットへと座った。


「じゃあ、行くよ? 3,2,1 ポチッとな! 飛べ! スカイラーク!!」


魔導スイッチを入れ、スロットルを開けて行くと、機体がフワリと浮き上がった……多分。


多分というのは、この機体の室内には『慣性ダンパー』の付与をしているので、Gを全く感じ無いからである。


つまり、TVゲームと同じで、全く画面(景色)だけが変わる感じで、実際に乗ってる気がしないのだ。

まあ、これも操縦する身となると、善し悪しではあるが、乗客としては、Gを感じ無いので不安になる事が無いのではないかと思う。


「成功したっぽいね。 浮いた様な感覚はないけど、外の景色を見ると、俺達は今、エーリュシオンの王都上空に居る。」


高度計は300mを指している。


フワフワとした不安感が全く無い。


そのままドンドンと上空へ登り、1000mで水平飛行へと移る。

操縦桿を前に押すとそのまま音も無くシュルリと前方へ飛び始めた。

時速500kmである。


「す、凄い! 遙か下の地面が川の水の様に流れて行きます!」

と大興奮のリサさん。


「俺達は今、鳥を超えたんだな!」

とコナンさんもリサさんと手を取り合ってはしゃいでいる。


そう、コナンさんとリサさんだけど、最近実に良い雰囲気なんだよね。


2人のそれぞれの過去のトラウマは大体スタッフ全員が知って居るので、周囲のみんなもソッと生暖かい目で見守ってる。



「よし、これより、自動操縦モードのテストを行う。」


さて、自動操縦モードだけど、これはマギマーカーの放つ魔力の方向へと自動で向かうという簡単な仕組みである。


なので、各国にある各別荘等のマーカーを使ってテストする。

今回は、マーラックへと向かっている。


ポチッと自動操縦モードに切り替え、客室へと移動して、暫しの間椅子に座ってユッタリを流れる景色を見下ろしていた。


直径10mの機体の中は、空間拡張してあるから、中は非常に広い。

オマケにトイレ、風呂、キッチン、寝室等の設備も備えているので、普通に住める。


まあ、『滅びの呪文』に該当する様な兵器は積んでないけど、天空の城ゴッコぐらいは出来るだろう。




そして初フライトは、1時間半程で全く問題無くマーラック上空へと到着したのであった。




「ケンジ様、テストは無事成功したけど、これ、どうする気? 大々的に公表するのは止めた方が良いと思うんだけど。」


コナンさんが真剣な表情で俺に聞いて来る。


「うん、俺も公表する気は無いよ。 多分コナンさんの思っているのと同じ理由だと思うけど。」


「え? マスター、何で公表しないんですか? 折角こんな凄い物を作ったのに?」


「うーん、確かに凄いんだけど、先々公表する可能性はあっても、今はまだしないね。

理由は強力な兵器としての運用も可能となるからだね。

前に作った銃もそうだけど、あれも公表しないのは同じ理由だよ。

もし、仮に悪意を持った国がこれを手にいれたら、侵略兵器として使う可能性があるよね?

列車だと、決まった路線しか走れないけど、これは国境も川も海も関係無く、何処にだって攻め入る事が出来るでしょ?

だから、今の平和が崩れる可能性もあるし。 折角これで築き上げた平穏が崩れる様な事はしないで、ソッと観光に使うぐらいだね。」


俺の回答にコナンさんも頷いていた。


「そうかぁ。 うーん、でも勿体無いなぁ……」

とリサさんは呟いていたのだった。




城に戻った俺は、このUFOを正式に『スカイラーク0号』と命名した。


これは、子供の頃に読んだ当時大好きだったSF小説に出て来る宇宙船だかの名前がスカイラークであったからである。

ヒバリの様に垂直離着陸出来るこのUFOにはピッタリの名前だろうと。


そして4日掛かりで1号~4号機までを完成させ、有事の際に使える様に地下の倉庫に保管したのであった。


「マスター、有事って、例えばどう言う時なんでしょう?」

と言うリサさんが聞いて来た。


「例えば……そうだな、自然災害とかの救助とか、まあそんな感じだね。


「なるほど! これなら、大洪水とかで移動出来ない場所へも行けますね。」


と納得してくれたのだった。


まあ、そう言う災害が起きない事を願うのだがな。


兎に角、これにてスカイラーク計画は完了である。





国内の状況も諸外国の状況も安定していて、全く問題は起きていない。

食料の不足も無く、新規の建設事業も軌道に乗っている。

細かい事は優秀なステファン君とコナンさんに任せて置けば問題無いだろう……。



フフフ、そろそろ新大陸への家族旅行でもしようかな。

美味しい料理や食材と出会えるかも知れない……楽しみだ。


俺はニンマリと微笑みながら、まだ見ぬ新大陸へ夢を膨らませるのであった。

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