第87話 憂いを解消

村に入り、実家を訪ねると、お母さんが藁を敷いた寝床で寝ていた。

キヨコさんが涙を流しながらお母さんに駆け寄り抱きついて暫く泣いていた。


馬車が村に入って来た事で、村の人達がワラワラと集まって来て、その中にはこの村の村長も居た。


「こんにちは。私は、キヨコさんと契約した、冒険者のケンジと言います。

キヨコさんのお母さんの怪我が完治していないと聞きまして、生活に困るだろうと、引き取りにやってきたんですよ。」

と説明すると、

「何? もしかしてお前さん、奴隷商なのか?」

と聞いて来た。


「いや、冒険者だって最初に言ったでしょ? ほら、これがギルドカードです。」

とAランクのギルドカードを見せると、納得したらしい。


「えっと、多分、キヨコさんのお母さんやご兄弟を買いに来たと勘違いされてますか? そう言うんじゃないのでご安心下さい。

単純にキヨコさんと一緒に暮らして貰おうとしているだけですから。」

と説明するが、今一つ信用されてないっぽい。

まあ、そりゃそうだろうなぁ。自分で言ってても胡散臭いよなぁ。しかも俺、ここじゃあ外国人だしな。


「ところで、村長さん。ここからキヨコさんのご家族を転出させると、今年の分の税とかが困ったりしますかね?

と言っても、私はお金でしか補填出来ないのですが、どうしたら良いでしょうか? 村の方に迷惑が掛かると拙いので。」

と聞くと、やはり今年の分の税は掛かるそうで。

「では、その分は私が払いますので、金額を教えて貰えますか?」

というと、ウーーンと唸っている。

理由は出来高によって、税額が変わるそうでして。

「なるほど。困りましたね。じゃあ最大で幾らぐらいなんですか?」

と聞くと、最大で小金貨1枚でお釣りが来るぐらいだそうだ。

ふむふむ。

「判りました、じゃあもしもの事があるので、小金貨2枚を渡して置きますので、余った分は村で入り用な事に使って頂く感じで良いでしょうか?

一応念のために受け取りの証文は書いて頂きますけど、如何ですか?」

と聞くと、渋々ではあるが、OKが出た。

早速証文を2通書いてそれぞれにお互いがサインして、小金貨2枚を渡して、移転の税納付完了。


そうこうしていると、幼い弟を連れた真ん中の妹が家に戻って来た。

妹さんは、自分の家の前に見知らぬ男と馬車が有り、周りには村の男の人が集まっているので、驚きつつも意を決して話し掛けて来た。


「あのぉ、家に何のご用でしょうか?」と。


「ああ、もしかして、キヨコさんのご兄弟?

今、家の中に、キヨコさんが居るから、話しておいでよ。」

というと、驚いた表情で、家に駆け込んでいた。


まあ、俺はというと、非常に居心地の悪い状況な訳で、取りあえず、村長達に当たり障りの無い話しをしてみる事に。


「しかし、ここイメルダ王国は、本当に食べ物が美味しいですよねぇ。

炊きたての白米も最高だし、鍋物も美味しかったし、すき焼きも久々に食べられたし、毎食毎食楽しみで。」

と俺が言うと、

「ほう、あんたお米のご飯が好きなのか?」

と聞くので、

「勿論ですよ。お米の無い人生なんて、気が狂ってしまいますね。

確かに、寿司もうな重も美味しいですが、俺に取っての最高の料理は、何と言ってもおにぎりですかねぇ。

お袋のにぎったおにぎりが最高ですね。まあ、おかずも欲しいですが、沢庵だけでも十分だし。」

というと、急に村長の顔がニヤけだした。


「そ、そうか。珍しいな、あんた。外国人なのにな! ガハハハハ!」

と笑い出した。


「ああ、俺、クーデリア王国のドワースから、お寿司を食べたくて、こっちまで来たんですよ。

まあ、ひょんな事から、トールデンにも、拠点を買って、そこにキヨコさん一家に住んで貰って、俺の居ない間の管理を任せようと思っているんですよ。」

と説明したら、全員が驚いていた。


「あんた、バカだろ!? 寿司食いたいだけで、普通こんな遠くまで来るか? しかも寿司があるのは海側だから、トールデンに家を買っても意味ないだろ?」

と呆れた様に言う。


なので、簡単にショーキチさん達との出会いを説明した。


「という訳で、本来だったら、海沿いの都市か、村辺りに拠点を設けたかったんですが、なんせ妊婦居ますからね。

流石に臨月の妊婦を乗せて海沿いまで馬車で移動とか、鬼畜な事は出来ないでしょ?

