第232話 予期せぬ休日の訪問者
別荘に戻ると、奴の屋敷から助けた総勢160名が玄関前で待ち構えて居た。
彼らは、アケミさん達が何度言っても、お礼を言うまではと、頑なに玄関前で待って居たらしい。
涙を流して喜ぶ全員からお礼の言葉を受け取りつつ治療が行き届いてなかった人達を改めて治療して、宿舎へと案内して風呂等に入ってユックリ安心して寝る様に伝えたのだった。
「お疲れ様でした。 ご無事のご帰還、なによりです。」
とアケミさんが俺の後ろから肩を揉みつつ、労を労ってくれた。
「う、うん。 まあ無事というか、何か良く判らない内に終わってた。」
俺が戦いの粗筋を解説していると、然もあらんとばかりに
「それは、しょうがないかと。 確か今まで確認されている人族の最高レベルは98で、実際の戦闘力と言う意味では身体強化とか身体加速が使えたのか微妙ですから、単純な剣技のみだったかも知れません。
もし、その勇者の末裔が、色々と精進していたのだったらまた話は違ったかもしれないですけど、どうなんでしょうかね? 口ばかり達者だったかも知れませんよ? レベルだけでは計れない総合的な戦闘力もあるんじゃないですかね?
みんながみんな、ケンジさんの様に多芸ではないのですよ。」
と言っていた。
ふむ、確かにな。
俺達が話をしながら、夜食を摘まんで居ると、シャドーズが1人俺の所にやって来て、
「主君、お寛ぎのところ申し訳ありませんが、ご指示を仰ぎたい事がございまして。
あの地下牢の輩はどう致しましょうか? 現在奴らの屋敷の最後の残党を含めると、130人程居りまして。」
と聞いて来た。
「あ! そうだったね。 スッカリ終わった気で居た。
えー、どうしようか? 態々手を下すのも気分悪いしねぇ。ウーーン……」
と唸る俺。
そう、 じゃあ始末しといて! なんて事を言えないし、頼みたくも無い。 出来れば勝手に人様の迷惑にならない所で消えて欲しいところである。
下手に助けてサティーの二の舞にならないとも限らないしな。
改めて考えると、何事も無かったかの様にしているが、今夜俺は既に人を1人殺めているのだ。 しかも事故に近い様な形で。
そして、それに対しての良心の呵責が全くもって無い事に驚いてしまう。 まあ本当か嘘かは判らないが、異常なまでの戦闘力? 人を殺めたと言うのに平然としてられる精神状態。
俺は本当に化け物になってしまったんじゃなかろうか? それともスキルの恩恵なのか?
――――
「そうだな……魔宮の森、いや魔絶の崖の上の中腹辺りに身包み剥いで捨ててこようか。
運が良ければ何処かでヒッソリ生きる可能性も0では無い。 そこら辺は女神様にお任せしよう。
お疲れの所悪いんだけど、今夜の内に全部スッキリ終わらせよう。」
最終的な判断は女神様に丸投げする事にして、シャドーズ達と地下牢まで行って、身包みを剥いで、10名ずつ転々と別の場所へと放り出していき、30分ぐらいで全てを終わらせたのであった。
帰り着くと、温泉に入り、身も心も清めるのであった。
翌朝、宿舎の食堂で朝食を出してやりながら、今後の事を提案してみた。
「おはようございます。 皆さん昨夜は良く眠れましたでしょうか? あんな事の後なので、1週間ぐらい温泉にでも浸かりながら、心と体を休めつつ今後の事をユックリ考えて見て下さい。
私の方からは幾つかご提案出来る事があります。――――」
奴の所に攫われたという事が知れているのであれば、今後この王都での暮らしは厳しい可能性もあるので、俺の拠点で働いて暮らすか、他の都市の別荘で働くか、モデルタウンで働くか、それともここで働くかと言う提案をしてみた。
勿論、ここを出て、そのままこの王都で独自に働くのも良いが、その際には決して俺達の事を漏らさないで欲しいとお願いした。
既に全員が帰る場所すら残って無いらしいので、最後の独自路線を希望する者は居ない様子であった。
「まあ、最初に言った様に、まずはユックリ休みながら考えて下さい。」
