第100話 テントでの告白2
その後、考えすぎて、頭の中がグチャグチャになってしまったので、困った時の必殺技で、『先送り』とし、有耶無耶のまま、何事も無かったかの様にテントを案内して廻った。
先程は俺の為に大泣きしてくれたアケミさんだが、今は寝室やトイレや風呂を見る度に、目を丸くして「凄ーーーい!」を連発し、
「ケンジさん! これもう家要らないですよね? これさえ在れば、宿要らずですよね?」
と興奮している。
風呂場を見た時のテンションは、特に凄かったね。
そんな大興奮のアケミさんと脳内修羅場の俺を余所に、ピョン吉達は我関せずで、ヤレヤレといった感じ。
サリスは大人しくリビングのテーブルの上で、フルーツを頂いている。
くそーー! 仮にも主の苦境を華麗にスルーしやがって………。
うむ、完全な八つ当たりである。
ただ、アケミさんに対しては、嫌という気持ちは湧かないんだよね。不思議と。
これは、アケミさんの行動の端々に、裏に潜む悪意や打算なんかを感じ無いからだろうか?
それとも転生者同士の波長? それとも女神エスターシャ様繋がり?
「じゃあ、取りあえず、アケミさん先にお風呂使ってください。
旅の疲れとかが取れますよ」
と薦めると、大喜びしてお風呂場へと消えて行った。
「ふぅ~。ヤレヤレ。」
もう少し冷静に考えないと、アケミさんにも失礼にあたるよな。
コーヒーを煎れて、ソファーにユッタリと腰を掛け、頭の中の整理を行う事にしたのだった。
まあ結局そんなに早く心の整理なんて出来る訳もなく、早々に諦めるのであった。
40分ぐらい経過した頃、ウットリとした表情のアケミさんが風呂から上がり、リビングへとやって来た。
「お先にお風呂ありがとうございました。
本当に素晴らしいお風呂でした。
未だにここがテントの中だなんて信じられないぐらいですよ。」
と微笑んでいる。
俺は、風呂上がりの火照りをクールダウンする為に、水差しに泉の水と氷を入れて、コップをだしてやった。
「あら、ありがとうございます。」
コップを受け取りながら、アケミさんがお礼を言いつつ、泉の水を飲んで思わす叫ぶ。
「うぁ! 何このお水! 美味しいです!」
風呂上がりで上気した頬や、髪をアップにした為に否応無しに項が目に入ってしまい、思わず目を逸らしてしまう。
俺は、不用意にドキドキしてしまい、慌てて風呂に逃げ込むのであった。
久々にピョン吉達を綺麗に洗ってやって、自分の身体と頭も洗い終わると、湯船に浸かる。
<<<やっぱり、風呂は堪らん(にゃん)!>>>
湯船に浸かり、デロンとした表情をするピョン吉達。
拠点では毎日風呂三昧だったけど、旅先の宿じゃあ難しいからなぁ。
サリスも何気に風呂好きで、「♪#♫△%」と鼻歌交じりである。
風呂から上がり、ピョン吉達の毛を温風魔法(ドライヤー)で渇かして、リビングに戻ると、タオルで髪の毛の水分を取っているアケミさんと目が合った。
「お水、美味しかったです。あんなお水あるんですね! ビックリしました。」
「ああ、あのお水は、うちの拠点の近くの泉のお水なんだよ。美味しいよね。
それより、髪の毛乾かすなら良い魔法があるんだけど、やってみる?」
と聞いてみたら、是非にとお願いされた。
俺は、アケミさんの傍に寄って、温風魔法(ドライヤー)を掛け始めた。
「わぁ~、魔法って便利ですねぇ。何か温かい風が吹いてますよ? 気持ち良いです。」
とウットリしている。
「へー! ケンジさんの拠点ってどんな所なんですか?」
うーん、特に場所も離れているし、彼女自身には問題無さそうだから、まあ話ぐらいは良いか。
「うーん、どんな所か。一言で言うと、辺境の先の秘境かな。
周りは魔物だらけで、誰からも攻められる事は多分無い場所だね。
何処の貴族にも何処の国にも属さない、自由で安全な場所だね。」
すると、
「え? 周りが魔物だらけで安全な場所って、何か相反する様な気がするんですけど。」
と頭を捻っている。
「確かに、周りには、Aランク~Sランクの魔物がウジャウジャ居るんだけど、ちゃんと2重の城壁もあるから、内部は安全だよ?
