第205話 クーデリア王国冒険者ギルド王都東支部

ライゼムの別荘のスタッフ達が業務に慣れるまでの間、俺達は街を散策したり、スラムの子供達を見つけて、スラムから別荘の宿舎へと移したりして過ごした。

たこ焼きと鯛焼きの焼き方を教えたりして、子供らが屋台で真っ当に暮らして行ける手段を用意したり、神殿に参拝したり、その足で孤児院にも顔を出して支援物資や寄付をしたりして過ごした。


5日もすると、砂糖を卸す商会のルートも確保し、海産物の仕入れも安定して来た。

スタッフ達が業務に慣れた事で、合間に子供らの屋台の練習を一緒にやったりする様になった。

ここ、ライゼムでも蛸が捕れるので、材料の確保は難しくないのである。

強いて言うなら小麦や野菜の仕入れの方が問題なんだが、それは拠点の生産物を使えば良いので問題は無い。

他の別荘でも余剰生産分の小麦や野菜の買い付けをしているので、足り無くなる事は無い。



そしてここに来て8日が経過した。

俺達は、子供らのたこ焼きと鯛焼きの屋台が上手くスタートを切れたのを確認してからライゼムの別荘を出発したのだった。


マダラとB0が曳く馬車の中にはサスケさんが加わっている。

初めてこのキャンピングカー仕立ての馬車に乗ったサスケさんは、中の広さや設備、振動の無さ、そして何よりもマダラ達のスピードに驚愕していた。

「ヘヘヘ、驚いてくれてありがとう!」

と俺が悪戯が成功した子供の様に笑うと、


「主君もお人が悪い。フフフ。いやはや、拙者こんなに色々と驚かされたのは初めてでござるよ。 何ですか、このスピード!」

と笑いながらボヤいていた。


王都までの距離は500kmぐらいなのだが、王都に近付くにつれ街道を行き交う馬車や人も多くなる。

徐々にスピードは抑え気味になったが、2日で王都に辿り着く事が出来た。

尤も、王都の城門前に割と朝早くに辿り着いたのだが、城門を潜る列が出来ていて1時間近く待たされたのであった。


いつもこんなに待たされるのか、それとも何かあったのか? ちょっと不安になって門の衛兵のお兄さんに聞くと、

「すまないな、普段はここまでではないのだが、ここのところ冬前の駆け込みで人や荷馬車の出入りが多いのでな。」

と説明してくれた。なかなか衛兵なのに腰が低い人である。


そして入ったクーデリアの王都は、実に広かった。人も多く、屋台も沢山出て居る。


「流石は王都だな。凄い賑わいだ。しかし、結構メインストリートは狭くて直線じゃないんだね。しかもゴミが多いよ。」


他の王都というと真っ先に頭に浮かぶのは、あの魔王都である。

あの洗練された美しさがここには無い。非常に残念である。


一応念の為、衛兵のお兄さんに聞いて置いたお薦めの宿へ向かう事にした。


「え? 態々宿を取るでござるか? こんなに良い馬車があるというのに。」

とサスケさんが驚いていたが、


「だけど、ここまでゴミゴミしていると、王都内に馬車を停める所すら見つかるか怪しいよ?」

というと納得してくれた。


やはり人口が多い所為か、路地等を広くするだけの余裕が無いのかも知れない。

「一応宿にチェックインしたら、商業ギルドに行って敷地の購入を検討するとしよう。

でも、あまり期待は出来なさそうだよね。」


兎に角、長屋かよ!と突っ込みたくなる程に建物と建物が密集していて、何か日本の下町を思い出す感じなのである。


「ワァ……私はここでは余り暮らしたくないです。」

とアケミさんが顔を顰めながら街の様子を見て居た。


「うん、それは俺も同意するな。 魔王都なら住んでも良いと思えるけど、ここはちょっとキツいね。

尤も、魔王都に住むと、魔王さんが連日やって来てしまいそうで怖いけど。」

と俺が返すと、サスケさん以外全員が爆笑していた。


1人だけ知らないのは可哀想なので、魔族の事や魔王都での話をしてやると、理解して爆笑していた。

しかし、流石はサスケさんである。魔族の伝説?は聞いた事があったそうで。

忍者の里に伝わる古文書に載っていたと言っていた。


「へー! 忍者の里とかあるんだ? ああ、多分門外不出なんだろうから、詳しい話は言わなくて良いからね。」

と俺が付け加えると、少しホッとした表情をしていた。 やはり大っぴらに出来ない掟とかがあるのだろうな。


やっと東門からかなり中央付近まで移動した所に衛兵のお兄さんがお薦めする宿、『サジタリウスの宿』があった。

もしかして、この世界にも『サジタリウスの矢』とかのお伽噺とか神話とかあるのかな? とは思ったのだが、出迎えてくれた宿のスタッフに聞くと、初代のオーナーがサジタリウスさんだったという、捻りの無い回答であった。

