第290話 リハーサルと最悪の時間潰し

翌日、朝食を終えると、直ぐに台本?を渡されリハーサルに入った。


各国の来賓も続々とドリーム・シティに到着しており、ドリーム・シティ側のキャッスル・ホテルは大忙しだそうで。


冬の間にドリーム・シティとここエーリュシオン王都を結ぶ地下鉄を拡張したので、それで纏まって移動して貰う事になっているらしい。


ジェイクさんも仲良くなった魔王さん御一行と一緒に、別荘のゲートでドリーム・シティに入っているらしい。

なので、今晩は来賓の皆様にお礼とお出迎えを兼ねて、ドリーム・シティ側の城で晩餐会を開かないといけないらしい。


「何か、滅茶苦茶スケジュールが過密だよな。」


「ケンジさん、しょうがないですよ。もう明日ですから。 何とか無事に済む様に、頑張りましょうね!」


アケミさんから、優しく手を握られて、そう言われると、俺もヤル気が漲って来て、


「そうだな! うん、頑張って良い結婚式にしないとな! フフフ。」

と微笑むのであった。


そんな俺をテーブルの向こうでスケジュール帳を片手に持ったステファン君がチラリと見て、「わぁ~ケンジ様、チョロっ!」と小さい声で呟いていた。


コラコラ、ステファン君。 俺の聴力はなかなか無駄に良いのだよ? ちゃんと聞こえているからね?


とは言え、確かにチョロいな……俺。


いや、俺だけじゃないだろう? 本来男とはそう言う者なのだよ? だよね?



大神殿に本番さながらに移動し、司祭長と挨拶を交わした。



「ああ、スギタ陛下。 お初にお目に掛かります、こちらの神殿を任されました、司祭長のモーテンです。

この度はおめでとうございます。 しかし、何と素晴らしい神殿でしょうか。 私共の神殿本部も霞む程でございます。

何というか、神気に満ち溢れております。 実に不思議な神殿です。」

とモーテンさんが興奮気味に大絶賛していた。


まあな、そりゃそうだろうさ。 だって、人間が作ったレプリカでなくて、本職(建築神様)の方が気合い入れて作ってくれた神殿だもん。

そりゃあ、本物とコピー商品ぐらいの差が無きゃなぁ?


