知らない写真

中学の合唱コンクール、高校の文化祭、大学のサークル、インターン、研究室、友達、恋人。それはスマホやパソコンを変えても私のアカウントで保存され続けてきた、折節の写真。

不意に現れたそれは、くすぐったいような、痒いような。この頃はなんでもできる気がしたし、色々なところに行った気がする。後から考えれば周りのお陰だし、自分で大したこともしてないけど。

人間関係は財産だと誰かが言う。

経験は財産だと誰かが言う。

なら私は、どちらもその場限りで、何も残ってないんじゃないか。写真に写る人たちと、交流はほとんどない。部活やサークルでやってたことも続いてない。前の会社とは全く違う職種に就いた。

今日の昼食の写真まで遡って、親指で画面を引っ張るように滑らせると、更新のマークが出て、撮った覚えのない写真が読み込まれた。

それは知らない会社で知らない人と働く私。知らない人と結婚する私。知らないところを旅する私。知らない家で寛ぐ私。

やっぱり今までとは、全く繋がってない。何故かわからないけど、それらは私のこれからなんだとわかった。直感的に。

もう一度、過去の写真を見ようと画面をなぞったけれど、出てきてくれなかった。代わりに今勉強している資格の本とか、今の会社で働く私とか、今よく行ってるお店とかが入っていた。撮った記憶はないけど、確かに私の今だ。

この資格は、今の仕事にも必要だけど、元々サークルのアイツが言ってたから知ったんだった。今の会社、前職の激務に疲れ果てた時に偶然行った転職セミナーで見かけたんだ。使いすぎた頭がぼーっとしてたから、ふらふら入っちゃったんだよな。この店、初めて行ったのは高校の頃で、会社の近くに移転してるのを見つけて、懐かしくて入ったんだ。

些細なことばかりだけど、どれも私が歩いてきた道があるから繋がった今。過去に帰る道は閉ざされている。けれど何も残ってないことなんてない。連続してなくても、変則的でも、確かに私の今は過去でできている。

あの時は頑張ったって止まってたらダメだって、誰かが言ってた。

過去と共には生きられないと誰かが言ってた。

頑張ってたあの頃を寄り集めて今があるなら、また今を寄り集めた未来がきっとこの知らない私。過去を集めた今と共に、生きるしかない。


気づくとおでこが机にくっついていた。手の中にはやっぱりスマホがあって、今までに撮った写真が並んでる。知らない人はいない。いつのまにか眠っていたようだ。

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