第240話 本が読みたい
さて、初めてのお客様という事で、城のスタッフはやや緊張気味であったが、恙なく接待出来ていたと思う。
昼食や夕食では魔王さん達が美味しい美味しいとバカ食いしていて、慌ただしくお代わり等を運んでいたけどね。
城の中にある温泉も大好評で展望風呂に喜んでくれていた。 フフフ、富士山は無いけど、ちゃんと夕日も見えるんだぜ?
この展望風呂に魅せられた奥方様が魔王さんに詰め寄り、物理的に説得され、魔王城を改造するとかしないとか。 ご愁傷様です。
翌日からは、タンク・カウやアンゴラ・シープ、ゴールデン・シープを放牧している酪農エリアやウーコッコー達の居るエリア、工場エリア等を見せて廻った。
4日目には周囲にある魔宮の森と魔絶の崖を魔王さんと四天王に体験して貰って楽しく過ごした。
流石は魔王さんと四天王である。 魔宮の森でも特に問題は無く楽しく魔物狩りをしていた。
しかし、魔絶の崖はヤバいと感じた様で、少し顔色がおかしくなっていた。
「ケンちゃん、君の城の周りってヤバいね。 あれはヤバい場所だよ? あんなのがウヨウヨ居るんだね? しかし、考えたねぇ。ある意味、これは天然の要塞都市だよ。」
と感心されたのであった。
四天王の筆頭である魔斬のラングさんは、
「うむ、確かにこれは普通の軍隊では侵攻すらままならんな。 目の付けところが流石ですな。」
と頷きながら呟いていた。
ちなみに、四天王であれば、二人組ぐらいなら崖の上の災害級もギリギリ対応出来ると言っていたが、安全圏を見るなら四人組でないと複数匹に囲まれたらヤバいと言って居た。
そうは言いながらも、俺がこの世界で初めて出会ったブラッディ・デス・ベアを難なく倒しているところを見た限りなら、かなり余裕ありそうだった。
「まあ、こう言うのは相性問題もあるし、ね?」
と美魔女(カサンドラさん)が微笑んでいた。
魔王さんは、「うーん、イケそうだけど、あまり一人では対峙したくない奴らだな。」と言っていたので、やはり魔王さんが一番強いらしい。
その後も5匹ぐらい災害級が連続で出て来て、魔王さんも参加して倒してたから、まあこれ位の魔物なら全然余裕なんだろうね。
しかし、その魔王さんが敵わない奥方様がもっと最強なのかな? 怖いね……。
ちなみにだけど、当初の話では、魔王さんと奥方様のお忍び旅行って話だったと記憶するのだが、魔王さんがその後何だかんだとそれっぽい理由を付けて、四天王を巻き込んだらしい。
それとも相性問題? ハハハ、身も蓋もないな。
まあ、そう言う事をしちゃうからじゃないの? ともフト思ったけど、それでも魔王さんも奥方様も楽しそうに二人で街の散策とかしてたから、相性は悪くないんだよね?
そして、滞在予定だった5日目になった。
「いやぁ、本当にお肌ツルツルになったわぁ。 貴方、温泉欲しいですわね。」
と魔王さんをグリグリする奥方様。
「ここは本当に天国だな。 食い物は美味いし、暮らし易いし、気使わなくて良いし、極楽極楽。」
と魔王さんがマッタリしている。
いやいや、人の家なんだから、気ぐらい使えよ!
「まあ、しかし、そうも言ってられない事情もありますし、帰りの準備はもう大丈夫ですかね? ゲートでお送りしますね。」
と俺が頑張って言ってみた。
いや、なかなか帰れって言い辛いからね。
京都風に「ぶぶ漬けでもどうどす?」と言えば、「おお、大盛りで頂こうか。」と返されるのがオチなので、ズバリと言ってみたのだが……
いや、言ったつもりだったのだが――
「ん? なんなら、二年ぐらいここでお世話になるのも吝かでは無いけど?」
と我が家かの様に寛ぐ魔王さん達。
ダメだ! これでもヤンワリになっちゃったのか。
こいつらはもっとハッキリ言わないとダメなのか。
「冗談じゃない。 ダメですよ? ちゃんと帰って貰わないと迷惑だし。 こっちだって色々予定あるんだから。 ほらほら、送って行きますよ!」
と半ば強引にお引き取り頂いたのだった。
「ふぅ~、接待終了だな。 最後の攻防が一番疲れたなぁ。 みんなお疲れ様~。 さあ、マジでこれから暫く本格的にマッタリするぞ!」
と宣言して、部屋へ戻ったのだった。
◇◇◇◇
『暫くマッタリ宣言』をした俺ではあっだったが、そもそも2日もジッとしていると、持って生まれた貧乏症が故に、落ち着かないのである。
趣味で何かをやって籠もるのは良いのだが、読書をするでも無く、何もヤル事が無いのはやはり辛い。
何か、何かを見つけないと間が保たない。 読書ったって、この世界の本は殆ど持ってないしな。
という事で、2日目の後半には次にやる事を考え始めたのだった。
ふむ、編み機を作るのも良いが、本か。 この拠点に無い物は図書館だな。 本を収集するのも一興だし、それこそ住民達の為にもなるな。
早速、各別荘に打診して、本を買い集めて貰う事にした。
と言っても、ダブって買うのは勿体ないので、常に買った本のリストをみんなで共有し、ダブりを少なくする方向にした。
俺は予備スペースの1つに大きめの建物を出し、それを図書館に改造する様にドワーフの親方にお願いした。
「ほう、本棚を沢山作れってか。 何だ今度は図書館でも作る気か?」
「そう、その通り! これから色々な本を集めて誰でも読める様に図書館を作るんだよ。
知識は人の暮らしを豊かにするからね。」
「ふむ、そう言うもんかねぇ。 俺は本なんざここ100年ぐらい読んでねぇな。
俺らドワーフに言わせれば、本より酒が人生を豊かにしてくれるんだがな。 ガハハハハ!」
と宣っていた。
「でもさ、そうは言うけど、その美味しいお酒を造るんだって知識じゃん。 本を読めば更に美味しいお酒を造る事だって出来るかもだよ?」
「そ、そうか? そうなのか? じゃあ、美味しい酒が出来たら宜しくな!」
ふむ、あくまで本は読む気がないらしい。
しかし、この世界の本だけでなく、出来れば元の世界の本も欲しいよなぁ。 まあ童話ぐらいなら覚えているストーリーで何冊かは書けるけどな。
出来ればちゃんとした名作と呼ばれる本とかもこちらの言葉に翻訳して置きたいよなぁ。
子供向けの絵本とかも生産する事を真剣に検討するかな。
あ、あとは色々な技術書だな。 あちらの世界の技術をこっちでも取り入れたいけど、流石に俺の頭の中の記憶では大した引き出しが無いからなぁ。
兎に角、色々な本を集めてみたいね。 あ、そうだ、過去の勇者の本とかも是非見てみたいね。 一番良いのは勇者の伝記よりも本人が執筆した物とか出て来ないかなぁ。
一応それもオーダーに追加しておこうっと。
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