この宿は高級宿で、丁度6部屋寝室の付いた部屋があるとの事で、その部屋ならピョン吉達も一緒で構わないと言われ、少々高かったが、お願いした。


「ホェーー! 主君! 拙者は野宿でも構わんでござるよ? 高過ぎませぬか?」


部屋に通され、宿のスタッフが去った後に、余りの値段に驚愕したサスケさんが慌てて訴えてきたが、


「いや、別に1人2人減っても値段変わらないと思うよ。だって従魔と一緒はこの部屋だって言ってたし。まあ良いじゃん、いつもの事じゃないんだし。折角だから楽しまないと。」

と俺が説得すると、折れてくれたのだった。



ライゼムでもそうだったが、何故か都市に入ると、コナンさんからキラキラとした、何かを期待する様な目で見つめられるのである。

そう、もう恒例となってしまった、お小遣いを期待しているのであろう。


ハハハ……まあ、良いのだけどね。おかしいよなぁ、コナンさんにはコルトガさんと同じ額のお給料払っているんだけどなぁ。

俺は、何時もの様に全員に大銀貨2枚ずつ渡してあげると大喜びして、お礼を言ってピューッと消えて行ったのだった。コルトガさんと2人で。


アケミさんはリックとサチちゃんを連れてこれまた何時もの様に買い物に行く予定らしい。

「じゃあ、コロ、悪いけど護衛で着いて行ってくれる?」


<任せてーー!>

と胸を張っていた。

<あ、護衛に着いて行くニャ!>

と黒助も梳かさずに便乗。


「では、拙者も護衛するでござるよ。」

とサスケさんが申し出てくれたので、お願いしておいた。



「ピョン吉、久々に2人で街をブラつきながら商業ギルドに行ってみようか。」


<ん!>


「ああ! そう言えば、ポケットに入れっぱなしで大人しいから忘れてたけど、モモの従魔登録忘れてたよ。まあ、今日は良いか?いや、思い出してそのままだと拙いよね。

じゃあ、先に冒険者ギルド行くか。 王都のギルドは初めてだし。」


<ん! 但し肉串は買ってー!>


「ハハハ、判ってるって。」


宿のスタッフに冒険者ギルトと商業ギルドの場所を聞き、まずは冒険者ギルドへとメインストリートを歩いて行く。

ここ王都では、他の都市とは違い、広さも大きい事から、西と東の両方にギルドが存在している。

今回俺が行くのは、王都東支部である。


ピョン吉の指定する屋台で肉串やらサンドイッチやらスープやらを買い食いしつつ、練り歩いて行く。

通行人や屋台の親父さんは、大抵ピョン吉を見て、滅茶苦茶驚くかビビるか、バカ笑いするかであった。

小さい子には「あー、うさちゃん!!」とキャッキャとはしゃいでいたが、横に居るお母さんは引き攣っていたし。



冒険者ギルド王都東支部へ到着すると、流石は王都だけあって、広くて立派な出で立ちであった。

一応、王都東支部がこの国の本部でもあるらしい。

王都西支部は、出張所から支部に格上げされた感じなんだとか。


扉を開けてピョン吉と入ると、ピークの時間が過ぎているのに結構な数の冒険者達がロビーに居た。


一斉に俺の方を一瞥するが、「なーんだ男か」という感じで視線を一旦外し、一瞬後にギョッとして俺の足下に居るピョン吉をガン見していたりする。

王都でも従魔は珍しいのだろうか?


「お、おう、あんたそれ、キラー・ホーンラビットかい? ヤケにデカいな、おい。」

と聞いて来る。


「ハハハ、まあそんなところかな。」

と笑いながら応えると、


「お前さん、テイマーなのか? 珍しいな。」

と。


どうやらやはりテイマーは珍しい存在らしい。


「ああ、俺は別にテイマーじゃないんだけどな。 一応、魔法剣士?なのかな。」


「へー! テイマーじゃなくてもテイム出来るもんなんだなぁ。」

と感心していた。

そうしていると、物珍しさもあってか、ワイワイと他の冒険者達が寄って来て、割とむさ苦しい感じになってしまった。


「見かけねぇ顔だが、余所から来たのかい?」


「ああ、本拠地はドワースだけど、今回はライゼムまで行った帰りだな。」


「ほえー、国を縦断したのかぁ!」


フフフ、本当は大陸一周なんだけどな。



「ねぇ、ちょっと撫でても大丈夫かな? モフモフして大丈夫かな?」

と数人の女性冒険者が聞いて来たので、許可すると、「「「わーい」」」とピョン吉をモフり始めたのだった。


俺はその間にスッと離れて受付嬢の方に行って、懐からモモとギルドカードを取り出して、

「すみません、従魔登録をお願いしたいんですが。」

というと、俺の顔を見てポーッとしていた受付嬢がハッとして俺のカードを受け取り、


「ヒィッ! Sランク!!」と声を上げた。


オイオイ……漏らすなよな! まあ大分免疫ついたから許すけど。


「え!? あんた、Sランクだったのか!!」

とザワザワし始めた。


そして、俺の掌の中で気持ち良さそうに寝て居るモモを見て、「げ、まだ従魔居たのかよ。スゲー」と騒いでいる。


受付嬢は失態をしてしまった事を何度も詫びてきてので、片手を上げて大丈夫と合図すると、ホッとした顔をしていた。

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