第249話 で、どうすんの?

うう……面倒な朝がやって来た。 ダラッと寝ていたいのに、いつもの時間に目が覚めてしまった。


何故面倒な朝かというと、今日は昨夜の面倒事の仕上げをしないといけないからだ。



「あ、ケンジさん、おはようございます! 昨夜は大活躍でしたからお疲れでしょ? もっと寝ていらしたら良かったのに。」

とエプロン姿のアケミさんが厨房から顔をだして声を掛けて来た。


「ああ、おはよう。 アケミさんこそ早いね。 ちゃんと寝た?」


「エヘヘ、実はちょっと昨夜のケンジさんの勇姿が素敵過ぎて、ドキドキしちゃって余り眠れませんでした。」

と頬を赤らめてチロッと舌を出して厨房へ引っ込んでしまった。


また昨夜の羞恥を思い出してしまい脳内でのたうち廻る俺……。



朝食後、改めてその後の状況を報告された。


昨夜捕縛した人数は3127名、内負傷者3125名で、重傷者のみポーションを使い死なない程度に治療した後地下に放り込んで居るらしい。

当の首謀者である大臣とその取り巻き貴族は別途捕らえてあるらしい。


「そうか。色々とお疲れ様。 本当はみんなに纏めて休暇上げたいところなんだけど、これを収拾付けないといけないから、もう少し付き合ってね。」

と頭を下げてお願いするのであった。


「そんな、主君! 頭を下げる等お止めくだされ。 我らは主君の手足故、頭が自分の手足に頭を下げる等、不要であります故。」

「そうでござる。コルトガ殿の言う通りでござるよ。」


「そ、そう? そう言って貰えると、助かるよ。 で、今回の落とし前というか、収拾なんだけどさ、どうしたら良いと思う?

俺なりに考えたんだけど、今朝の7時半だろ? 俺はまず9時半までは待とうと思うんだよ。

それで先方がどう言う行動に出るかで判断しようと思って居るんだよね。

悪いけど、逃げ出さない様にシャドーズに王宮の見張りお願いね。」


「ハッ! 既に王族の方には全て監視を付けておるでござる。」


「おー、流石! 抜かり無いね。」


「でだよ、逃げる様ならダメだな。

もし、王様が国民だけは救って欲しいと頭を下げに来るのであれば、前向きに対処するけど。

我が身可愛さで自分らの命乞いだけをするなら、救いようが無いね。

逃げもせず、籠城するか更に反撃する等で責任を取ろうとせずに拗らせるなら、相応の対処を取らざるを得ない。

国を滅ぼすと、面倒が増えるだけだから、やりたくないんだけど、どうするかだよねぇ。

正しい国家元首かどうかを判断して決める感じだね。」


「なるほど。つまり正解は朝一でここに来て、配下の暴走を詫び、国民の命だけは助けてくれる様に頭を下げるという事ですね?」


「だな。」


「なるほど。流石は主君ですな。」


何が流石だかちょっと判らないけど、まあ元日本人としては、知って居るからねぇ。正しい国家元首の在り方ってものを。


「なるほど、であれば、おそらくマスティア王家に1人見所のある者が居るでござるよ。」

とサスケさんが言っていた。 ほほぅ~。それは期待しちゃうねぇ。



そして、俺達は随時シャドーズからの報告を受けつつ時を待つのであった。




俺達は庭に天幕を張って日陰を作り、そこにテーブルと椅子を置いてユッタリと待ち構えていた。

そして、1台の馬車が別荘の門に辿り着き、中から1人の青年……歳の頃は20歳ぐらいか? がお側付きの執事と侍女と共に降りて来た。


自動で門を開けシャドーズが彼を連れてやって来た。


彼は俺の座る椅子の傍まで来ると、片膝を着き頭を下げ話始めた。


「お初にお目に掛かります、私、ガルン・ハイド・フォン・マスティアと申しまして、マスティア王家の末端の者にございます。

本来であれば、こちらに赴き口を開く権利すら無い者ではございますが、この度のマスティアの暴挙、マスティア王家に成り代わりお詫び申し上げたく参上致しました。」


なるほど、彼がサスケさんの言う、見所のある人の様だ。


「ふむ、初めましてだね。 私はケンジ・スギタ。縁あってエーリュシオンを建国した者です。」


「スギタ陛下。 この度は大臣一派の暴走故の暴挙ではございますが、これは王家……いや王が抑える事が出来なかった時点で王家の責任にございます。

つきましては、全責任は王家、及び首謀者である大臣一派にございますれば、何卒罰は王家と大臣一派にのみお与えになり、マスティアの国民は、国民の命だけは何卒お救い下さい。」


キターー! 正解来たよー!!