それに産後の事もあるし、やっぱり生まれても2年ぐらいは、余り派手な移動は控えた方が良いですからねぇ。

まあ、トールデンも食べ物美味しいし、どうせ行き帰りには寄る場所だから、良いかな?ってね。」

というと、爆笑されたが、気に入られた様だ。


「つまり何か? その妊婦の奥さんが安心してお産して、子育てが出来る様に、キヨコを購入して、更にその家族まで引き取るってか?

いやぁ~、これは凄いな。バカだけど、あんた凄いよ。」

と言われたが、


「ウーーーン、何か褒められている気がしませんね。」

というと、また爆笑されたのだった。


そして、直ぐに戻る予定だったのだが、何故か送別会だ!と宴会に雪崩込み、完全に巻き込まれてしまったのだった。

しかし、ここで出された料理がまた美味しくてねぇ。

なんか、鉄製の大鍋に材料をぶっ込んでいて、味噌仕立ての鍋の様な汁物を作ってくれたんだけど、これが美味いのなんの。

ただ、肉が無かったので、俺がオークの肉ブロックを出して提供すると、更にその鍋に投入し、残りは、ガンガン鉄板で焼いて全員でワイワイ食べて、飲んでいた。

最初はピョン吉達に驚いて、ビビっていた村人達だったが、ピョン吉達が美味そうにバクバク食べるので、最後は(村人達が)えらく懐いていて食べ物を貢いでいた。


そして、翌朝、村人達に見送られ、馬車でトールデンへと出発したのだった。

帰りの馬車の中、キヨコさんのお母さんにパーフェクト・ヒールを掛けて完全に障害を無くし、自由に動ける様にした。

これで、憂い無く、俺も先へ進めるという物だ。



 ◇◇◇◇



トールデンの別荘で2泊し、全員が落ち着いたのを見計らい、出発を告げた。

ここでの運転資金や賃金のお金をショーキチさんに預け、一定金額以下になったら、連絡する様にお願いした。


そして、出発前に最後の憂いを取り除いてから出発する事にした。


ショーキチさんとキヨコさんを呼んで、話しをする。


「本当は1年ぐらい様子をみてからとも思ったんだけど、やっぱり新しい命が生まれ、それを抱く時に奴隷って身分は嫌だよね。

だから、君らを信じて、解放しようと思う。」

と俺が言うと、2人共に鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まっていた。


まあ、その決断をするに際して、実は詳細解析Ver.2.01大先生にお世話になってしまったのだがな。

2人共に

好意度:100%

忠誠度:100%

敵意:0%

という結果が出ていたからなんだけど、ちょっとズルをしている様で、心苦しかったが、この短期間で信頼する確証がやはり欲しかったのも事実。


そして、2人にリリースを掛けて、2人は奴隷から解放されたのだった。


2人は泣きながら喜び、何度もお礼を言われたのだが、でも本当にお礼を言うべきは俺じゃ無いと思うんだ。

俺が与えられた力や、結果得られたお金なんかは、元を辿れば、女神様なんだよね。

だけど、流石にそこまでは言えないし、心苦しくもある。


「きっと、真面目に頑張って生きてても、ちょっとした人生の歯車のズレで、悲惨な目に合う事もあるだろうけど、でもそんな人には、何処かで救いがあっても良いんじゃないかと思う。

俺自身も色んな人に救われて、今があるし、そうして君らと出会えただけ。

君らに取って、それが今回はたまたま俺だっただけで、それも女神様が巡り合わせてくれたんだと思うし、お礼なら女神様に言ってくれよ。」

と言って、トールデンから出発した。

さあ、これでトールデンでの憂いは完全に消えた……筈。


城門を抜け、街道を一路マーラックへ向けて疾走するのであった。

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