第231話 決戦の時来る

ん? 衛兵に通報? しないよ? どうせ行き違いで済まされるからね。


サスケさん経由で奴らの屋敷に潜入している配下から情報が入って来た。

奴(勇者の末裔)が相当に荒れているらしい。


荒れて物に当たり、一部屋壊されたってさ。


それで、残ったシンセン組に言って、チンピラを集めさせているらしい。 ほら、残りが30名ぐらいになったし、数で押し切る作戦みたいだね。

あと、シンセン組とは別の部隊、隠密5名に命令し、俺の素性や住処を探らせる事にしたらしい。


「ねぇ、サスケさん、奴の隠密5名って、結構凄腕なの?」

と聞いてみると、フッって鼻で笑いながら、

「ご心配には及ばぬでござるよ? こそ泥に毛が生えた程度でござる故。」と。



どうやら、コナンさんの読み通り、今夜か明日の夜、夜襲を掛けて来る気らしい。

あと、サスケさん達の調べでは、奴の屋敷には、捕らえられて居る人達や、慰み者になっている女性達が居る事が判明している。

なので、シャドーズを使って、その人達の所在と救出を指示して居る。


コナンさんの描く絵図で最良の方向は、公の場での奴と俺の決闘による一騎打ちらしいが、事が大きくなりすぎるからねぇ。

なので、俺がBプランを伝えてそのシナリオで調節して貰っているのだ。

仮に一騎打ちするのでも、人目の無い場所じゃないと、やらないからね? というか、一騎打ちとか怖いし。

嘘でも勇者の末裔で、この国最強なんだろ? ザコとは違うのだよ、ザコとは!!




そして、先日の襲撃の翌々日の夜(正確には夜の8時頃)ついに奴らが総勢100名以上でやって来たのだった。シンセン組は33名(初回で捕縛して釈放された3名を含む)と、スラムや街のチンピラ達を集めた混成部隊である。


フードモールの夜は午後7時にラストオーダーで午後8時には閉店である。

最後の客が敷地から出た所を見計らって、ドヤドヤと100名が雪崩混んで来た。


直ぐに俺は門を閉じ、壁や建物全体にシールドと消音の障壁を張ったのだった。

さあ、これで思いっきりドンパチしても他には迷惑が掛からない。



「あのぉ、既に本日の営業は終了してしまいましたが?」


「おらおら、店を壊されたくなかったら、ここの頭とウーコッコーの卵、あと料理人を寄越せや!!」


「ここのオーナーは私ですが、何の用ですか? ウーコッコーの卵はお売り出来ませんよ?」


「誰が売れっつったよ? 貰ってやるって言ってんだ。 サッサと持って来い! これだけの人数居るんだ、ただで済む訳がねぇのは判んだろ? ああ、あと売り上げも全部没収だからな? ゲヘヘヘヘ

お、そうだ、従業員の女も全部貰って行くか。 うん、ついでに味見してサービスして貰うとすっか。」

と欲望剥き出しのリーダー格が言うと、全員が下品な笑い声を上げながら、目をギラギラさせている。


「まったく、なんだろうねぇ~。 今のが最終的な要望ですかね? 断固お断りします。」

と呆れつつも拒絶したのであった。


「さあ、多分まだ夜の8時だし、衛兵に通報が行ってる可能性もあるから、速攻で終わらせようか。」

と警備のシャドーズやサスケさん、そして嬉し気なコルトガさんに伝え、一気に勝負を仕掛けた。


「ギャァーー」「ま、待て!」「ワァーーー!」「助けてーー!」と言う騒音が聞こえるが、大丈夫外には漏れていない。

俺も対面する奴らの腕を切り落としつつ即座に斬り口にライト・ヒールを掛けて出血を止めて廻った。


そして、100名に対する事、俺達8名で完勝したのであった。全員を一旦地下牢へと放り込み、地面に落ちた武器を持ったままの腕を全部回収し、全体にクリーンを掛けた。

クリーンのお陰で、飛び散った血の跡も全て綺麗に無くなり、噎せ返る様な生臭い匂いも消えたのであった。


俺はシールドと消音をキャンセルした後、


「お疲れ様~。 さあ今夜で全部終わらせよう。」

と微笑むのであった。




フードモールでの後始末が終わってから3分ぐらいすると、ドヤドヤと衛兵さん達が20名程やって来た。


「おい、大丈夫か? 襲撃を受けたとの通報を受けたのだが?」

と衛兵の隊長(先日の人)が声を掛けて来た。


「ああ、隊長さんじゃないですか。 おつとめご苦労様です。

ええ、お陰様で平穏無事に過ごしておりますよ。 態々心配してくれたのですね? ありがとうございます。

ここは大丈夫なのでご安心下さい。」

とニッコリ笑って返すと、凄く驚いた顔をしていた。 何でだ?