それに俺の従魔達が守っているし。 なぁピョン吉。」
と俺が油断仕切っているピョン吉に声を掛けると、「キュー!」と返事していた。
「へーー! それは凄いですね。そこに70名の人が住んで居るんですか?」
と聞いて来た。
「その拠点には55名前後かな? 他にもドワースやトールデンにも拠点というか、別荘があるから、多分全体で10名ぐらいかな?
だとすると、65名前後になるのか。」
「へぇ~、じゃあ55名の方がその拠点で生活しているんですね? でも凄いですね。
たった55名でそんな秘境を開拓したんですか! しかも何処の国にも属さないって事は、ある意味国??」
「いや、国なんかにはしないよぉ。そんな事したら、面倒じゃ無い? 自由に旅出来なくなっちゃうし。
どうせ誰も攻めて来られない場所なんだから、このまま密かにして、みんなで楽しく生きて行ければ良いんじゃないかな?」
「まあ確かに国とかにしちゃうと、あれこれ大変そうですね。
他国との交渉や干渉とかありそうだし。」
と同意してくれた。
「しかし、それを聞いて色々と納得しました。」
「ん? どう言う事?」
「だって、ギルドで報告された魔物の数や種類って、ハッキリ言って普通のAランク冒険者単体では到底討伐出来ない様な物ばかりでしたよ?
拠点を作るにしたって、周囲のA~Sランクを倒す必要あるだろうから、それが出来る人なら、当然あの買取で出された魔物の種類と数も頷けるかな、とね。」
「ああ、そう言う意味か。なるほどね。
まあ最近は周囲の魔物達は、うちの拠点の近くには余り寄って来ないからね。
寄って来ても、ピョン吉達が運動不足解消で、穴だらけにしちゃうし。
実に平和だよ。」
「フフフ。 ピョン吉ちゃん達も凄いんですね。
ところで、ご予定ってどうされる感じですか?
明日もここで宿泊して明後日帰る感じですか?」
予定かぁ。俺は特に日数の縛りは無いんだけどね。冬までに戻れば大丈夫だし。
一応拠点や各別荘からの報告は毎日貰ってるけど、特に問題も無さそうだしなぁ。
まあ、お帰りは何時ですか? とか 寂しいです! と言うメモは混じっているけどね。
「うーん、俺は特に何も無いから、明日も市場とかで買い物して、あのおじさんから寸胴を受け取って、また海鮮丼も食べたいなぁ。
いかん、涎が……。」
「フフフ、本当に海の幸がお好きなんですね。あ!そうだ!!
ケンジさん、確か海苔とか鰹節とかも探してましたよね? この近所の村に鰹節を専門で作ってる所と、別の村ですが海苔専門でやっている所がありますよ?」
おお!これまた嬉しい情報である。
「マジで!?」
「ええ、大マジですよ。ウフフ」
「えーー!行きたいなぁ。近いの?」
「ええ、結構近いですよ。 あのマダラちゃん達なら、それこそ30分掛からないんじゃないかと。」
「よし、行こう! 案内お願いして良い?」
「ええ、勿論何処へでも……(何処までも。)」
という事で、急遽明日の午後の予定が決定したのであった。
やっぱり、定期的に購入するルートを作りたいなぁ~。
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いつもお読み頂き、ありがとうございます。
ちょっと若干忙しくしておりまして、次の話のアップ遅れそうです。
申し訳ありません。m(__)m
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