と締め括ってから宿舎を後にしたのだった。
さて、9時を過ぎる頃になると、街が徐々に騒がしくなって来た。
勿論、その話題の中心は勇者の子孫であり、王族の末端を担う国内最強だった『リキヤ』の事であった。
そりゃそうだよね、遠くに巨大な女神像がチラチラと見えて居るからね。
王城の宮殿の方では街の比では無い程に大騒ぎになっているらしい(サスケさん情報)。
一晩で屋敷の敷地が更地になって、更にどうやって作られたのかさえ判らない、巨大な女神像が出現したのである。
しかもこの国で最強と言われた女神様に選ばれた勇者の末裔が死体で発見され、横に王宮というか国に対する苦言が記載れた石碑まであったのだから、騒ぎにならない方がどうかしている。
この石碑の一語一句を何度も読み直した国王は、自分の不甲斐なさを反省し、国民に対し異例の声明というより、謝罪を大々的に発表したのだった。
これはこの世界の王室として異例中の異例で、通常国民に対して頭を下げる事は無い(例え心の中で詫びていてもだ)。
そう言う訳で、国民はその真摯な姿勢に沸きに沸いて、王室への信頼度や求心力が増す結果となったのは、イメルダ国王とは正反対の姿勢で威厳と威圧による絶対的な統治に固執する他の国王にとって皮肉な結果と言えるだろう。
フードモールの方は順調で日々忙しく、完全にここ王都で定着した。
既存の食堂や高級レストランと被らないメニュー設定をし、高額な値段設定にした事で、極端にそこら辺の食堂が割を食う感じにはならなかったのも功を奏したらしい。
徐々に警備をシャドーズ主体からライオネルさん率いる通常の警備部隊に移行して行き、3日間で完全にシャドーズの手を離れた。
さて、救出した160名だが、15名程はやはり王都に残り、ここ(健二の所)で働きたいとの事だったので、フードモール以外の商い等を任せたり、別荘の維持管理やその他諸々をやって貰う事にした。
残りの145名の内、余所の都市の別荘を希望した者が15名、これをマーラック等の別荘に押しつ……配属し、それぞれの別荘の責任者に丸投……一任する事にした。
残った130名は拠点側で働いて貰う事となったのだった。 これはステファン君に丸っとお願いして、送り出した。
一時期は160名の大所帯だったのが急激に人気がなくなり、若干スースーとする感じ? 取り残された感じと言うんだろうか? 祭りの後の様な感覚である。
「ふぅ~、これにて一件落着! ですな。」
とコルトガさんがソファーにドカッと腰を降ろして緑茶を啜っている。
「だな。 やっとユックリ落ち着けるか。」
俺も久々にユックリとコーヒーの香りを楽しむ余裕が出来た訳だ。
コナンさんは、一仕事が終わり、街へと食い倒れツアーに出ている(またの名を食い荒らしツアーとも言うか)
「この後のご予定はどうする感じですか?」
アケミさんがカフェオレを飲みながら聞いて来た。
「それなんだけど、何か行って見たい所とか、見てみたい所とか、食べてみたい物とか無い?」
と俺が2人に聞いてみた。
すると、2人共特には思い付かない様で、頭を捻っていた。
「まあ、今直ぐ動く必要は無いから、1週間ぐらいノンビリしている間に考えてみるか。」
――――と悠長な事を言っている時期もありました。
それから2日程経過した頃、何か王宮の方から、使者が別荘へとやって来て、召喚状を手渡されたのだった。
「こちら、スギタ商会のケンジ様の邸宅で宜しいでしょうか? 私、王宮で執事長をしております、ダイジローと申します。
王宮よりの書簡をお持ち致しました。
お忙しいとは存じますが、何卒明日にでもお越し頂ける様にとの事です。」
と。
え? 何だろう? どれの件だろうか? 身に覚えが有り過ぎて判らない。
一気にブハッと冷や汗を吹き出しながら、書簡……召喚状を受け取ったのであった。
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