第27話

「キットくん、あ、カトウ先生は、中学受験してるんだよね。だから、受験の算数が教えられるのか」

「自分が中学受験をしていたときのことを思い出しながら、教えています」

「弟と中学が別になってからも、ずっと仲がいいよね」

「中学の受験は、親の希望だったんですけど。塾に通うようになってから友達がどんどん離れていって。でも、コウちゃんだけは、ボクに話しかけてくれて。ボクのこと励ましてくれたわけでもないけど、嬉しかったなあ」

 キットくんは、大学までエスカレート式の学校に入学した。今でも、弟と連絡を取り合っていると思うのだが、頻繁に会っているのは、僕のような気がする。

「中学受験して良かったと、思う?あ、思いますか?」

「そうですねえ・・・。大学まで受験なしに進学できたことを思えば、中学受験して良かったかなって思います。受験ってどこかで、必ず、通らなければならないことだと思うんです。ハ、ハセガワ先生はどうですか?大学は、海外でしたよね?」

 キットくんの質問に、動揺した。そんなこと、考えたことがなかったからだ。

「そ、そうだね・・・。日本のような受験ではなかったけど、大学が求めるレベルまでTOEFLのスコアを上げるのは、きつかったかなあ。大学へ入るより、入ってからのほうが大変だったかな?僕の場合」

 僕が、大学時代の思い出話を始めようとしたその時、キットくんのスマホが激しく揺れた。

「あ、すみません。・・・あ、ナノハちゃんからだ!」

「電話?僕のことは気にしないで、出ていいよ」

「電話じゃなくて、メッセージです。ちょ、ちょっとだけ、失礼します!」

 キットくんは、嬉しそうな表情で画面を眺めた。

「ナノハちゃんが、ボクに、相談会の手伝いをしてほしいって。ハリーさんも、手伝いませんか?」

「僕は、いいよ。2人の邪魔したら悪いからさ」

「そんなこと、ないですよ。他にも手伝ってくれる先生方、いるみたいですよ。キクチ先生とか、イシバシ先生とか・・・」

「そ、そう・・・。じゃあ、て、手伝おうかな」

「そうこなくっちゃ。ナノハちゃんに連絡しておきますね」

 キットくんは「ハセガワ先生も手伝ってくれるそうです」と小さな声で言いながら、スマホを操作した。

 僕が手伝うのは、キットくんに頼まれたからだ。相談会にシーバがいるからじゃない。

 僕は、何度も、心の中で言い聞かせた。

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