「そうですか。 気に入って頂けて光栄です。 きっと建てた本職の(建築神様)方もドヤ顔で喜ばれている事でしょう。

早速ですが、明日の式は宜しくお願い致しますね。」


「ええ、勿論ですとも!! 明日の式に間に合う様に、神殿本部からも総司祭長自らが出て居るそうなので、明日の朝には何とか間に合うかと。」


「じゃあ、時間も無い事ですし、リハーサルを始めましょうか。」


――――――

――――

――




3回続けて30分のリハーサルを行った。


いや、まあ大変だった。


なんかね、リハーサルって判っているのに、緊張するんだよ。 ついつい本番の様な気持ちになってね。

隣でニコニコしているアケミさんを見て、見惚れてしまったり、何か色々と頭の中で考えちゃったり、もう、ダメダメでしす。



「ケンジ様、時間無いのですから、本当に真剣にお願いしますよ!」

と失敗する度にステファン君が泣きそうな顔で懇願して来るんだけど、


「あ、ゴメン。 いや、マジで真剣そのものなんだけどさ、何かリハーサルとは言え、こうしていると、本番の様な気持ちになって、緊張しちゃうんだよ!!」


思わず泣き言を漏らす俺。


「何言っているんですか! そう言う時こそ、マインド・ヒールでしょ!」


「ああ、あれね? あれ、俺には効かないんだよね。 何故か。」


俺がそう、告白すると、何か絶望的な顔になっていた。


「ステファン君、大丈夫ですよ? ケンジさんは、ここぞという時にキメてくれる人ですから。 だからリラックスしましょう? ケンジ様もリラックス、リラックス。」


そう言いながら、アケミさんが優しく背中を擦ってくれると、何故か、キリキリしていた胃が落ち着きを取り戻すのであった。


そして、スタッフと司祭長、シスターも交え、一度休憩を挟む事にした。


「やっぱり、こう言う時は、焦った者が負けだな。 うん。 ちょっと気分を変えよう。」


俺は、こう言う時こそ! と思い、泉の水で入れたフレーバーティーと、剥いた桃やリンゴ等を皿にだして、全員で落ち着く事にしたのだった。


司祭長やシスター達が、フレーバーティーや果物を口にして、絶句したり、プルプル震えたりしていたが、それどころでは無い状況の俺は、スルーしておいたのだった。


やっぱり、泉の水やあの果物の威力は大きく、俺は心の平穏を取り戻した。

4度目の正直で行ったリハーサルは、上手く出来た! と思う。

ステファン君がやっとホッとした表情をしていたから、多分、間違い無い筈だ。



そして、お礼を言ってから神殿を離れ、本番さながらに移動を開始する。

移動は……勿論、マダラ達が曳くオープンスタイルの馬車である。

街をパレードする事になっているのだ。


そして、城のバルコニーで国民への挨拶となる。


そして、そのままホールでパーティーとなるのだ。


「はぁ~。明日は、長い一日になりそうだな。」


「ケンジさん、もしかして、結婚するの後悔してますか?」


そんな俺の呟きを聞いてアケミさんが不安そうな表情で尋ねて来た。


「え? 全然。 全く結婚に後悔なんて微塵も無いよ? 寧ろもっと早くしておけば良かったとすら思うよ?

ただ、ほら、式はまあ良いんだけどさ、パーティーが立場的に面倒だなってさ。

まあ、明日はアケミさんも大変だろうから、お互い頑張って乗り切ろうね。

どうせ、人生で2度目の結婚式は無いんだから。 一生に一度の最高の日にしないとだね!」

俺がそう言うと、ホッとした表情をして、「はい!」と元気に返事をくれたのだった。




城に戻り、ホッとしたのもつかの間。

俺達は風呂に入って着替えさせられて、ドリーム・シティの城へと移動させられた。


既にスタッフがフル回転して、フールの飾り付けや、食器を並べたりしている。


余りにも大変そうだったので、手伝いを申し出たのだが、


「いえ、邪魔になるので、お気持ちだけで!」

と辞退されてしまった。


確かに、余計にややこしくなるからな。 なので、俺とアケミさんは、部屋で大人しく待つ事に。


暇だったので、子供達を呼んで、『人生色々ゲーム』をして遊んで時間を潰したのだった。





何でこうなった……。


一回戦が終わり、一位でフィニッシュしたサチちゃんがキャッキャと喜ぶ中、俺とアケミさんはドヨーンとした表情をしている。


「な、何か、ゴメン。 結婚式の前日にするゲームじゃなかったな。 全く、誰だ、こんなゲーム作ったのは!!」

と怒りを滲ませる俺だったが、よくよく考えると、作ったのは俺だった。


「あ、俺か……何か、ゴメン。」


俺とアケミさんはそれぞれ、最悪の結果となったのだ。

俺は、パートナーと死別し、会社が倒産して最悪の人生に。

アケミさんは、パートナーが浮気して離婚し、そのまま孤独に人生を終えた。

と言う様な訳で、現在、何か不可抗力による修羅場を迎えているのである。


誰だよ! 何か子供向けにこう言うイベントカードを省いたんじゃなかったのか!? と声を大にして言いたい。


ああ……本当に何かゴメン。


「あ、アケミさん! 信じて! 俺は浮気なんてしないから! 本当だから!! 俺は裏切ったりしないから!!!」

と必死でアケミさんに叫んでいた。


なんで、やっても居ない浮気を必死で弁解する様なシーンになってしまったのだ!? 兎に角ここは必死で弁解するしかない。


「あ、うん、そうですよね。 でも私が死んじゃうかも知れないし……」

とブルーモードにドップリのアケミさん。


「いや、それは無いって! 俺がそうはさせない! 何としても!!! 本当に信じて! ね?」


30分程、ドンヨリした後、ハッと思い出して、マインド・ヒールをアケミさんに掛けてみた。


効いたよ! 効いた!! アケミさんには効いた!! 俺には効かないんだけどね。


やっと、室内の重苦しい空気が消えたので、ホッとするのであった。

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