第309話 役を演じてみる

さて、最後の仕上げである。


ボロボロの89名がボロ雑巾の様な状態で横たわって居る広場にやって来た。


俺は、風魔法の拡声で、全員を叩き起こす。


「おらぁーー! 起きろーー! 戦をしに来たんだろ? 何敵の前で眠りこけてるんだ? 気合いが足り無いんじゃないか?」


「っ!!!!」


「あぁ? まだ寝かせてくれー」


「お、おい、あれは!?」


「お、おい、あれって! まさか?」


何人かが目を擦りながら上体を起こしつつ、こちらを見て驚いている。


「俺が、ケンジ・スギタ。 お前さん達が戦を仕掛けた相手の親玉だ。

いいか、降伏する者は今直ぐ武装を解除して、このコルトガの前に集まって座れ。」


俺は、態と横柄な物言いで目の前で固まってしまっている兵達を煽る。

ハァ……胃が痛い。


一向に動こうとしない兵共に俺は一喝した。


「おら、どうすんだ? 戦争を仕掛けて殺そうとするって事は、自分らが殺されたり、侵略されたりする覚悟があるって事だよな?

お前らだけじゃないぞ? 故郷の両親も、妻も子供もだぞ? そう言う覚悟で来たんだろ? どうなんだよ?」


俺の一喝に、ビクッと身体を震わせる89名の兵士達。 良く見ると、中には立派だったであろう鎧を身に着けている者(←将軍ね)や騎士の成れの果ても混じっている。


「大体お前ら、練度が足りねぇんだよ! これ、うちの一般兵達の訓練様のメニューだからな? それに魔物だって、普通にソロでも討伐出来る物しか出してないから。」


俺の合図で、シャドーズがブラッディ・デス・ベアを出して来た。



「うぁーーー!! ブラッディ・デス・ベアだーーー!」

「何でこんな所に災害級の魔物が!?」


と騒ぐ兵士達を尻目に、俺は威嚇しながら突っ込んで来たブラッディ・デス・ベアの首をサクッと愛刀の一振りで落とした。


「「「「「「…………」」」」」」


その一瞬で、広場が静まり返る。


「大体な、うちの国の周りには、こんなのがワンサカ居るんだよ。 お前らがうちを攻めるって事は、こいつらをまず倒す必要があるんだが、判ってて来たんだよな?」


「「「「「「…………」」」」」」


「お前達、ここに何名で出兵して来た? 恐らく9000人ぐらいか? その中で生き残ったのは今ここにいる100名にも満たない者達だけだぞ。

ここの中で一番偉い奴……多分総司令だか将軍だか知らんが、今回の責任者、生き残って居るだろ? 自分から名乗り出て欲しい。」


俺の問いかけに一瞬間を置いて、やはり先程の立派だったと思われる鎧を身に着けたオッサンが

「ワシだ。 ワシが今回の討伐軍を指揮していた将軍のラディオール・フォン・タールンドだ。」

と名乗り出てくれた。


うん、それ、知ってたよ。 既に全員一応詳細解析し終わってるからね。

でも、ここで俺はちょっとホッとした。

ここに来てこいつが逃れようとするのであれば、もっとやりたくない事をせねばならぬ感じだったからである。


「そうか、貴殿か。 貴殿はどの程度今回の経緯を聞いている?」


すると、観念したらしく、ポツリポツリと聞いていたこれまでの経緯を語り始めた。


うん、判ってはいたけど、デタラメであった。


「なるほどね。 それ全部デタラメだよ。 俺がクーデリアに物が入って来ない様に封鎖? クーデリアだけを冷遇? 全部嘘だよ。 寧ろドワース辺境伯とかと懇意にして貰っているから、他国より優遇していたぐらいだし。

それに胡座をかいて、無茶を通そうとしたから拒絶して、猶予を与えた結果が現在だよ。 それはちゃんと証拠も残してあるからね。 見るかい?」


俺が時系列に纏めた証拠と経緯を見て驚く将軍。


「クーデリアはね、他国の様に、国の発展と国民の幸せを優先せずに、大臣に従う一部の貴族の治める都市……いや、一部の貴族の利益だけを追求しようとしたから、この世界の流れから取り残されたんだよ。

そして、国ぐるみでうちの商業拠点に強盗に入り、働いているクーデリア国民を人質に取ろうと考えた。 それをネタに今回の侵略を有利にしようと考えた。 それだけだよ。」


「マジかよ……」

「ひ、ひでー」

「マッシュもギランも犬死にか……」

「なんて奴らだ!」


黙って横たわりつつ聞いて居た兵士達が怒りにワナワナと身体を震わせたり、亡き友を偲び、咽び泣いていたのだった。



「もう一度言うが、うちの国は天然の要塞なんだ。 周囲には、Aランク~災害級までの魔物が闊歩しててね、そこらの盗賊も、そこらの兵も突破出来ないからね。

で、仮に突破出来ても君らの周りにあるのと同じ壁が各都市を完全に取り囲んで守ってくれるから、突破は無理だね。

更に中で守る兵士は災害級でもソロ~3人ぐらいで倒せる様な人材がウジャウジャ居るんだよ。 そもそもが無謀な作戦だったと思うよ?」


気付ば、俺は演技を忘れ、普通の喋り口調になっていた。



「さて、君らは我が国と戦争をしに来た訳だが、どうする? ここで俺と戦うかい?」


俺の問いかけに、全員が降伏を選択したのだった。



そして、コナンさんを交え、彼らの今後についての話し合いをしたのであった。


さて、将軍曰く、責は自分が負うので、出来ればこの88名の命だけは助けて貰えないか?という要望であった。

もしこの88名がクーデリアに戻ったとしても、敗戦の責任を負わされる可能性もあるらしい。

将軍自身はまず確実に死刑となるらしい。 まあ、本来ならこの戦を嗾けた大臣の責任なのだがな。


なるほど、理不尽な世の中だ。


「まあ、それはそれで構わない? が、一番はクーデリアがまともな判断と対応が出来る国になる事なんじゃないの?

何で大臣の言いなりになっているのかが判らん。 国王陛下の具合は、そんなに悪いのか?」


俺の問いかけに、大いに驚く将軍以下の士官達。

一般の兵士達は違う意味で驚いている。


「ボケが始まったって報告は入ってるが、王子様がまだ宮廷を掌握してないんだろ?」


そう、最近になって、どうやらボケが始まって居たらしいと云う情報がサスケさん経由で入って来たのである。

まったくぅ~、何でうちがそれに巻き込まれなきゃならんのだよ……。


兎に角、クーデリアには正常化して貰わないと、こっちが困るんだよ。

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このところ、公私ともに忙しく、コメント等のご返事が出来ずに申し訳ありません。m(__)m

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