第203話 沿岸都市ライゼム

翌日から、既存の温泉施設に必要な大理石の湯船やお湯の出口等の量産に入った。

中でも一番厄介だったのは、大理石の湯船で、一つの塊から湯船を削り出す作業がえらく時間が掛かるのである。


「何か他の素材に切り替えようかな? 城は大理石でマッチするけど、街の温泉施設ってどんなだっけ?」


「確か岩風呂ですよね?」


「あれはあれで、良いもんだな。だな。」


「うむ。でも一枚物じゃないから設置して廻る事を考えると、色んな石を組み合わせるのが面倒だな。」


「マスター、何も一枚物をくり抜いて作らなくても、底板、側面の板5枚を組み合わせて、土魔法か錬金の溶着でくっつけちゃえば良いのでは?」

とリサさんが提案して来た。


ガーーーーン! それだ。 何で気付かなかったんだよ、俺!

俺が余りの事に愕然として床に崩れ落ちてしまうと、リサさんが慌てていた。



「ま、マスター、大丈夫ですから、傷はまだ浅いですから!!」


「そ、そうだよな! まだ2個くりぬきで作っただけだし。大丈夫だよな。」


それからの俺達は素早かった。一番面倒な作業である切り出しに無駄がなくなった所為である。

2日間で必要とする部材を全部揃え終わり、まずは街の温泉を1つ1つ廻り、突貫工事して行く。


大体、1つの温泉施設につき、1時間ぐらいで完了するので、街の温泉施設はその日の内にバージョンアップ完了したのだった。


予想通り住民達の反響はもの凄く、特に女性達の興奮っぷりは特にヤバかった。



翌日から今度は各別荘に温泉施設を設置して廻る。

こっちは新規に建てた後の改造なので、若干時間は掛かるのであるが、それでも何だかんだで3日で全部の別荘に温泉が完備されたのだった。

今まで温泉施設のなかった別荘勤務のスタッフ達は、大喜びしていた。


「フフフ、入ったら、もっと驚くんだけどね。」

と俺が言うと、コナンさんもリサさんもニヤリと悪い笑みを浮かべていた。


まあ、一応欲張って長湯しない様には注意して置いたけどね。(経験者だけに……)





そして、親方から源泉を囲い込む骨組みや外板のパーツが完成したとの報告を受け、翌日からドワーフ軍団を引き連れ、源泉まで工事に出掛けた。

建物の設置が終わった後、労いの為、ウーコッコーの卵で作る温泉卵を全員に配って食べさせたら、全員が大絶叫して大変だった。


これは早めに煮玉子作らねばなるまい。



さて、やっと旅の再開である。

火山を迂回し大森林を抜けた所から馬車で移動を開始する。


「何かこのメンバーで移動するのって、久々だね? かなり時間空いちゃったけど、いよいよ残り僅かだね。」

実際のところ、既に島6つからの海産物も確保したので、ぶっちゃけると、クーデリアの沿岸部は大した用事はないのである。

まあ、折角だから当初の予定を全て完遂したいという軽い気持ちなのである。


「ほほぅ~、これがクーデリアの沿岸都市ライゼムですかな。 なかなかに栄えておりまするな。」

とコルトガさんが感心している。


「そうだね。地方都市だけど、ちゃんと沿岸部の都市が大事にされているのが判るね。活気もあるし。」


「サイズ規模的にはマーラックよりも大きいみたいですね。」

とアケミさん。


「マーラックももう少し海寄りに建設したら、もっとデカくなったんじゃないのかな? 何か理由あったんだろうか?」


「言い伝えだと、昔昔に大津波があったという話を聞いてますが。 それで領都を移動したと。」


なるほどな。大地震でもあったのかな?

俺が知る限りでは、この世界に来て地震があった記憶は無い。

地震大国であった日本とは大違いである。

地震の無い国から来た外国人が日本で地震に遭遇すると、パニックになるという話を聞いた事があるが、この世界の人達はどうなんだろうな?

耐震構造とかになって無さそうな建物も多いから、被害が大きくなりそうだよなぁ。



ライゼムのメインストリートを馬車の御者席に座りながら、ユックリと進む。

メインストリートには多くの屋台が並んで居て、肉串も売っているが、やはり魚の串焼きや、貝のバター焼き?みたいなのが多い様である。


まあ、魚の場合、大抵が塩焼きなんだけどね。

たまに魚や貝を入れたスープ類も売っているぐらいである。


珍しいところでは、1件だけ鯖サンドって言うのかな?パンに鯖を焼いたのを挟んで居るのを見かけた。

確か、地球でも何処かの国の名物だった気がする。

恐る恐る食べてみたが、これが以外に美味しかったので驚いた。ただ残念なのはパンが固いって事かな。

あと魚より小麦を使うパンの方がコスト的に高いみたいで、値段も跳ね上がっていた。


魚のフライとか、つみれ汁的な物は全然無いみたい。

食文化の違いとは言え、何か勿体無いよなぁ。


そんな感じではあるが、要所要所でピョン吉達にせがまれ、屋台で買い食いをしている。

確かに魚の鮮度は最高に良いし、美味い事は美味しい。


「ああ、刺身が食いたい!!」

と俺がボヤくと、御者席の隣に座っているアケミさんが苦笑していた。



そしてやっと商業ギルドに辿り着いたのだった。

特に必要が無いが、一応ここにも別荘を構える予定なのである。



商業ギルドに辿り着き、商業ギルドのカードを提示して、敷地の購入を相談すると、俺のカードに驚いた受付嬢が、それはそれは丁寧な対応をしてくれたのだった。

いや、そこまで露骨にされると逆に怖いって……。

媚びを売るよりという、何か粗相があったら、拙いという意味での丁寧さだったので、まあ気持ちは判るから良いんだけどね。


敷地だが、俺の望む条件に合致するのが1箇所しかなかったので、選択の余地無く其処に決定し、そのまま購入手続きを取った。

現地を見てないのに購入しちゃったので、かなり驚かれたのだが、

「だってそこしか条件の合う場所が無いのでしょ? 何か周囲に問題ありそうなんですか?」

と聞くと、慌てて

「いえ、問題は無い場所の筈です。私も良く知る場所なので! 治安も良い場所なのは間違い無いです。」

と言っていた。


という事で、スムーズに敷地の購入も終わった。


そこで、治安繋がりで気になったので聞いてみた。


「ねえ、お姉さん、この街は活気あるけど、孤児とかはちゃんと孤児院でちゃんと収容し切れているの?」


すると、やはり収容人数を超えた子達は溢れてスラムに住み着いたりしているとの事だった。

ここの領主様もかなり積極的に支援したりしているけど、やはりどうしても溢れる孤児が出てしまうらしい。


事前に聞いていた情報では、ここの領主、ライゼム伯爵は実に住民想いの良い領主様でドワース辺境伯のご友人らしい。

まあ、それを聞くだけでも、安心出来るって物だ。


なので、特に特産物が無くてもこの街に別荘を置く気でいたのである。

もう随分前の話だが、マックスさんに

「もしこの国の沿岸部に行く事があるなら、ライゼムだったら安心だぞ。あそこの領主は俺の友達でな。何か困った事があったら、前にあげたあのメダルを見せれば、何とかしてくれるだろうから。」

と言っていたのだ。(メダルとはドワース辺境伯家が庇護する又は信頼する者を現すメダルらしい)


まあ、折角頂いては居るのだが、特に使う様な事にはならないつもりなので……多分大丈夫?


最後に受付のお姉さんからお薦めの奴隷商を聞いて商業ギルドで出たのだった。

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