「言いたい事は判った。 まあそうだよな。うん。 謝罪の言葉、受け入れよう。 えーっと、ガルンさんだっけ? まずはそこの椅子に座って貰える? 話がしにくいから。」


「ハッ、しかし……?」


「うん、そう言うのは今は良いから。」



「まず大前提として、そもそもだけど、俺らは侵略の意思なんかこれっぽっちも持って無かったんだよね。

単純に友好関係を築いていければそれで良かっただけなんだけどね。

で、まあこうなっちゃったら、誰かにそれ相応の責任取って貰わないと、対外的に拙いらしいからね。

しかし、なんであんなのを大臣にしちゃってたの? やっぱり世襲制ってダメだよね。

個人の才能主義にしないと、国が腐るよねぇ。 国の歴史が長ければ長い程ね。 さて、今後の事なんだけどね――――」


俺はガルンさんに今回の落とし処に関しての話を始めたのだった。



そして、決まった事は、マスティアの国民はこれまで通りで、全ての罪は首謀者である大臣一派とそれに追従していた騎士連中と責任者である王族。

自分の栄華しか考えて無かったそれらの連中には、島流し~死罪等を王となるガルンさんが責任持ってヤル事。

勿論グダグダ言う貴族が居れば、そっちで粛正して貰う様に告げた。


「ほ、本当にそれで良いのでしょうか? 私如きがこの国を率いて行けるのでしょうか?」


「うん、それを言うなら、俺自身もそんなガラじゃないんだけどね。 でも君がヤラならいなら、この国は無くなるよ? そうすると、国民達はどうなると思う?

俺? 俺は最初に言った様にこの国まで統治しようなんて面倒はゴメンだよ?」

と俺が言うと、俺の斜め前方の席に座っていたコルトガさんが苦い顔をしていた。


そして、最大のポイントとなる属国の件へと話が進む。


「俺としては、属国なんて要らないのだが?」

と言ったのだが、ガルンさんが困り顔になっている。


すると、コナンさんが口を開いた。


「ケンジ君、あ、いやケンジ様? ここは取りあえず、当初だけでも属国にしておいた方が双方にメリットあるんだな。

ガルンさん側は宗主国であるエーリュシオンの庇護下の下に強権を発動し易くなるし、国内の早期掌握に弾みがつくんだな。

エーリュシオン側のメリットは、対外的に、敵に回すとヤバいって思わせる事が可能なんだな。」

となかなか流暢に話していた。 ヤルじゃないか! コナンさん。


「なるほどね。 じゃあ、判ったよ。 取りあえず、掌握を早めに終わらせてね。

あ、統治する時に1つお願いがあるんだけど。 孤児達や片親で子育てしている低所得の人を支援してやって欲しいんだよね。

国って結局、人あってこそじゃない。 つまり次世代の国を作るのは今の子供らなんだよね。

その子供らが立派に育てば、国も安定して栄えるだろうし、荒んだ環境で悪に染まれば、国が荒れる。

子供らにちゃんとした教育を与えれば、国力の底上げになって、より発展すると俺は思う。

だから、うちの国では子供らは全員読み書きも計算も教えているし、希望する子には魔法や剣術なんかも教えたりしている。

子育てしている片親には、託児所もあって、安心して働ける様にしているんだ。

今は教えるべき事を教科書とかに纏めている段階だからまだだけど、近々には学校を作る予定なんだよね。

子供ら全員が通える学校をね。

そして、義務教育として、この先に生まれる子供は、全員が読み書きや計算なんかのこの世で生きて行く上で必要な事を学ぶ様にするつもりなんだよね。」


「なるほど! 確かに仰る通りです。 それを聞いて、今まで思っていた我が国の統治の在り方の違和感の謎が解けた気がします。」

とガッチリ握手したのであった。



そして、この日をもって正式に長い歴史を持つマスティア王国は新生国家エーリュシオン王国の属国となり、その後無能貴族や反乱貴族に対し、粛正の嵐が吹き荒れた。

無能で権利ばかりを欲していた王族連中は一掃され、新しい王であるガルンさんがドンドンと改革を進め、その結果国民らから絶大な支持を受けていた。

悪徳貴族が激減した事で、賄賂や中抜き、不正が減った事で、税が軽減され色々な所に必要なお金が廻る様になり、結果経済が潤ったのであった。

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