第233話 健二、余計な事を口走る

強張って書簡を受け取る俺にダイジローさんは微笑みながら声を掛けて来た。


「何かもの凄く緊張なさっておられる様ですが、ご心配には及ばないかと。

失礼とは存じておりますが、一応事前に色々とケンジ様の事を王宮の方の諜報部が調査されたようですので。」


どぇーーーー! それ逆にヤバいんじゃね? 大丈夫なのか? 俺、何か色々バレてないだろうか?


「は、ハハハハハ、ベ、ベツニナニモキンチョウナンカシテマセンカラネ」


「なるほど、それなら安心ですが、時々居られるのですよ、王宮等の堅苦しい所へ呼ばれる事を酷く嫌がる冒険者の方が。」


「……ち、ちなみになのですが、これってお断りとか、パスって有りなんでしょうか? 大体定番だと、パスは3回までがローカルルールだったりするんですが?」

とダメ元で聞いてみたのだが、


「え? 何ですかそのパスとやらは? 申し訳ありません、クーデリア特有の表現なんでしょうか?」

と返されて、「イエ、ナンデモアリマセン」と足掻くのを諦めたのであった。



滝の様な汗を掻いた俺は、朝から温泉に入り湯船の中であれこれ頭の中で迷走していたのだった。




しかし、冷静に考えれば、特に何も証拠を残した訳でも、目撃者が居た訳でも無い。

俺が奴を潰した事は関連付け出来る訳が無いのだ。

それに、わ、悪い事なんてしてないもんね? 大丈夫だよね? 


最悪、逃げよう。


まあ出来れば、このイメルダ王国とは仲良くしたいのである。

この国の食べ物や人にはかなり思い入れがあるからなぁ~。

案ずるより産むが易しって言うし、成り行き任せでもう少し気楽に行こう!




すっかり湯船の中で、ビビりを流し終えてリビングへと戻って来たのであった。


「ところでその書簡の方には何と書かれておったのでしょうか?」

とコルトガさんが聞いて来た。


「あ、そうだな、明日の朝10時に宮殿に来いと……あと同伴者は2名可能とあるな。

ああ、そう言えば、こう言う時ってどんな服装を着て行くのが正解なの? この服とかでも良いのかな?」


「主君、それはあんまりかと。 某は主君の騎士故、この格好が正装なので良いでしょうが、流石に主君はもうちっと上等な格好じゃなくては、ハッタリが効きませぬぞ。」


「わぁ~、ハッタリかぁ、一番俺の不得手なジャンルじゃん。 えー、でもドワースのマックスさんに逢う時は、これでもOKだったんだけどなぁ。

よし、じゃあ、魔王国で買うか。 魔王国に買い物に行くけど、着いて来る人居る?」


という事で、久々の魔王国へやって来ました。

魔王国の(俺に取っては)洗練された正装?っぽいのをアケミさんと店員さんに選んでコーディネートして貰っていたのだが、途中から魔王さんと奥方さんがやって来て、混ぜっ返されてしまい、一向に捗らなかった。


「ちょっとぉ! 明日着ないといけない服選びなんだから、邪魔しないでくれませんかね?

マジで困るんですから!」


「あ、そうなのか? いや、ケンちゃん最近全然構ってくれないから、暇でなぁ。 で、明日は何処にお呼ばれなんだ?」

と魔王さん。


そこで、イメルダ王国の王都での経緯を軽く説明した。


というか、大体服屋で服を選びながらする様な話じゃないんだけどねぇ。



「なるほど、だからここ最近遊びに来てくれなかったんだな? 寂しいのぉ~。 よしよし、ワシも友達思いの男だ。 その誘い、乗った!!」


「おぉ! それは面白い!」

と何故か悪い顔で笑っているコルトガさん。


「いやいや、魔王さん呼ばれてないから! 第一、うちのエーリュシオンの存在知って居るのは、外部の人だと魔王さん所とあと1人だけだからね?

ウッカリ口を滑らされると、またまた面倒な事になるから!」

という事で、何が面倒な事になるのかを説明してやっと落ち着かせた。

だってさ、今バレちゃうと下手に勘ぐられて、こちらにその気が無くても侵略と取られたら、厄介だしね。

しかも、ウッカリこの国最高の戦力潰しちゃった訳だし―― やっぱどう考えてもヤバいよなぁ。

更にヤバいのは、それが回り回ってクーデリア王国まで伝わると、王都のモデルタウンの件もあるから、余計にヤバいよね?



「チェッ、つまらねぇーー!」

最後に魔王さんが毒突いていると、何故かコルトガさんもウンウンと頷いていた。



「そんなに何処かに行きたいなら、うちに遊びに来ます? 尤もこちらの予定が落ち着いた頃じゃないと無理ですけどね。

言う程見る所が無いですが、それで良いなら……」

とあんまりにもガックリしている魔王さんを見て、ついつい口を滑らせてしまったのだった。


すると、急激に目を輝かせ、

「おぅ! 行く行く! 何時にする? こっちは今日でも明日でも良いぞ!」

と食い付いて来た。


あちゃー、何か俺、少しヤラかしてしまった気がするが、まあ大丈夫なのか?

ステファン君に何も予定とか聞いてないし、今ならまだ「やっぱ今の無し!」って言えるか?

と取り消す方向で口を開き掛けたところで、横から奥方さんが参戦して来た。


「あら、それは面白そうですわね? フフフ、貴方とお出かけなんて久しぶりですわね? 200年振りぐらいかしら?」


「そ、そうか? うむ。 じゃあお前も一緒に来るか! ついでに四天王も一緒に呼んでやるとするか。」

と奥方さんの参戦が嫌なのか、2人きりになりたくないのか、急に汗を掻きながら四天王の名前を出して来た魔王さん。


「あらあら、折角二人きりのお忍び旅行なのに? 貴方は私と二人っきりはお嫌なのかしら?」


奥方さんがそれまでの笑顔を急激に冷やしつつ魔王さんに詰め寄っていた。


「い、嫌、いや、そんな事は無いぞ!? ハハハ、タノシミダナー」



なんか、この国で一番強いのはやはり奥方さんの様な気がするな。 逆らっちゃヤバい雰囲気がビンビン伝わって来る。(魔王さんから)


「但し、最大で5日間ぐらいにして下さいよ? こっちも色々忙しいんですからね? こちらの予定が空き次第また連絡しますから。」


何とか方向性を落ち着かせ、日数の制限だけはハッキリ言ったぞ!

しかし、これ以上長居すると確実に深みに嵌まるな。サッサと服を選んで離脱しなければ!


という事で、あれやこれやと店員と選んでは持って来るアケミさんを宥め、適当に持って来てくれたコーディネートで3セット程購入し、逃げる様にイメルダの王都へと戻ったのだった。


何か明日が来る前にスッカリ疲れ果ててしまったよ……何でこんなに面倒な事に……。

大体、俺、服なんて何でも良いんだよ。ヒラヒラ付いて無くて、破れや穴さえ開いてなければな。



コルトガさんがコナンさんと何かゴニョゴニョと部屋の隅で話していたのが少し気になったが、取りあえず遅めの昼食を取ってからフードモールの方の視察に向かったのであった。

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