そして敷地内をザッと見て廻り、何も異変が無い事を確かめた後、全員が去って行ったのだった。


さてと、俺達も一旦別荘に戻って、次の作戦に移るとしよう。




「しかし、本当に禄でもねぇなぁ。」


サスケさんから要救出人数を聞き、愕然とする俺。

奴の屋敷の地下牢には男性、女性、子供を含め、58人。

更に奴らの慰み者にされていた女性が68人である。


鬼畜の所業だな。


ちなみに、地下牢の者達は、諫めようとした先代からの執事長や元奉公人とか、逆らったり、何か気に入らなかった事で捕らえられた者達である。

子供らは巻き添えか、又はそう言う趣向の奴らが混じってたのかは不明だ。


屋敷の従業員は、先代から奉公していた者や、新しく無理矢理やらされている者等様々であるが、これも34名全員が被害者らしい。


奴は今自室で、愛人と共に酒を飲んで朗報を待っているところだそうで。

屋敷の警備の兵は20人も居ないらしい。




別荘で、一休みした後、本番の装備に切り替え、出撃する全員が集合した。

「さあ、ゴミ掃除とその仕上げに行くぞ!」

「「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」」


黒装束にブラック・オーガの鎧を身に着け、先行している救出部隊と奴の屋敷で合流した。


密かに助けられた人達を取りあえず、ゲートで別荘に送り込んで……残るのは全て討伐対象だけとなった。


「イッツ・ショー・タイム!」


俺の掛け声に首を捻りながらも全員が持ち場へと散開して行く。


そして俺は屋敷を包み込む様に消音の障壁を張って玄関ホールで声を上げた。


「おーーい、リキヤ! 出て来いよ! 弱虫子虫! お前の母ちゃんデベソ!」

いや、急にコナンさんから煽れ! 悪口を言えって指示されたんで、咄嗟に思い付いたのがこれだった訳だが――


「なにおーー! 誰だ!? お前?」

怒りに目を三角にして、刀を抜き身で構えて出て来る勇者の末裔。

何だこいつ、あんな悪口で激怒するのか。 子供かよ!!


「お前、勇者の末裔って事を笠に、相当無茶苦茶やってくれてるみたいだな。

その鬼畜な所業、許す事は出来ない。女神様の名に掛けて、叩き切る!

俺の名前は引導代わりだ。スギタ・ケンジ押して参る。」


一応、キメ台詞を言ってはみたものの、内心ではビクビクである。


俺、大丈夫かな? 一騎打ちとか…… みんなの手前、精一杯の虚勢を張っているのだが、緊張の余りに手が微かに震えてしまう。


俺も愛刀を抜き、身体強化、身体加速、思考加速のスキルを全開にして、更に付与を追加した刀を正眼に構えると、奴が「おらぁ~!」と声を発しながら全力で突っ込んで来た……らしい。


ごめん、余りの事に咄嗟の手加減が出来なかった――


「え? あれ?」


刀を片手に持ったまま、唖然とする俺。


「お見事ですぞ! 主君!!」


いや、コルトガさんよ、お見事もなにも、奴が袈裟斬りに仕掛けて来たのを俺は刀で受けようとしただけなんだがな?

何で床に奴の首と綺麗に斬られた刀の刃が転がってる?

しかも、5mしか離れてなかったのに、滅茶滅茶スローモーションだったよ? 鼻ホジする余裕すらあったんだがな?


というか、刀で弾くぐらいの気持ちだったのが、勝手に刀に自分から吸い込まれていった感じだったな。

気が付けば、奴の身体はその場で見事に赤い噴水を吹き上げ終わってその状態で静止していた。


「ガハハ、何を不思議そうにしておられるのじゃ? この国最強と言えど、所詮はその程度なのですぞ。

このコルトガが崇拝する人類最強で人外の主君故、これが当たり前の結果なのですぞ!」

と腕を組んで当然とばかりの様子である。


どうやら、俺は人の反射スピードの壁を大きく越えてしまっていたらしい。

余りの呆気なさにこっちが驚きだよ。 今まで内心ビクビクしてた俺の不安な時間を返せ! と言いたい。




5分程呆然としていたが、やっと復活し最後の仕上げに入った。

広大な敷地内をせっせと一掃し、空き地化した後、女神様の像(特大)を設置し、所業と制裁内容を列挙し、これを諫めなかった王国への苦言を書き記した石碑を設置した。

そして女神像の前には、奴の亡骸を女神様に向かって行った様に立たせ首もその横に置いて手を合わせた。


「来世はもっとまともな人間になれよな。」


しかし、これだと誰も怖くて埋葬出来ないだろうな。

『死して屍拾う者無し』か……


本当にこれで良かったのだろうか?


そして消音の解除した後、無駄に掻いてしまった脇汗に重点おいてクリーンを掛け、微妙な気持ちのまま、ゲートで別荘へと戻ったのであった。

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